ハードウェア

自動運転車の実現で大きな位置を占める「LIDAR」が抱えている問題とは

By Matt Downer

人工知能(AI)を使って周囲の状況を把握しながら走行する自動運転車の多くは、レーザーを用いて周囲の物体の位置関係を把握する「LIDAR(ライダー)」と呼ばれる装置を搭載しています。いわば自動運転車の要ともいえるLIDARですが、その開発にはまだ多くの課題が残されているようです。

Self-Driving Cars’ Spinning-Laser Problem - MIT Technology Review
https://www.technologyreview.com/s/603885/autonomous-cars-lidar-sensors/?set=603886

LIDARは「Light Detection And Ranging」の頭文字をとった略語で、レーザー光線を利用して周囲の物体の位置関係や距離を把握するリモートセンシング技術の1つです。音波を利用する「レーダー」よりも波長の短いレーザー光線を使用することでより細かな距離の測定が可能で、100メートル離れた物体との距離を数cm単位で把握することが可能です。

現在最もよく見られるLIDARの装置は、以下のような自動車の屋根の上に搭載され、高速で常に回転するタイプのもの。筒状の装置に組み込まれた鏡にレーザー光線を反射させて周囲に照射し、戻ってくるまでの時間を測定することで、自車との位置関係と距離を測定するという装置です。なお、この車両自体は数年前にGoogleが自動運転車の開発に用いていたものですが、現在でも基本的な形状や仕組みは大きく変化していません。

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センシング技術にカメラとレーダーを使っているテスラなどの例を除き、自動運転車の実現にはこのLIDARが欠かせないものとなっています。しかし、急激な進化の過程にある自動運転車技術の世界において、実際にはLIDAR関連の分野が追いついていないという状況が生じているとのこと。従来のLIDARの市場は非常にニッチなものであり、需要そのものが限られていたため、現在のような急激なニーズの増加に対応しきれておらず、開発そのもののペースが追いついていないといいます。

そのことを象徴するのが、LIDAR装置の「大きさ」といえます。以下の車両はUBERが開発に用いている自動運転車のプロトタイプですが、屋根の上には大きな装置が載せられており、さらにその頂点にまるで煙突のように突きだしたLIDARが載っています。周囲を把握するという目的から、LIDARが可能な限り高い位置に設置されることが好ましいという事実はありますが、最新技術である「自動運転車」という響きにはおよそ似つかわしくない大きさの装置が、ぐるんぐるんと回転する姿はちょっとした時代のズレを感じても仕方ないといえそう。

By Foo Conner

また、開発が追いついていないという実情は、そのまま「コストの高さ」にも結びついているとのこと。1基あたり数千ドルから1万ドル(数十万円~百万円)レベルというLIDARの価格は自動車の部品としては極めて高額なものとなり、現状ではとても普及段階を考えるような段階に達していないと言わざるを得ません。

このような状況もあり、自動運転車の開発の現場では数々の混乱が生じている状況です。2017年2月には、「自動運転車にまつわる企業秘密を盗まれた」として、Googleの自動運転車プロジェクトを引き継いで独立した新会社「Waymo」が配車サービスを提供していて自動運転技術にも取り組んでいるUberと、その子会社Otto(OttoMotto・Otto Tracking)を訴えるという事態に発展しています。Waymo(=Google)が開発してきたLIDARの機密性の高い資料を、元従業員のAnthony Levandowski氏が持ち出してOttoに持ち込んだのではないか、というのがWaymoの訴え。Ottoはもともとスタートアップ企業でLIDARの開発を行っており、Uberが買収した理由もこのLIDARにあったと考えられています。

Googleの自動運転車計画を引き継いだWaymoがUberを「企業秘密を盗んだ」として訴える - GIGAZINE


とはいえ、LIDAR関連企業も開発に手をこまねいているわけではありません。マサチューセッツ工科大学(MIT)とアメリカ国防高等研究計画局(DARPA)は、LIDARのシステムを1個の極小チップ上に搭載することに成功しており、最終的には1個あたり1000円程度のコストでLIDARを自動運転車に搭載することも可能と見込んでいます。

自動運転車やロボットを劇的に進歩させるセンシング技術「LIDAR(ライダー)」の極小チップ化に成功 - GIGAZINE


また、カリフォルニア州に拠点を置くVelodyneや、Quanergyといったスタートアップも同様の装置を開発している企業。レーザーを反射させる鏡などの可動部を持たない装置とすることでコストを下げ、信頼性も向上させるという「ソリッドステート」な1チップ型LIDAR技術の開発に取り組んでいますが、実際にそのようなデバイスが市販されるのかはまだ数年後ともいわれており不明な部分も多いという状況です。

Googleをはじめ、BMWやボルボ、フォードなどが2020年前後の実用化を目指しているという自動運転車ですが、その可能性は要となる可能性が極めて高いLIDARの開発に大きく左右されることになりそう。上記のようなソリッドステートなLIDARの開発が不可欠といえますが、その実現が2020年前後と見られる状況であるため、自動運転車そのものの実現はさらにもう少し先ということになる可能性は少なくないのかもしれません。

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in ハードウェア,   乗り物, Posted by darkhorse_log

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