大量消費に依存する経済はパンデミックに脆弱で環境にも悪い、経済の転換を図るべきと研究者が主張
新型コロナウイルスのパンデミックは世界中の経済に影響を与えており、アメリカでは消費財の購入や飛行機旅行、レジャー活動、自動車などへの支出が減少したと報告されたほか、世界の各地で温室効果ガスの排出量が減少したことも確認されています。クラーク大学の環境政策・環境サイエンス教授のHalina Brown氏は、「パンデミックによって大量消費に依存するアメリカ経済の脆弱性が浮き彫りになった」と指摘しています。
The US economy is reliant on consumer spending – can it survive a pandemic?
https://theconversation.com/the-us-economy-is-reliant-on-consumer-spending-can-it-survive-a-pandemic-141244
パンデミックに伴う消費の減少は環境にとっては好影響かもしれませんが、社会や経済に対するダメージは大きなものです。景気の減退によって2020年4月の失業率は世界恐慌以降で最悪の14.7%を記録し、多くの企業が倒産に追い込まれ、人々の生活が苦しくなっています。
Brown氏は「消費社会は20世紀の社会構造です」と述べ、アメリカ社会に浸透した大量消費の概念により、「アメリカン・ドリーム」という単語は車や家、家具、電子機器を購入することの代名詞になっていると指摘。アメリカでは個人消費支出がGDPの7割近くを占めており、個人の消費行動が経済を支えているとのこと。
アメリカにおける消費社会の基礎が誕生したのは第一次世界大戦の後だそうで、これは広告業界の登場と消費者金融の広まりによって後押しされました。1920年代にマーケティング分野を開拓したエドワード・バーネイズは、製品の有用性よりも好感度や力強さ、セクシーさといった人間の欲求を利用することで人々に消費を促し、「消費者」という用語を広めました。
そして、現代の大量消費が意図的に形作られたのは第二次世界大戦後の1940年代後半~1950年代のことだったとのこと。この時期、戦時の工業生産が終了したため、企業は巨大な生産能力を軍事部門から民間部門へシフトする必要に迫られていました。そこで、復員軍人の失業問題にも対処する必要があった当時のハリー・トルーマン大統領は、「人々に向けて消費財を大量生産する」という解決策を見いだしました。
政府は復員軍人に対するローンなどを打ち出して家の購入を助けると同時に、政府支出の公共事業で道路やインフラストラクチャーを整備して、郊外に住宅を持つことを合理的な選択の一つにしました。また、社会保障が充実したことや労働組合による賃上げ運動も相まって、人々はより多くの金額を消費に回せるようになったそうです。
Brown氏は、「この歴史的な分岐点において、経済繁栄と社会的調和の基盤として消費者支出を増やすという共通の目的に向けて、企業・政府・労働者が一体となりました」とコメント。この協調の結果は驚くべきもので、アメリカの財およびサービスの生産量は1946年~1956年の間に2倍となり、1970年までにさらに倍増したとのこと。多くのアメリカ人が家を持ってショッピングモールに集うようになり、消費主義が基本的な価値観となるまでに、わずか四半世紀ほどしかかりませんでした。
また、リチャード・ニクソンとニキータ・フルシチョフが台所製品を前にして経済システムについて議論した「キッチン討論」の例に見られるように、「消費主義」は冷戦下において、ソ連の共産主義システムに対する資本主義システムの優位性の象徴となったとのこと。
ところが、現代において消費社会は再考を迫られているとBrown氏は主張しています。1950年代から消費社会が拡大を続けたことにより、「人間にとって基本的な快適さ」の概念が着実に大きくなってきました。今では誰もが最新テクノロジーを備えたデバイスを持ち、多くの家具が備えられた広い家に住むことを理想としています。
大量の物を購入して消費するライフスタイルは、二酸化炭素を多く排出することを意味しています。「収入が世帯における二酸化炭素排出量の予測因子として最良である」との研究結果もあり、この関係は政治的見解や教育、環境への態度に関係なく、さまざまな国で共通しているとのこと。
消費社会を維持するには高い環境コストが伴い、家庭消費の増加によってGDPが成長するにつれて温室効果ガスの排出量も増加します。科学者や政策立案者は「テクノロジーの発展によりエネルギー効率が高くなり、再生可能エネルギーへの移行が実現すれば将来の温室効果ガス排出量は減少する」と主張していますが、経済成長と温室効果ガスの排出量はリンクする傾向があります。
Brown氏は、新型コロナウイルスのパンデミックにより、消費に大きく依存している経済の脆弱性が明らかになったと主張。政府は消費社会に依存した経済を支援する方針を改め、教育・医療・公共交通機関・住宅・公園・インフラストラクチャー・再生可能エネルギーといった分野の公共支出や投資に重きを置くことで、アメリカがよりよい国になるとBrown氏は述べました。
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