取材

日本初開催のAmazonのロボットコンテスト「Amazon Robotics Challenge」ファイナルを完全レポ、白熱の戦いを制したロボットは?


Amazonが主催するロボットコンテスト「Amazon Picking Challenge」が第3回大会から「Amazon Robotics Challenge(Amazonロボティクスチャレンジ)」と名前を変えて、ロボカップ2017名古屋世界大会が行われたポートメッセなごやで開催されました。2017年7月30日に行われたAmazonロボティクスチャレンジ(ARC)決勝の様子はこんな感じ。世界各国から集まったロボット開発者たちによる、白熱した戦いが繰り広げられました。

AR Challenge :: Amazon Robotics
https://www.amazonrobotics.com/#/roboticschallenge

◆大会責任者のジョーイ・ダラム氏インタビュー
決勝の準備に会場が慌ただしい中、Amazon Roboticsの研究先進開発責任者で ARC大会責任者のジョーイ・ダラム氏に、ARCの見所について聞くことができました。


GIGAZINE:
第3回目となる大会はAmazon Robotics Challengeに名称が変更されましたが、変更点・改良点についてお聞かせください。

ダラム氏:
これまで「ピック(棚出し)チャレンジ」と「ストー(棚入れ)チャレンジ」の2種類の種目で競ってきました。今回からは2つの大きな変更点があります。一つは、仕分けするアイテムのうちの半分を、チームは直前まで見ることができないという点。もう一つが、アイテムを収納するストレージシステムを自らが設計するという点です。これらの改良を経て、名称もAmazon Robotics Challengeに変更されました。


GIGAZINE:
新ルールが導入されすでに大会初日のピッキング、2日目のストーイングの各タスクで競技が行われました。2日間、準備日を入れると3日間の作業を見て、各チームは苦戦しているのか、それとも想像以上にうまく対応できているのか、印象をお聞かせください。

ダラム氏:
とても印象的です。ルールを変更したのは各チームのイノベーションを奨励し、新しい技術の開発を促すことが理由なのです。私たちAmazon Roboticsの目からは、各チームは非常にうまく新ルールに対応していると見え、とても感心させられています。

GIGAZINE:
ARCの技術的に難しい点は何でしょうか?

ダラム氏:
私が知りうる限りでは、今日、ロボット史上初めて密な状態の幅広い商品の中から目的のアイテムを選んで棚に入れ、また取り出して箱詰めするという一連の作業を行います。一連の流れで行うのは初めてのことです。密な状態でアイテムを入れて、さらにそれを取り出すという難しい作業に、私はワクワクしています。

GIGAZINE:
ARCの最終目標は、Amazonフルフィルメントセンターへの応用ということなのでしょうか?

ダラム氏:
私たちが大会を開くことによって目指しているのは、ロボティクス研究を担う次世代のロボティスト(ロボット研究者)たちにインスピレーションを与えることです。かなり難しいチャレンジを投げかけているのですが、この課題というのはそもそもはAmazonの倉庫のオペレーションの中からヒントを得ているものです。しかし、Amazonの倉庫の中に限らず、その他の領域でも同じように抱える一般的な問題として存在しているものです。なので、この競技を通して、将来にはロボットがあらゆるアイテムを扱えるようになると思っています。そのために開発された技術は、クリエイティブな形でいろいろな分野で応用することができると思います。どんな技術が出てくるのかは、現時点で想像もつきません。

GIGAZINE:
最後に、ARCの見所について教えてください。

ダラム氏:
競技は素晴らしいものですし、テクノロジーもまた素晴らしいものです。ロボカップのようなコンテスト・競技を通じて素晴らしい技術、クールな技術が登場することは確かなのですが、ARCを含めて私がとても気に入っているのは、チームやチームをサポートするコミュニティなのです。ロボカップやARCに参加しているチームはもちろん「勝ちたい」という思いはあると思いますが、それ以上にチーム全体として、コミュニティを含めた関係者全体で一緒に興奮し、声援を送り、競技に参加しているというところが好きですね。


