北極圏の磁場が急激に移動して予定外の磁気モデル修正が行われる
by AlexAntropov86
地球の自転軸の最北端に位置する北極点は地理的に定義された固定のものですが、方位磁石が指す磁北は地球の磁場(地磁気)によって決まるものであり、地磁気の変化によって年々変動するものです。近年では地磁気の変動が活発になっており、地図やナビゲーションソフトウェアが正確に北を指すための磁気モデルと実際の磁北のズレが顕著となったため、世界磁気モデル(WMM)のアップデートが当初の予定より短い間隔でリリースされる事態になっています。
The north magnetic pole just changed. Here's what that means.
https://www.nationalgeographic.com/science/2019/02/magnetic-north-update-navigation-maps/
The magnetic field near the Arctic is acting weird - The Verge
https://www.theverge.com/2019/2/5/18211950/magnetic-field-arctic-world-magnetic-model-map-navigation-compass-north
北極点と違って年々変動するものとはいえ、磁北は長年にわたって安定した速度で移動してきたとのこと。1831年に初めて磁北の位置が特定された時点では、磁北はカナダのヌナブト準州にありました。それ以来、磁北は地理的な北の方角へと移動しており、近年では年間およそ50kmのスピードで磁北が移動しているとされています。なお、不思議なことに磁南はこの間もほとんど動いていないそうです。
英国地質調査所に在籍する地球磁場モデラーのウィリアム・ブラウン氏は、「1900年から1990年の間で磁北はおよそ1000kmほど移動しました。しかし、1990年代から2019年までの間にも磁北は1000kmほど動いており、移動スピードがかなり上昇しています」と述べました。
地理的な北と方位磁石が指す北に違いがあるため、地図制作者はコンパスが指す北に合わせて地図における北を微妙に修正しているとのこと。そのため、磁北が移動すれば地図は方角を微修正して再印刷されるほか、オンラインマップや軍などの政府機関によって使われる地図も磁北が移動するたびに修正されます。時にはコンパス上のポイントに応じて滑走路名が名付けられていたアラスカの飛行場で、WMMの変更に伴って滑走路名が変更されるといった事態も発生しているそうです。
by Anugrah Lohiya
コロラド大学ボルダー校およびアメリカ海洋大気庁(NOAA)の研究者であるアルノー・チュリアット氏は、この通常よりも早い磁北の移動は、地球内部の外核において流れている溶けた鉄の移動スピードが急速に変化したことが原因ではないかと考えています。
リーズ大学の地球物理学者であるフィル・リバモア氏も「磁北はとても敏感な場所です」と述べ、地球の外核における液体のジェット噴流が強まったことと磁北の移動がリンクしている可能性があるとしています。
リバモア氏は磁場の奇妙な振る舞いについて「綱引き」と表現し、カナダ北部の地中深くとシベリアの地中深くにおける磁場の綱引き結果、磁北が制御されているのかもしれないと説明しています。これまではカナダ側が綱引きで勝っていたために磁北の移動が緩やかだったのが、近年ではシベリア側の磁場が勝っているために、磁北が急速に移動しているのかもしれないとのこと。この磁場の綱引きに外核におけるジェット噴流が関わっている可能性がありますが、安易な結論に飛びつくことには慎重な姿勢をリバモア氏は示しました。
by Artem Bali
もっとも、磁北の移動は一般の人々の生活に大きな影響を与えるものではありません。北極のすぐ近くでコンパスを利用する際は、地理的な北とコンパスが指す北の違いが問題になるかもしれませんが、おおよそ北緯55度よりも緯度が低い地域ではほとんど影響がないとのこと。チュリアット氏は、「私は物事を誇張したくありません。低緯度では最近まで使われていたモデルでも問題なく、誤差が大きくなるのは北極周辺に限られます」と話しました。
WMMは通常、5年のスパンで更新が行われており、2015年に更新が行われたWMMは2019年末まで使われ続ける予定でした。しかし、2017年にはWMMの作成に携わる研究者の多くが「2015年に設定されたWMMを期限切れとなる2019年末まで使い続けるのではなく、2019年の初めにアップデートを行うべきだ」と判断したそうです。記事作成時点では3つの衛星が地球の磁場を90分ごとに測定しているほか、160の研究所が磁場を常時測定しています。これらの機関が収集した過去3年のデータを使って、新たなWMMは微調整されたとのこと。
アメリカの政府機関が閉鎖されていた影響により、新たなWMMの公開はしばらく延期されていたものの、2019年2月4日にめでたく最新版のWMMがNOAAによって公開されました。このモデルは2019年末まで使用され、その後はスケジュール通りの定期的な磁北アップデートが2020年に行われる予定。2025年までは同一のモデルが使用され続ける見込みです。
ブラウン氏は「磁場は変化するものです」と述べ、磁北が急速に移動していてもパニックになる必要はないとしています。また、英国地質調査所の研究者であるキアラン・ベガン氏も、「懸念されているような地磁気逆転の兆候はありません。もし地磁気逆転が起こったとしても、逆転には数千年がかかるでしょう」と述べました。
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