目でものを見るために必要なタンパク質で「味も感知できる」と判明
カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究チームが、視覚受容体として機能するタンパク質「オプシン」が味覚受容体としても機能することを発見しました。研究チームはこの研究結果から、人間に新しい味覚受容体がある可能性を示唆しています。
Functions of Opsins in Drosophila Taste
(PDFファイル)https://www.cell.com/current-biology/pdf/S0960-9822(20)30112-3.pdf
Subtle flavors | EurekAlert! Science News
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2020-04/uoc--sf040220.php
以下は人の眼球の断面図です。虹彩によって絞り込まれた光は水晶体を通り、網膜に当たります。網膜に存在する視細胞には「ロドプシン」と呼ばれる視覚受容体が存在しており、このロドプシンが光の刺激によって構造を変化させ、その変化が情報となって神経に伝わり脳で処理されることで、人は物を見ることができるというわけです。
ロドプシンは、「オプシン」と呼ばれるタンパク質と「レチナール」と呼ばれるビタミンAの一種で構成されています。近年までオプシンは光の刺激に対してのみ反応するといわれていましたが、カリフォルニア大学サンタバーバラ校生物学科のクレイグ・モンテル教授が2011年に「ショウジョウバエがオプシンによって温度変化を感じ取っている」と発表しました。
モンテル教授と博士課程を終えたばかりのニコール・レング氏は、オプシン分子が信号増幅プロセスを介して微妙な化学変化の検出も行っているのではないかと考え、ハエの味覚を確かめる実験を行いました。
モンテル教授らは、キイロショウジョウバエに「砂糖のみ」「人間ならば苦味の元になるアリストロキア酸を少量混ぜた砂糖」の2つのエサを与えました。すると、キイロショウジョウバエは苦いエサを無視して、砂糖のみのエサを好んで食べたとのこと。
次に、オプシンを正常に発現しないように遺伝子を組み換えたキイロショウジョウバエを育てたところ、3種類あるオプシンのいずれか1つに欠陥があるハエは少量のアリストロキア酸を検出できず、砂糖のみのエサとアリストロキア酸の入ったエサをのどちらも同量ずつ食べていたことが判明しました。
ただし、砂糖に大量のアリストロキア酸を混ぜた場合は、オプシンに欠陥があるハエも避けていたとのことで、モンテル教授は「本来はオプシンがTRPA1チャネルという受容体を活性化させることでわずかな苦味も感知するが、大量のアリストロキア酸はオプシンに異常があるハエでも直接TRPA1チャネルを活性化させてしまうのではないか」と推測し、オプシンが本来なら感知できないレベルのアリストロキア酸を感知するためのタンパク質として働くのではないかとしています。
また、モンテル教授によれば、レチナールがオプシンと結合してロドプシンとなるように、アリストロキア酸もオプシンと結合するとのこと。また、わずかな光刺激でもロドプシンが反応するように、アリストロキア酸によって化学的に活性化されたオプシンは小さな信号を増幅する分子連鎖反応を行っていることが確認できたそうです。
今回の実験結果から、オプシンの役割は化学的なセンサーであることが本来の役割なのではないかとモンテル教授は推測しています。味覚は「自分の身に危険となるような化学物質をどうやって避けるか」を示すものであり、光を検出する能力よりも古くから生物が備え持つ生存機能の1つといえます。「今回の結果から、オプシンはショウジョウバエだけにとどまらず、人を含む哺乳類が持つ未知の味覚受容体である可能性も考えられます」とモンテル教授は論じました。
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