スパイによる諜報活動には「飲食店」が重要な鍵であると元CIA捜査官が明かす
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スパイが登場する映画などを見ると、スパイが情報提供者と密会する場所として、高級そうなレストランやカフェなどが使用されているシーンがあります。これらのシーンはある程度スパイの実態に即したものだそうで、アメリカの諜報機関である中央情報局(CIA)の元捜査官らが、スパイ活動において「飲食店」が重要な役割を果たしていると明かしています。
Ex-CIA Officer Reveals How Eateries Are Key To Spycraft : The Salt : NPR
https://www.npr.org/sections/thesalt/2019/10/16/770368584/eat-drink-and-be-wary-ex-cia-officer-reveals-how-eateries-are-key-to-spycraft
元CIA工作員のアマリリス・フォックス氏は2003年から2010年にかけて、CIAの工作員として世界16カ国のテロ組織ネットワークに潜入した経験を持つ人物。2019年には「Life Undercover: Coming of Age in the CIA」という回顧録を出版しているフォックス氏は、「レストランとカフェは多くの点でスパイ活動の生命線です」と語っています。
「レストランは政府関係者やテロ組織の一員など、私たちが探している人物と出会う機会を提供してくれます。これにより、次のテロ攻撃を予測または防止することに役立つかもしれません。時には偶然にターゲットを発見することもあります」と、フォックス氏は述べています。
また、2005年に「Blowing My Cover: My Life as a CIA Spy」という回顧録を出版した元CIA工作員のリンジー・モーラン氏は、「潜入した現地において外国人協力者を募集する『開発』段階では、食事や飲み物を利用してターゲットと面会します」「ターゲットの知人に見つからない場所が望ましいので、勤務地から離れた飲食店へターゲットを連れていきます。また、飲食店が比較的空いている時間を選び、レストラン内で秘密の会話に最適な席の位置を事前に用意しておきます」と証言しています。また、裏口があればより面会場所として優れているとのこと。
フォックス氏は面会に使用する飲食店の候補として、複数の出入口があったり、他の人から見えないブースや座席がある店はプラス評価になると述べています。さらに、基本的なことですが店の営業時間や、警察の見回りなども考慮する必要があるそうです。
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フォックス氏もモーラン氏も、CIAの工作員として採用されてから、バージニア州にある「the Farm(農場)」と呼ばれる秘密の訓練施設に送られました。農場では車をひっくり返したり壊したりする方法、拳銃の扱い方、パラシュート降下の方法、高速艇の操作、拷問に耐える方法、刃物で刺された傷を買い物袋とダクトテープで応急処置する方法、自殺の方法などがレクチャーされました。そして、そんな農場での訓練の中には、「レストランを偵察する方法」もしっかり含まれていたそうです。
実はフォックス氏はCIAに勤務する前にも、諜報活動における飲食店の重要性を実感した経験があります。フォックス氏は18歳のころからミャンマーへ渡り、民主化運動を展開していたアウンサンスーチー氏に対してインタビューを行うといった活動を行っていました。その際、現地の反体制派ジャーナリストと接触を試みたそうですが、ジャーナリストは「自分と最も安全に接触する方法は、ヤンゴンにあるカフェのトイレタンクにメッセージを残すことです」と伝えてきたとのこと。
伝えられた通りにフォックス氏がカフェへ向かい、トイレのタンクを探したところ、折り畳まれた手紙を発見しました。手紙には「フライドポテトを注文してください」と書かれており、実際にカフェでフライドポテトを注文すると、ポテトを持って来たウェイターがジャーナリストの協力者だったとフォックス氏は述べています。
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スパイにとってレストランは情報を交換する場として最適であるだけでなく、情報提供者が料理を食べる最中に、相手の癖や性格、冷静さなどを観察する機会も与えてくれます。一方、これはスパイ側だけの特権ではなく、面会相手にとっても、接触を図ってきた諜報員が信頼に値するかどうかをチェックする機会を提供します。
フォックス氏はミャンマーにおいて、民主化を推進するメンバーとして引き入れたかったとある教授と、一軒のパブで面会する機会があったとのこと。フォックス氏は自分たちの活動や目標について語ったそうですが、教授は「私はあなたの冒険活劇の物語を信じられません」「飲み物をありがとう」とだけ告げて去ってしまい、仲間に引き込むことに失敗してしまいました。
スパイ小説の中には敵と激しく交戦したり派手な立ち回りをしたりするものもありますが、フォックス氏によると、スパイ活動のほとんどは地味なものであり、面会相手とカフェでコーヒーを飲む時間を無限に過ごす必要があるそうです。一方、作戦ごとに変名を使い分けることは現実の活動でも多かったそうで、作戦内容と変名の組みあわせが一致しているかどうかには注意を払う必要があったとのこと。
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映画などの中ではスパイが高級そうなレストランで重要人物と面会するシーンも多く、フランス料理と一緒にワインなどを飲んでいる様子を連想する人も多いかもしれませんが、必ずしも全ての場合に当てはまりません。「アメリカ政府の資金でエレガントなディナーを食べることもありますが、汚らしい店で不愉快な相手と一緒にいることもあります」とフォックス氏は指摘しました。
また、モーラン氏はレストランをターゲットとの面会場所に指定したことで、困った勘違いをされたケースがあるそうです。有用な情報を持っていそうなアルバニアの男性と面会するため、男性の職場や住所から離れた場所で面会をしたモーラン氏は、男性から「この人は自分とロマンチックな関係になりたいのだ」と思い込まれ、困った思いをしたと述べています。「恋愛関係になりたいわけではない」とハッキリ告げた後も、男性はモーラン氏と会うたびにデートのように振る舞ってきたそうです。なお、男性は既婚者だったとのこと。
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また、面会相手と会う場所も重要ですが、情報提供者が望んだタイミングで上手く連絡を取り、指定した場所で落ち合うことも重要です。どこか指定の場所に目印を残しておく方式を好む工作員もいますが、あるCIAの教官は、「スターバックスのギフトカード」を連絡ツールとして利用する方法を考案したとのこと。
この方法では、まず工作員が情報提供者に対しギフトカードを配布し、「面会したい用件ができたらこのカードでコーヒーを買ってください」と指示します。工作員は定期的にギフトカードの残高を調べ、特定の情報提供者に渡したカードの残高が減っていた場合、その人物が面会したがっていることがわかるため、予め指定していた場所で落ち合うことができます。ギフトカードは個人と結びつけられないため、比較的安全な連絡方法だといえます。
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なお、フォックス氏もモーラン氏も既にCIAを退職していますが、一般人に戻ってもなかなかCIA時代の癖が抜けない模様。モーラン氏は、よく子どもたちから「レストランの座席を選ぶ時に、CIAの作戦に最適な席を選びがちだ」と言われるほか、「他の人たちの会話に聞き耳を立てたり、ボディランゲージを分析したり、見かけた人物の関係について推測するのを止めてくれ」とお願いされることもあると語りました。
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