GIGAZINE:
お忙しいところ、ありがとうございました。

◆ARC会場
ARCのために、ロボカップ2017名古屋世界大会が開かれたポートメッセなごやの第3展示場の一角に、巨大なブースが設置されました。


巨大なブース内部には、世界から集まった16のチームが個別ブースを構えています。


鉄のついたてで隔たれた向こう側に、各チームが個別のブースを構えており、作業を外から見ることが出来ます。


観覧席も設けられていましたが、会場には巨大モニターがいくつか設置されており、それを見ながら観戦する人が多めでした。


ファイナルが行われた2017年7月30日の試合開始前。1日目・2日目の合計スコアをトップで通過したドイツ・ボン大学の「NimbRo Picking」のブース。


アルミ・フレームでやぐらを組み、天井にはデジタル一眼カメラを装着しています。作業エリア全体を撮影して画像認識している模様。


NimbRo Pickingのピッキングロボットはハイブリッド・マニュピレーション仕様。


バキュームによる吸引だけでなく……


可動式のツメを使って物をつかみ取ることも可能です。なお、NimbRo Pickingはバキュームでしっかりと動かないようにしてからツメで挟み込むという仕組みを採用していました。


真剣な表情の中にも……


笑顔があふれる、非常にリラックスした状態でした。


対照的に、非常に緊張感にあふれていたのがMIT・プリンストン大学のブース。


ブースをテントで覆っていたのはドイツ・カールスルーエ工科大学の「IFL PiRo」


オーストラリア・クイーンズランド工科大学・アデレード大学・オーストラリア国立大学・モナシュ大学の連合チーム「ACRV」は、なんと3Dプリンターでパーツを出力していました。


◆ARCファイナルの様子
・チーム「ACRV」
そのACRVのブースの真横でファイナルの様子をじっくりと観察しました。


ARCでは、ロボットアームを使って箱から商品をコンテナに入れる棚入れタスクの「ストーイング」とコンテナから商品を取り出して所定の場所に入れる「ピッキング」の2つの作業の正確性で競います。


ACRVのアームは、「吸引」と「掴み」の部品が反対側に付いており、回転させて作業を切り替える仕様のようです。


なんと、チャレンジの直前にチームメンバーがビールで乾杯をするという光景に驚かされました。


赤い箱にぎっしり密に入った状態の商品を「トート」と呼ばれる箱に収納した後で、目的の場所である段ボール箱に入れるという棚入れ・棚出し作業を正確に行うとポイントが加算され、ポイントの合計点を競うというのが基本的なARCのルールです。より多くの商品を正確に数多く詰め替える作業は、以下のムービーで確認できます。

Amazonロボティクスチャレンジ決勝をビール片手に楽しく観戦するオーストラリアのACRV@ロボカップ2017 - YouTube


吸引で持ち上げるのが難しいアイテムは、つかみ取る動作(grasping)が威力を発揮します。吸引よりも難度の高い「つかみ」を成功させる様子は以下のムービーから。

AmazonロボティクスチャレンジでオーストラリアのACRVがgraspingに成功する様子@ロボカップ2017名古屋世界大会 - YouTube


トイレブラシを掴むと手袋まで付いてくるという一石二鳥も。


最も難しいアイテムの一つであるダンベルを吸い付けて持ち上げることにも成功。つぎつぎとアイテムを移し替えていきます。


ACRの決勝は、持ち時間30分。すべての作業を早く終えた場合、5秒に付き1ポイントの加点があるなど、早い作業は有利になります。また、棚入れと棚出しの時間配分をチームが決めることができ、ACRVは19分20秒残してピッキング作業に移ることになりました。


「Amazon」のロゴは入っていない段ボール箱の設置が完了。先ほど移し替えた箱の中から、指定されたアイテムを探し出して、大きさの異なる箱に分けて入れるのがピッキング作業。


アイテムをつぎつぎに棚出しする様子は、以下のムービーで確認できます。

Amazonロボティクスチャレンジ決勝のACRVのピッキング作業@ロボカップ2017 - YouTube


ACRVは272点というハイスコアをたたき出して前半の首位に躍り出ました。


そして、後半の2番目にMIT-Princetonが登場。高い注目を集めましたが、得点は伸びず。


・チーム「Nanyang」
チャレンジの直前の南洋理工大学のチーム「Nanyang」のブース。かなり早い時点から準備を整えて終えており、リーダーを中心としたチーム体制は、まとまりのある組織という印象を受けました。


