サイエンス

「不老長寿」の実現にはどんな困難が立ちはだかっているのか?


人類の永遠の目標とも言える不老長寿については、「あと30年もすれば寿命1000年の時代が来る」ともいわれていますが、これは「あと30年もすれば寿命を1000年にできるほど技術が進歩しているはず」という予測に近いものです。そこで、機械学習で創薬を促進する「PostEra」の研究者であるMilan Cvitkovic氏が、「不老長寿はどんな過程で実現され、それまでにはどんな問題を解決しなければならないのか?」を具体的に考察しました。

Milan Cvitkovic
https://milan.cvitkovic.net/writing/longevity/

Cvitkovic氏は、不老長寿の実現可能性を考える上で、まず「老化」の原因を整理した上で、「老化を食い止める技術」の研究にはどのような課題があるのかを検討しています。

◆老化
Cvitkovic氏によると、記事作成時点で判明している老化の原因は、大きく分けて以下の10点だとのこと。

・核DNAの損傷
幹細胞の枯渇
・老化した細胞の蓄積
ミトコンドリアDNAの損傷の蓄積
・炎症
・染色体末端を保護する役目を持つテロメアの短縮
タンパク質恒常性の喪失
・アルツハイマー病の原因の1つとされる細胞外凝集体
・細胞の代謝や老化に関係しているとされるインスリン及びインスリン様成長因子シグナリング(IIS)の減少
エピジェネティックな変化(DNAの塩基配列の変化なしに起こる変化)


◆老化に対抗する技術
上記のような老化の原因を解消すべく、マウスを用いたさまざまな実験や研究が日夜行われています。Cvitkovic氏は、記事作成時点で発表されている主な老化の研究をピックアップし、「寿命を伸ばす要因/それによって延長されたマウスの寿命/人間への応用が現実的か」を以下のようにまとめました。

自然突然変異/68%/現実的
生殖系列遺伝子治療/46%/現実的
食事療法/32%/現実的
小分子薬剤/27%/現実的
体細胞遺伝子療法/24%/現実的
生物学的製剤/16%/現実的
細胞療法/12%/現実的

Cvitkovic氏は、人間で実験することが違法であることを理由に、「自然突然変異」と「生殖系列遺伝子治療」を非現実的な技術に分類しました。また、食事療法についても「極端なダイエットの話になってしまう」との理由から非現実的と位置づけています。


このように、人間にも使える見込みがある技術は、いずれも伸ばせる寿命が比較的短いことについて、Cvitkovic氏は「ヒトで使用可能な治療法は効果が低いことを示していると理解することもできるし、研究者が実験室でできることに注力した結果と考える事もできます。いずれにせよ、私たちが使える技術は、効果の面でも使いやすさの面でも、不十分なことは明らかです」と指摘しました。

長寿を望む人は多いにもかかわらず、老化に対抗する技術の研究があまり進んでいないのは、こうした技術の研究には非常に大きな困難が伴うためです。例えば、内分泌疾患の影響で老化が遅いマウスの研究は、マウスの取り扱いが誤っていて早死にしてしまうケースが多かったことから、当初は「急速な老化に関連する研究」だとみなされていました。この事例は、寿命との関係が深い特定の疾患をテーマにした動物実験がいかに困難かを物語っていると、Cvitkovic氏は述べています。


また、2009年~2018年までにアメリカ食品医薬品局(FDA)が承認した、医薬品の研究期間と研究費用を算定した2020年の研究では、「新薬の開発には10年の歳月と10億ドル(約1050億円)の費用がかかる」と推測されており、医療に関する研究はコスト面でも多大な困難が伴うことが分かっています。

以上の点を踏まえて、Cvitkovic氏は「老化をどれだけ理解しているかを過大評価してはならず、また完全に理解しないままどれだけ進歩できるかを過小評価してはなりません」と述べて、今後の長寿に関する研究の進展に期待を示しつつ、その実現性についての判断は避ける姿勢を示しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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