サイエンス

A型の血液をO型に変え誰にでも輸血可能にする酵素が人間の腸内から発見される

by qimono

人間が持つ血液型にはA型・B型・O型・AB型などが存在し、輸血の場合には患者に適合した血液型を選択する必要がありますが、O型は「誰にでも輸血できる」血液型であることが知られており、緊急時には他の血液型の代替として輸血されることがあります。ブリティッシュコロンビア大学の研究者らはA型の血液をO型に変換する酵素の組みあわせを発見し、「万能血液の製造が大きく前進した」と発表しました。

An enzymatic pathway in the human gut microbiome that converts A to universal O type blood | Nature Microbiology
https://www.nature.com/articles/s41564-019-0469-7

Type A blood converted to universal donor blood with help from bacterial enzymes | Science | AAAS
https://www.sciencemag.org/news/2019/06/type-blood-converted-universal-donor-blood-help-bacterial-enzymes

アメリカでは通常の手術や緊急手術、定期的な輸血などを含めると毎日1万6500リットルもの血液が輸血されているそうです。しかし、輸血される血液は患者の血液型に適合していなければならず、誤った血液型の血液を輸血することは致命的な事態になり得ます。


血液中に含まれる赤血球の表面には、A/B型抗原と呼ばれる糖が鎖状に連なってできた糖分子が存在し、この糖分子の末端の違いによってそれぞれの血液型が分類されています。A型の人がB型の血液を輸血されるといった事態になると、免疫系が本来の血液抗原とは違う抗原に対して攻撃を行ってしまうとのこと。

ところが、O型の血液にはA/B型抗原が存在しないため、違う血液型の患者に輸血しても免疫系から攻撃されません。そのため、O型はどの血液型の患者に対しても輸血可能な万能血液であると考えられており、適合する血液が足りない緊急時の手術などで重宝されています。そしてこの考えを基に、「血液中から免疫反応を呼び起こす抗原を除去することによって、万能な血液を作り出せるのではないか」と、科学者らは研究を続けてきました。

by 200degrees

これまで、全体で2番目に多い血液型であるA型の抗原を除去し、A型の血液を万能血液に変換するという試みが行われてきました。しかし赤血球の表面から糖分子を除去できる既知の酵素では、経済的に釣り合うほど効率的な結果が得られていなかったとのこと。

そこでブリティッシュコロンビア大学の化学生物学者であるスティーヴン・ウィザーズ氏によって率いられた研究チームは、人間の腸内細菌からより有効な酵素を探すことにしました。腸内細菌の中には腸壁に張り付き、糖を多量に含む糖タンパク質の混合物・ムチンを食べる種類があります。ムチンの糖分子は血液型を分ける決め手となる、赤血球の表面にあるA型抗原と似ているそうです。

そんなムチンを食べる微生物たちのDNAを、研究チームは人間の便試料から分離。ムチン分解酵素が含まれるDNAコードを切り取り、実験で広く使われている大腸菌の中に組み込んで、いずれかの大腸菌がムチンに似たA型抗原の糖分子を分解するタンパク質を生産するのかどうかを、研究者はモニタリングしました。

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当初のうち、この実験は失敗したかに思われていました。しかし、Flavonifractor plautiiという腸内細菌から得られたムチンを分解する酵素のDNAを2つ同時に試したところ、すぐに抗原の糖分子が除去されたことが判明。人間の血液中でも、少量の分解酵素をA型の血液中に加えるだけで糖分子が除去されることが確かめられました。

この酵素が広く使用可能となれば、輸血用血液の多くを占めるA型がいずれも万能血液に変換できることとなり、適合する血液不足の問題が大きく緩和されるとみられています。一方でウィザーズ氏は今後の研究で、今回発見された酵素の組みあわせが赤血球表面の本来必要なものまで除去していないかどうかを確かめたり、血液中のA型抗原全てを確実に除去する方法を確立したりする必要があると指摘。実用化には、まだいくつかの障害を乗り越える必要があるそうです。

by Chris Gladis

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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