サイエンス

ブラックホールや宇宙の始まりの「特異点」とは一体何なのか?


宇宙には、既存の理論では説明がつかない「特異点」というものが存在します。天文学やブラックホールに関する話題の中に出てくるものの、実際にどんなものなのか具体的に分からないことも多い特異点について、科学系ニュースサイトのLive Scienceが解説しました。

What is a singularity? | Live Science
https://www.livescience.com/what-is-singularity

・目次
◆そもそも「特異点」はどんな点なのか?
◆ブラックホールの「重力の特異点」
◆宇宙検閲官仮説と「裸の特異点」
◆ビッグバンの前にも「特異点」があったのか?

◆そもそも「特異点」はどんな点なのか?
「特異点」は、人工知能や人文科学などの研究分野の中にも出てくる言葉ですが、物理学者が宇宙を論じる際に出てくる場合は、「宇宙を理解するのに使う数式が誤作動する場所」を指します。

例えば、「1/X」を含む方程式でXの値がゼロになると、方程式の値が無限大になってしまい、理論が成り立たなくなります。通常の場合、理論が成り立たなくなるのは方程式に何かが不足している時や、そんなことが起きるのは物理的にあり得ないケースですが、物理学にはそれで片付けることができない特異点がいくつかあります。そのうち最も有名なのが、重力場が無限大になる「重力の特異点」です。


◆ブラックホールの「重力の特異点」
重力の特異点は、「これまでで最もうまく重力について説明している理論」と言われているアインシュタインの一般相対性理論に登場するものです。

一般相対性理論を元にブラックホールを発見した物理学者のカール・シュワルツシルトは、まず一般相対性理論を普通の星のような球状の質量を持つシンプルな天体に当てはめてみました。すると、天体の中心からシュワルツシルト半径の距離だけ離れた位置に特異点、つまり一般相対性理論が成り立たなくなる場所があるという計算結果が出ました。


この特異点は、一般相対性理論を破綻させかねないものとして長い間議論の種となっていましたが、研究が進むにつれて「シュワルツシルト半径より星の半径の方が大きければ問題ない」ことが分かりました。例えば、太陽のシュワルツシルト半径は3kmなのに対して太陽の半径は約70万kmもあるので、太陽は一般相対性理論で十分に説明可能です。この特異点は、場所によっては特異点にならないことから「座標特異点」といいます。

しかし、星の半径がシュワルツシルト半径を下回った場合の問題は解決されませんでした。しかも、現実にある天体がシュワルツシルト半径より小さくなるほど強く圧縮されるとブラックホールになり、その中心では強力な重力で物体が無限に小さな点に押しつぶされてしまいます。この点が「真の特異点」であり、また重力が無限大になることから「重力の特異点」と呼ばれることもあります。

◆宇宙検閲官仮説と「裸の特異点」
特異点の問題が解決できないのでやはり一般相対性理論は破綻しているかというと、実はそうではありません。なぜなら、光さえ脱出できないブラックホールの内側からは何も出てこられず、ブラックホールの内側を観測することもできないので、ある意味では「ブラックホールの中心にどんな特異点があろうとこの世界の事象とは何の関係もない」と言えるからです。


このように、ブラックホールの内側と外側を隔てる境界面を事象の地平面といいます。また、特異点は常に事象の地平面の向こうにあるという考え方は、あたかも誰かが特異点を隠しているように見えることから、「宇宙検閲官仮説」と名付けられました。

ところが、近年行われた理論的な研究やコンピューターシミュレーションにより、事象の地平面に守られずに露出した状態の特異点、つまり「裸の特異点」が存在しうる可能性が指摘されています。本当に裸の特異点があるかどうかは、研究者の間でも意見が分かれているそうです。

◆ビッグバンの前にも「特異点」があったのか?
一般相対性理論や実際に宇宙を観測した結果から、宇宙は約137億7000万年前にビッグバンが発生してから今日まで広がり続けていることが分かっています。従って、時間を約137億7000万年巻き戻すと宇宙が膨らむ前に存在した無限に小さな点、つまり特異点にたどり着きます。しかし、前述の通り特異点では一般相対性理論は通用しません。


この問題を解決するため、研究者は一般相対性理論を超えた量子重力理論を探しており、その候補の1つに因果集合理論があります。

この因果集合理論では、宇宙は無限に続く因果関係によって成り立っていると考えているため、何かが起きる前には必ず何かが起きていたことになります。つまり、宇宙は無限の昔から続いていることになるため、宇宙には始まりもなかったことになり、ビッグバンの前に存在したという特異点の問題も解決されます。具体的にどんな理論なのかは、以下の記事にまとめられています。

「宇宙には始まりなどなかった」との指摘、ビッグバンの前から宇宙は無限に続いていたという新説とは? - GIGAZINE

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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