SpaceXが打ち上げたインターネット用衛星が気象観測用の人工衛星と衝突未遂
by Rawpixel Ltd
欧州宇宙機関(ESA)は、宇宙企業SpaceXが推進する「Starlink」プロジェクトの人工衛星とESAが所有する人工衛星のコースが重なったため、衝突回避モードを実行したことを発表しました。ESAは「このモードを実行しなければ人工衛星は地球上空で衝突した可能性があった」と述べています。
For the first time ever, ESA has performed a 'collision avoidance manoeuvre' to protect one of its satellites from colliding with a 'mega constellation'#SpaceTraffic pic.twitter.com/kmXvAgpj1U
— ESA Operations (@esaoperations) 2019年9月2日
Satellite forced to dodge 'mega constellation' floating above Earth | The Independent
https://www.independent.co.uk/life-style/gadgets-and-tech/news/esa-spacex-satellite-mega-constellation-starlink-space-junk-a9089131.html
SpaceX Starlink satellite nearly collides with European satellite - CNET
https://www.cnet.com/news/spacex-starlink-satellite-nearly-collides-with-european-satellite/
ADM-Aeolous(アイオロス)は、ESAが2018年8月に打ち上げた人工衛星です。ギリシャ神話に登場する風の神にちなんで命名されている通り、アイオロスは高度320kmの軌道から地球上の風の動きを観測する衛星で、直径150cmの大型望遠鏡やレーザードップラー測定装置「ALADIN(Atmospheric LAser Doppler INstrument)」を搭載しています。
一方、イーロン・マスクCEO率いる宇宙企業SpaceXは、ギガビット級のインターネット網構築に向けて、4000基以上の人工衛星を打ち上げるStarlinkプロジェクトを2016年に立ち上げました。Starlinkプロジェクトは2018年3月にはアメリカの連邦通信委員会(FCC)から承認を受け、2019年2月に試験衛星2基が、2019年5月下旬にSpaceXのロケット「Falcon 9」で初期型衛星60基が打ち上げられました。
SpaceXが人工衛星を用いてインターネット環境を構築するStarlinkプロジェクト用の最初の衛星60基を打ち上げ - GIGAZINE
しかし、ESAに所属するスペースデブリの専門家が、アイオロスとStarlinkの衛星の1つが衝突する危険性が高いことを確認。ESAから手動で衛星を操作できる「衝突回避モード」を実行し、衝突の可能性がある軌道からさらに上の高度に衛星を推進させ、回避に成功したそうです。
ESAによると、衝突回避モードを実行した事例は2018年で28回あったとのことですが、そのほとんどが稼働停止した衛星やスペースデブリを回避するためのものでした。Starlinkの衛星のようなアクティブに稼働している衛星を回避するために衝突回避モードを実行することは非常に珍しいケースだとのこと。
It is very rare to perform collision avoidance manoeuvres with active satellites. The vast majority of ESA avoidance manoeuvres are the result of dead satellites or fragments from previous collisions#SpaceDebris pic.twitter.com/mjbdoFfCPa
— ESA Operations (@esaoperations) September 2, 2019
万が一衝突してしまった場合、非常に高価な衛星が失われてしまうだけではなく、その破片がスペースデブリとして軌道上に漂い続け、さらに他の人工衛星に損傷を与えるという負の連鎖が発生する可能性も十分考えられます。地球上の人類の文明は通信衛星やGPSによって大部分が支えられているため、スペースデブリを増えることで人類の文明が立ちゆかなくなる危険も指摘されています。
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Starlinkの衛星にも自動で軌道を修正してスペースデブリを回避する機能が搭載されていますが、今回はその自動回避機能が動作しなかった様子。技術系ニュースを扱うcnetはSpaceXに問い合わせましたが、コメントは得られなかったそうです。
もしStarlinkが計画通りに4000基もの衛星を宇宙に打ち上げた場合、同様の問題が起こった時にいちいち手動で衝突を回避するのは非常に困難になり、「衝突を手動で回避するのは不可能になる」とESAは警告。さらに、ESAは人工知能を利用して衛星回避を自動化する計画を明らかにしました。
なお、Starlinkプロジェクトには「4000基もの人工衛星が太陽や星の光を反射してしまうため、天体写真に余計な光が入り、天体観測が正しく行えなくなる」と、光害を訴える意見も一部の科学者や天文学者から出ています。
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