サイエンス

何が子どもの白血病を引き起こすのか?を過去30年の様々な研究から分析した研究者が発表

by Colin Maynard

子どもの急性リンパ性白血病は裕福な社会で増加しており、その原因について電磁波や化学物質との関連が疑われていました。そんな中、過去30年に行われた遺伝子学・細胞生物学・免疫学・疫学などの多数の研究結果から、幼少期の白血病は「遺伝子変異」と「生まれて間もない頃に経験する感染症」に原因があるとする研究が発表されました。

Leading UK scientist reveals likely cause of childhood leukaemia - The Institute of Cancer Research, London
https://www.icr.ac.uk/news-archive/leading-uk-scientist-reveals-likely-cause-of-childhood-leukaemia

A causal mechanism for childhood acute lymphoblastic leukaemia | Nature Reviews Cancer
https://www.nature.com/articles/s41568-018-0015-6

Missing microbes 'cause' childhood cancer - BBC News
http://www.bbc.com/news/health-44199844

Nature Reviews Cancerに発表された最新の研究結果は以下のムービーからも見ることができます。

Professor Mel Greaves reveals likely cause of childhood leukaemia - YouTube


ロンドンのがん研究機関に所属するMel Greaves教授は自身や世界中の各分野の研究者が行った過去30年の研究から、急性リンパ性白血病の原因として、電磁波や化学物質との関連を否定しました。

写真の男性がMel Greaves教授。


急性リンパ性白血病は裕福な社会において増加しており、2018年時点でも年1%の割合で増加中です。Greaves教授は、白血病には「母親の胎内に存在する時に生じる遺伝子変異」と「幼児期に病原菌に接しないこと」が関係し、この2つの要素が組み合わされることで幼少期の免疫不全や白血病が引き起こされると示しました。


Greaves教授が特に注目したのは、「遅発性感染症理論」と呼ばれるもので、これは生まれてから間もない頃に経験する感染症は免疫系を訓練するものになる一方で、この感染を経ずに成長してから感染症にかかることは急性リンパ性白血病のトリガーになるというものです。白血病だけでなく、1型糖尿病や自己免疫疾患、アレルギーなども、子どもが1歳になるまでに適切に免疫系が訓練されていれば防げるとGreaves教授は考えています。

上記の結論は1つの研究によって導きだされたものではなく、過去に行われた複数の研究をジグソーパズルのように合わせることで導かれたもの。Greaves教授は「研究によって、急性リンパ性白血病には生物学的な原因があるとともに、さまざまなトリガーが『免疫系が適切に準備されていない子ども』に作用することが研究で強く示されました」と述べています。


Greaves教授の研究のもととなったエビデンスには以下のものが含まれます。

・ミラノで起こった豚インフルエンザによって7人の子どもが急性リンパ性白血病となった
・託児所に行った子どもや上の兄弟がいる子どもは微生物にさらされるため、急性リンパ性白血病になる確率が低い
・母乳で育てることは子どもの胃腸内でよいバクテリアを育て、子どもを急性リンパ性白血病から守る
・微生物に触れることが少ない帝王切開よりも、経膣分娩の方が急性リンパ性白血病の確率が低い
・微生物との接触が全くない状態で育てられた動物は感染症にさらされた時に白血病を生じさせる

ただし、微生物のメリットは複雑であり、この研究結果は「泥にまみれろ」ということや、「衛生的でありすぎるな」ということを主張するものではありません。一方で、Greaves教授は「子ども時代に発生する急性リンパ性白血病は予防可能である」ということを述べています。さらなる研究が必要になるところではありますが、Greaves教授の見方によれば、微生物が含まれる安全な食べ物であるヨーグルトを子どもに与えるなどすると、免疫系を訓練する助けになる可能性があります。


この研究結果は今後の医療に役立てられると考えていますが、さらなる研究が必要とされるところ。それまでは、「ありふれた感染症に対して神経質になりすぎず、年上の子どもなど、人との社会的接触を推奨すること」が大切だとGreaves教授は考えています。

これまで、「菌」は人間の生活において害をなすものと考えられることが多かったのですが、近年においてはアレルギーからパーキンソン病、うつ病などを理解するために、菌が重要な役割を果たしていることが明らかになってきています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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