「あれは未曾有のできごとだった」とQualcommのCEOがBroadcomによる敵対的買収攻撃を振り返る

2018年3月、大手半導体メーカーのBroadcomが1000億ドル(約11兆円)以上で同業のQualcommを敵対的に買収しようとしていた試みが、ドナルド・トランプ大統領の発行した「断固買収阻止」の大統領令によって阻止されました。アメリカのみならず世界的に半導体産業を大きく揺るがす可能性すらあったこの買収劇について、攻撃を受けていたQualcommのスティーブン・モレンコフCEOは「未曾有(みぞう)のできごとだった」とBloombergのインタビューで振り返っています。

Qualcomm CEO Calls Blocked Broadcom Bid 'Unprecedented' – Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/videos/2018-09-26/qualcomm-ceo-calls-blocked-broadcom-bid-unprecedented-video

モレンコフ氏が当時を振り返る様子は、以下のムービーで確認できます。


Bloombergの記者から「Broadcomからの敵対的買収の攻撃があり、ホワイトハウスがそれを阻止しました。それについてはどのように流れを作ったのですか？」と問われたモレンコフ氏は……

「株主からの率直な意見に耳を傾けることに多くの時間を費やしました」と回答。このような事態においては「不確実性」が最も大きな問題になると語り、Qualcommの取締役会が事態に対して非常に用心深く行動するという聡明さを発揮したと振り返っています。モレンコフ氏はまた、もしその対処がうまくいってなかったとすると、Qualcommは今後の発展が見込まれる5Gの技術でBroadcomに大きく後れをとることになり、ひいてはアメリカが5Gの世界で優位性を発揮できない事態になっていた可能性があったとも述べています。

事実、Broadcomによる買収劇は今後の世界のモバイル通信技術に大きな影響を与えるものになるとも見られていました。Broadcomはアメリカにも拠点を置く企業ですが、当時は本社がシンガポールに置かれていました。そのため、Qualcommが買収されることでモバイル通信技術が国外に流出することを懸念したトランプ大統領とホワイトハウスが、政治的判断として買収にノーを突きつけたというのが、この一件の真相です。

Broadcomのクアルコム買収を阻止したトランプ政権の思惑--すべて5Gのため - CNET Japan
https://japan.cnet.com/article/35116277/

その結果について「CEOとして、感情はどのようなものですか？当たり前だと思ったのか、勝利したと思ったのか、それとも安堵したのか？」と問われたモレンコフ氏は、「どう反応していいものか、わかりません。実に前例のない未曾有の出来事でした。台本もありませんでした」と回答し、難しい状況でのかじ取りを強いられたことを語っています。巨大企業のCEOとして決定を下してきたモレンコフ氏にとっても、今回のように政治の世界を巻き込み、国益をも左右しかねない買収劇の当事者となることは非常に大きな出来事だった模様。

その背景には、世界における5Gのリーダー的存在であるQualcommの行く先を決めるというメンタリティが存在したと述べるモレンコフ氏。「正直にいって、当時起こった出来事を全て理解できている人はいないでしょう」と述べており、まさに綱渡り的な状況で物事が進んでいたことを振り返っています。

Broadcomの攻撃をしのいだQualcommですが、一方ではAppleとの確執は続いたまま。両社は賠償額が1000億円レベルの訴訟合戦に突入しており、iPhone XS/XS MaxにはQualcommのモデム(通信用チップ)を搭載しない状況ともなっています。Qualcommにとって容易でない状況はしばらくの間続くとも見られています。

「2018年登場のiPhoneでAppleはIntel製のモデムを独占的に使用する」とQualcommの幹部が明かす - GIGAZINE