サイエンス

「宇宙の膨張は加速していない」という可能性が超新星の観測データの再分析で示される


通説では「宇宙は膨張を続けており、その勢いは増している」と考えられてきましたが、インドのタタ基礎研究所とイギリスのオックスフォード大学の研究チームが1700件以上の超新星の観測データを収録したカタログを使い、宇宙の「加速膨張」を裏付ける証拠が得られるかを検証した結果、「膨張は加速していない」可能性があることが明らかになりました。

Pantheon+ supernovae corrected for progenitor age indicate the universe is decelerating | Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
https://academic.oup.com/mnras/article/549/3/stag844/8701424

Analysis of supernova data questions evidence for cosmic acceleration | University of Oxford Department of Physics
https://www.physics.ox.ac.uk/news/analysis-supernova-data-questions-evidence-cosmic-acceleration


Dark energy debunked? Cosmic acceleration may be an illusion | ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2026/09/260907201600.htm


宇宙の膨張を調べる手がかりの1つが、白色矮星の爆発で生じる「Ia型超新星」です。Ia型超新星は、光の色や明るさが時間とともに変化する様子から本来の明るさを推定することができ、本来の明るさと地球から見た明るさを比べると地球から超新星までの距離を求められます。

また、宇宙の膨張によって光の波長が伸びる現象を「赤方偏移」といいます。宇宙の膨張が加速している場合と減速している場合では、赤方偏移から予測される超新星までの距離が異なるため、超新星の明るさから求めた距離と比べることで、宇宙がどのように膨張してきたかを調べられます。宇宙論の標準モデルでは、正体不明の「ダークエネルギー」が宇宙の膨張を加速させていると考えられています。

スビル・サーカー名誉教授らの研究チームは、爆発前の星の年齢によって超新星の本来の明るさが変わる可能性に注目しました。先行研究では、超新星の光の色や明るさの変わり方を考慮しても、星々の平均年齢が若い銀河で生じた超新星ほど暗くなる傾向が報告されています。先行研究の著者らは、この傾向を爆発前の星が若いほど超新星が暗くなるためだと解釈しました。

本来暗い超新星を「実際より明るい」と想定すると、地球から暗く見える理由を「遠くにあるから」と考え、超新星までの距離を過大に見積もってしまいます。この距離の見積もりは宇宙の膨張の推定にも影響するため、サーカー氏らは、爆発前の星の年齢による超新星の明るさの違いを考慮しても「宇宙の膨張は加速している」といえるのかを検証しました。


研究チームが分析に使ったカタログ「Pantheon+」には、1550個のIa型超新星について、明るさの変化を記録した1701件のデータが収録されています。研究チームは爆発前の星の年齢による超新星の明るさの違いを取り除くため、カタログから選んだ超新星の明るさのデータを補正しました。補正の計算には、先行研究で赤方偏移ごとに推定された爆発前の星の平均年齢が使用されています。

サーカー氏らによると、宇宙論の標準モデルで想定されるダークエネルギーが宇宙の膨張を加速させているなら、加速は特定の方向に偏らず現れるはずとのこと。そこで分析では、どの方向にも共通する宇宙の膨張の変化と、観測する方向による膨張の違いを分けて調べました。


研究チームが爆発前の星の年齢に応じて超新星の明るさを補正すると、どの方向にも共通する膨張の変化は減速を示しました。つまり、宇宙全体としては広がり続けているものの、その勢いは弱まっていると推定されたことになります。

一方で、特定の方向では膨張が加速しているように見える傾向が残り、その強さは明るさの補正前とほとんど変わりませんでした。

研究チームは、この方向による違いに、観測地点である地球の動きが影響している可能性があると考えています。地球や太陽を含む天の川銀河は、宇宙の膨張に伴う動きに加えて周囲の銀河とともに移動しています。地球も天の川銀河と一緒に動いているため、超新星を観測する場所自体も移動していることになります。サーカー氏によると、宇宙の膨張が加速しているように見える傾向は、これらの銀河が移動する方向で強く、遠方の超新星では弱まるとのことです。

サーカー氏らは、今回の分析では宇宙全体が加速膨張しているという証拠は得られなかったとして、その加速をダークエネルギーで説明する従来の考え方に疑問を投げかけました。


ただし、超新星の明るさを爆発前の星の年齢に応じて補正する必要があるかどうかには異論が出ています。通常の分析では、超新星が属する銀河内の星々の総質量などを考慮して超新星の明るさを補正します。サウサンプトン大学のフィル・ワイズマン氏らがこの補正を加え、サーカー氏らが補正の根拠とした先行研究を検証したところ、超新星の明るさと銀河内の星々の年齢には明確な関係が見られなくなったとのことです。この結果から、ワイズマン氏らは、銀河内の星々の年齢に関係する超新星の明るさの違いも従来の補正で考慮できていると主張しています。

また、ワイズマン氏らは、銀河内の星々の平均年齢が超新星として爆発した星の年齢をそのまま表すわけではないと指摘し、こうした検証から「宇宙の加速膨張を支持する証拠は揺らがない」と結論付けました。サーカー氏らも論文でこの異論に触れ、爆発前の星の年齢と超新星の明るさの関係については議論が続いていると認めています。

サーカー氏らは今後、ベラ・C・ルービン天文台の広域観測計画「時空間レガシーサーベイ」で得られるデータを使って今回の分析結果を確かめたいとしています。時空間レガシーサーベイでは数十万個の超新星の観測が見込まれています。

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in サイエンス, Posted by log1b_ok

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