Nanyangは2本のロボットアームが共に吸引タイプで、つかむ動作はしません。どんな物でも、強力なバキュームで吸い付けられるという自信がある模様。


母国シンガポールの国旗。多くのチームが誇らしげに母国の国旗をブースに取り付けていました。


チェッカーフラッグの箱。ARCは今回から収納する機材(トート)を自由設計可能なルールに変更されました。Nanyangは、この後、機材設計の秀逸さで驚きのピッキング作業を見せることになります。


トートに慎重に物を詰め込んでいます。詰め込み方にも意味がある模様。


ARCのスタッフ。時間内に作業を適切に終えているかをチェックします。


チェックするARCスタッフの頭を手で覆うNanyangのチームメンバー。


これはケガを防止するだけでなく、衝突によって精密に組まれたマシンに誤差が生じないようにするためです。


ARCスタッフがダンベルを縦に設置して、作業完了。


大会1日目、2日目と安定して高いスコアで総合2位につけたNanyangのチャレンジのスタート。


ロボットアームは驚くほど正確に物をつかんで運びます。常にバキューム音でうるさいロボットが多い中、Nanyangのロボットは吸引時のみバキュームをONにする仕様でした。


つかむ動作を捨て、吸引に特化したNanyangのロボットが、驚くほど正確に物を運ぶ様子は以下のムービーで確認できます。

Amazonロボティクスチャレンジ決勝のNanyangロボットによる正確無比な運搬@ロボカップ2017 - YouTube


各チームが苦戦したダンベルにも成功。


驚くほど正確に運びます。


続いてピッキング作業。収納する段ボール箱にはゴムのバンド。


ゴムで留めた上にしっかりとステーで固定しています。


こんな形で段ボール箱を配置しました。


トレーの大きさを巧みに変えることで、収納性とつかみやすさを変えるNanyangの秀逸なアイデアは以下のムービーで確認できます。

Amazonロボティクスチャレンジ決勝のNanyangの可動式トレー@ロボカップ2017 - YouTube


難しいテープの吸着にも成功。


トートのサイズをロボットに変えさせて、ピッキング作業をしやすくするというアイデアは、スコアを大きく伸ばすのに成功しました。


・チーム「NimbRo Picking」
最後に登場したのは総合スコアでトップだった、ドイツ・ボン大学の「NimbRo Picking」


観客席の前のブースということもあり、超満員。最後のチャレンジを見守ります。


モニターを眺める司令塔。


モニターにはロボットの動きと画像認識の結果が表示されていました。


例のブース天井に取り付けられたデジタル一眼カメラからの画像。どのチームも機械学習を使った画像認識技術をフル活用しています。


2本のロボットアームが、つぎつぎとアイテムをつかみ取っていきます。


graspingにも成功。


こうして、最終チャレンジが終了。NimbRo Pickingは猛追およばず惜しくも2位。


優勝を決めたのは、ビールで先に祝杯をあげていたオーストラリアのACRVでした。


最終結果はこんな感じ。唯一ファイナルに進出した日本のNAIST-Panasonicは、システムエラーによるリセットに悩まされ、奮闘及ばず。


表彰式では初日のストーイング、2日目のピッキング、3日目の決勝の上位チームがAmazon特製のかごつきトロフィーを授与されました。


ACRVが優勝賞金8万ドル(約890万円)をゲットしました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「ロボカップ2017名古屋世界大会」現地取材記事まとめ - GIGAZINE

ロボットが人間に替わって商品の仕分け作業を行うコンテスト「Amazon Picking Challenge」は吸盤と2本指を持つロボットが制する - GIGAZINE

Amazonが優勝賞金300万円のロボットシステム開発コンテスト「Amazon Picking Challenge」を開催 - GIGAZINE

Amazonはどのようにして倉庫ロボットの火付け役になったのか - GIGAZINE

1日20万個の荷物を床をはい回って間違いなく振り分ける無数の仕分けロボットが圧巻 - GIGAZINE

AmazonのベゾスCEOが巨大なロボットに乗り込んでご満悦な様子を披露 - GIGAZINE

in 取材,   インタビュー,   ハードウェア,   サイエンス,   動画, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.