完全自律飛行のドローンで大発生する害虫の98％を駆除することに成功

中国・広州に拠点を構えるドローンメーカーのXAGは、農園にはびこる害虫を退治するために、ドイツの農薬メーカーであるバイエル クロップサイエンスと協力して、自律運転で農薬を散布するドローンの開発を行っています。その効果はすさまじく、XAGはドローンの導入によって害虫の98％を退治することができたと報告しています。

“Debug the Fall Armyworm” – XAG Combats Alien Pests with Crop Spraying Drones
https://www.xa.com/en/news/official/xag/57

Drone as New Tech to Battle the Crop-Devouring Fall Armyworm
https://www.xa.com/en/news/application/54

アメリカシロヒトリは北アメリカを原産とするガの一種。アメリカシロヒトリの幼虫はトウモロコシやサクラといったさまざまな植物の葉を食べて農作物に食害を与えるため、世界中の農家にとっては悩みの種です。また、成長したアメリカシロヒトリは最大100kmまでの距離を飛ぶことが可能で、一生涯に1000個もの卵を産み付けます。この脅威的な移動能力と繁殖能力により、近年アメリカシロヒトリはアフリカとアジア諸国で大発生しています。XAGによると、2018年のアメリカシロヒトリによる被害総額は最大46億ドル(約5000億円)に達すると推定されるそうです。

アメリカシロヒトリを駆除するためには、農薬を散布するか、手作業で幼虫を地道に取り除いていくしかありません。しかし、どちらの方法も精度が低く、決して効果的とはいえないのが現実だとのこと。さらに、農薬散布は散布者の健康を著しく損なう可能性もあります。

XAGが開発する「precision UAS spraying solution(高精度ドローン散布法)」は、最小限の肉体労働で最大限の効果を得るための農薬散布方法です。ドローンにはミクロレベルの液滴を強力な下降気流で吹き付ける機械式スプレーが取り付けられていて、農薬を農場へ均一に散布することができます。

実際にXAGの農業用ドローンが自動で農薬を散布する様子は以下のムービーで見ることができます。

XAG | Fruit Tree Plant Protection Solution - YouTube


XAGが独自開発した飛行制御システムとAIによって、ドローンがさまざまな環境や天候にあわせて自動飛行を行うため、高い操縦技術を持たなくても導入できるのが高精度ドローン散布法の強み。畑に設置した基地局を元にした位置情報システムと、ドローンに搭載されたレーダーを用いて、アメリカシロヒトリの幼虫が最も活発になる夜間に必要な場所だけに散布を行います。

通常の農薬散布だと、幼虫が葉の裏側に隠れていると駆除しきれないこともあるそうですが、高精度ドローン散布法であれば葉の裏側にも的確に農薬を散布することができるとのこと。高精度ドローン散布法の「必要な場所にだけピンポイントに必要な量だけ散布する」というシステムによって、農薬の使用量は30％、農業用水の使用量は90％も削減できるそうです。

2019年4月、XAGとバイエル クロップサイエンスは中国の広西チワン族自治区に広がるトウモロコシ畑とサトウキビ畑で、低毒性の新型殺虫剤を搭載したドローンを使って、高精度ドローン散布法によるアメリカシロヒトリを駆除する実験を行いました。その結果、畑に生息する幼虫の98％が死亡したことが判明しました。

また、2019年7月には中国政府主導でドローンチームを編成し、7台の新型ドローンを使っておよそ270ヘクタールの農地で害虫被害を最小限に食い止めたとXAGは報告しています。

なお、XAGの農業用ドローン事業は2018年から日本にも進出していて、XAGの公式YouTubeチャンネルでは日本の水田でドローンによる農薬の自動散布を行うデモムービーが公開されています。

XAG Japan P20 Plant Protection UAS Spraying for Rice in Kasai - YouTube