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ウェブブラウザ草創期に消えていった多数のブラウザたち

By National Science Foundation

Chrome・Safari・Firefox・Edgeなどのようにウェブサイトの閲覧時に用いるウェブブラウザの歴史は、1990年12月の「WorldWideWebブラウザ」から始まりました。その草創期には数多くのブラウザが生まれましたが、多くは時代の波に飲まれてしまい、今では名前を聞いてもピンとこないものも多数あります。

Web Browser History - First, Early
https://www.livinginternet.com/w/wi_browse.htm

Before Netscape: The forgotten Web browsers of the early 1990s | Ars Technica
https://arstechnica.com/information-technology/2019/05/before-netscape-forgotten-web-browsers-of-the-early-1990s/

物語は、のちにハイパーリンクでウェブページが接続されるという「World Wide Web」を開発したティム・バーナーズ=リーが1980年6月に欧州原子核研究機構(CERN)に雇われたことから始まります。

by Jarle Naustvik

当時CERNが抱えていた問題点とは、「多くの重要な情報がデータ化/文書化されずに、職員の頭の中にだけ存在する」というものでした。バーナーズ=リーは自身の自由時間を使ってこの問題に取り組み続け、CERNの粒子加速器の制御システムを改善するという業務を半年間、イメージ・コンピュータ・システムズ社の技術デザインの責任者を4年間勤め上げた後、CERNに戻ってきます。バーナーズ=リーは1990年11月に「World Wide Webプロジェクト」を立ち上げ、同12月には世界初のウェブブラウザ、WorldWideWebを完成させました。そして1992年11月、WorldWideWebブラウザの各種コンポーネントをC言語で書き直し、HTTPによる通信やHTMLの構文解析や表示など、ウェブブラウザに必要な機能が多数含まれるインターネットアプリケーション用API「libwww」をリリースしました。

libwwwの公開後、さまざまなウェブブラウザが開発されるようになります。

・WorldWideWebブラウザ
ティム・バーナーズ=リーが開発した「世界初のウェブブラウザ」で、基本的なスタイルシートを表示することが可能。しかし、対応しているOSがNeXTSTEPに限られました。実際にWorldWideWebブラウザがどのようなものだったのかは、以下の記事で確認可能です。

世界初のウェブブラウザ「WorldWideWeb」をブラウザ内で体験できるサイトをCERNが公開 - GIGAZINE


・Line Mode Browser
WorldWideWebブラウザの「NeXTSTEPのOSにしか対応していない」という欠点を直すため、バーナーズ=リー率いるCERNのチームが開発した新たなブラウザが「Line Mode Browser」でした。どんなOSでも動くように設計されていましたが、WorldWideWebブラウザーが編集機能を備えていたのに対して、Line Mode Browserは閲覧専用でした。

・Erwise
Erwiseは1991年にフィンランドの大学生4人によって開発された、世界で初めてグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)を搭載したウェブブラウザです。ページ内部の単語検索や、新しいウィンドウでリンク先のページを開く機能などが搭載されていました。


しかし、当時のフィンランドは深刻な不況に陥っており、ベンチャー企業の立ち上げが困難だったためErwiseを事業化することはできず、1992年4月にリリースされたものが最終版となりました。

・ViolaWWW
Pei-Yuen Wei(魏培源)によって開発されたUNIXベースのプログラミング/スクリプト言語「Viola」を元にして作成されたウェブブラウザが「ViolaWWW」です。1992年5月にリリースされたViolaWWWでは、スクリプト埋め込みや、スタイルシート、表のレンダリングが可能でした。しかし、UNIX上でGUIを構築できるX Window System上でのみ動作するウェブブラウザでした。


・MidasWWW
MidasWWWは、CERNを訪問してバーナーズ=リーに感銘を受けたというSLAC国立加速器研究所のトニー・ジョンソンが1992年夏に開発したウェブブラウザです。MidasWWWは化学式を直接紙に出力できるPostScript文書の表示が可能だったため、物理学者にとって最適で、インターネットを活用する高エネルギー物理学者が急増したそうです。

