現代生活の必需品である「ボールペン」はどのように生まれて受け入れられていったのか?
by dion gillard
文具店だけでなくコンビニや駅の売店でも販売している「ボールペン」は、日常生活には欠かせないアイテムの1つです。このボールペンがどうやって発明されて、どのようにして世界的に広まっていったのかを、ブログメディアのTediumが解説しています。
Disposable Ballpoint Pen History: Pens for Pennies
https://tedium.co/2018/08/02/disposable-ballpoint-pen-history/
ボールペンの歴史は古く、1888年にアメリカ人のジョン・ラウド氏が申請している特許が最も古いボールペンについての文献です。ただし、ラウド氏のボールペンは現代のものに比べると構造には不備が多く、ボールの隙間からインクが漏れてくるため、実用には至らなかったといわれています。
その50年後の1938年に、新聞社で働いていたユダヤ系ハンガリー人のラディスラオ・ビロー氏は、新聞に使われているインクが万年筆に使われているものよりも早く乾燥することに気づき、新聞のインクを文房具に転用できないかと考えました。しかし、万年筆に新聞用のインクを詰めると、インクの粘性が強すぎてペン先までインクが染みずに使えませんでした。
そこで、ビロー氏は「ラウド氏のボールペン」と「液体が細い管状の物体を進んでいくという『毛細管現象』」応用することで、インク漏れを起こさないようなボールペンの開発に成功します。
運悪く第二次世界大戦で、ナチス・ドイツ軍によって迫害を受けたビロー氏は、ハンガリーからアルゼンチンへ亡命します。ビロー氏は、1943年に追加の特許を申請すると共にアルゼンチンで会社を設立し、自身が考案したボールペンを商品化しました。ビロー氏のボールペンは高いところでも文字が書けるということで、イギリスやアメリカの空軍から人気が出ました。
戦後、アメリカの企業家であるミルトン・レイノルズ氏が、ビロー氏のボールペンに着目しました。ボールペンそのものの特許は失われていましたが、毛細管現象を利用したビロー氏の工夫は追加で特許が申請されていました。そのため、レイノルズ氏は重力を用いた新しいインクの押し出し技術を考案し、1945年に「レイノルズ・ロケット」という新しいボールペンを発売しました。このレイノルズ・ロケットは1本の価格が12.50ドル(現代価値でおよそ1万5000円)でしたが、アメリカを中心に飛ぶように売れました。
一方、ビロー氏の特許を1950年代に買い付けたのが、フランスの筆記具メーカーであるビックでした。ビックは使い捨てライターや使い捨てカミソリなどの使い捨て製品で知られていて、1950年には使い捨てボールペンである「ビック・クリスタル」を売り出しました。ビック・クリスタルはボディが透明になっていて、インクの残量が一目でわかるようになっているという当時としては画期的な筆記用具でした。
ビロー氏はボールペンの基本形を作り出し、レイノルズ氏はボールペンの市場と流行を生み出し、ビックは誰もが簡単に使える安価なボールペンを生み出しました。そして、高級品だったペンは一気に一般大衆でも安価に入手できる筆記具として定着しました。筆記具メーカーのPaper Mateが公表した統計によると、同僚からペンを盗んでしまった人の割合は100%に達し、そのうち78%が「借りたままうっかり自分の筆箱にしまって返すのを忘れた」という状況だったことが判明しました。また、ほとんどのペンは使い切る前にどこかに行ってしまうこともわかりました。ペンの価値が下がることで、ボールペンは最後まで大事に使われないようになってしまったといえます。
スターバックスが2020年までにプラスチック製のストローを廃止するなど、2018年に入って世界的にストローや袋を初めとしたプラスチック製品を排除する流れにあります。使い捨てのボールペンは消費者にとって便利な道具となりましたが、その一方で環境面ではストローと同じ問題を抱えていると、Tediumは指摘しています。
かつてペンは、万年筆が主流だった時代では貴重品であり、インクを補充しながら大事に使い続けるものでした。しかし、使い捨てボールペンが普及することによってペンは一気に安価なものとなり、今では生活必需品の1つとなるまで浸透しました。それどころか、ボールペンは単なる筆記具としてだけではなく、例えばホテルや銀行が自分の名前を記したペンを無料で配るように、マーケティングの道具としても利用されるようになりました。20世紀最大の発明はコンピュータであるといわれますが、使い捨てボールペンもコンピュータに匹敵するほどの発明といえるかもしれません。
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