・Samba
バーナーズ=リーとともにWorld Wide Webプロジェクトを立ち上げたニコラ・ペローロバート・カイリューによって開発されたMac初のウェブブラウザです。1992年末ごろに完成したものの、後に登場するMosaicに負け、消え去ったそうです。

・Mosaic
ウェブブラウザ史の草創期に大きな成功を収め、ウェブブラウザの転換期をもたらしたといえる存在が、1993年2月に登場したMosaicです。NCSA(アメリカ国立スーパーコンピュータ応用研究所)マーク・アンドリーセンによって開発されたMosaicはムービー、音楽、ブックマーク、履歴機能などがサポートされており、画像と文書を同一ウィンドウで表示することが可能でした。画像を配置する位置を示す<IMG>タグはMosaicで初めて使用され、現在でも使われています。そして、Mosaicの最も画期的なポイントの1つは、「インストールが極めて簡単」だったこと。もう1つのポイントは、MacやUNIXなど複数のOSに対応したクロスプラットフォームということでした。

By National Science Foundation

・Arena
ArenaはMosaicが登場したのと同じ1993年に、HTML3.0、CSS、PNGや、キャプション、画像の背景、サイズ変更可能なテーブルなど、のちのNetscapeやInternet Explorerなどでも活用される技術を初めて搭載したウェブブラウザとして登場しました。開発したのはヒューレット・パッカードに勤務していたデイブ・ラゲット


・Lynx
カンザス大学の学生だったルー・モントゥリらがハイパーテキストブラウザとして1992年に開発したブラウザ。1993年にインターネットに接続する機能が追加され、ウェブブラウザに進化しました。画像を表示しないテキストベースのブラウザであり、キーボードで軽快に操作可能。なお、記事作成時点でもまだバージョンアップが重ねられている現役のブラウザです。

・Cello
トーマス・R・ブルースが1993年に開発した、Windows向けとして初のウェブブラウザ。シェアウェアであり、Windows利用者の増加のおかげで発売直後は毎日500ダウンロードという順調な売れ行きをみせていたものの、NetscapeとInternet Explorerに挟まれる形で消滅したとのことです。

・IBox(Internet in a Box)
IBoxはインターネット接続ソフトウェアと、MosaicをベースにしたAirMosaicや、Airメール、Airニュースなどを1つにしたインターネット接続ソフトウェアパッケージです。ブラウザに関しては既存のMosaicを活用していたため目新しいものではありませんでしたが、政府や大学のユーザーに限らず、一般のユーザーがWorld Wide Webへアクセスしやすくなったという点が特筆されるそうです。

・NaviPress
1994年2月に登場したNaviPressは、WorldWideWebブラウザ以来、久々にHTMLエディタを統合したウェブブラウザで、簡単にウェブページをオンライン編集することが可能でした。NaviPressはAmerica Online(AOL)の買収により、AOLpressと名を変えて2000年まで販売されていました。更新は停止していますが、最終バージョンのAOLpress 2.0は互換性モードを使えばWindows 10でも使用可能だとのこと。

以上のように、ウェブブラウザ草創期にもさまざまなウェブブラウザが開発されていました。しかし1994年、Mosaicの開発者であるマーク・アンドリーセンは実業家のジェームズ・クラークからのメールによりMosaicに見切りをつけ、Netscapeシリーズの最初のバージョンであるNetscape Navigatorをリリースします。Netscapeは多大な成功を収め、1990年代初頭におけるブラウザ戦争をリードしますが、1995年8月、Windows95 Microsoft Plus!に標準インストールされていたInternet Explorerにシェアを奪われていきました。ブラウザ戦争はInternet Explorerが市場を制覇したことによって終息したように見えましたが、近年ではFirefox、Google Chromeなどが登場し、再度高まりを見せています。

Ars Technicaのマシュー・ラザーさんはウェブブラウザ草創期のブラウザの栄枯盛衰についての締めくくりとして、「ティム・バーナーズ=リーは『プロジェクトで重要なことは協力的であることと、そして何よりオープンが重要である』と説いていました。実際にウェブブラウザの歴史をたどると、さまざまな人々が協力しあって、時には互いに触発しあってブラウザを開発してきたことがわかります」と述べています。

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in ソフトウェア, Posted by darkhorse_log

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