なぜ自動車で思い通りにバック走行するのは難しいのか?
by Chris Keating
自動車を駐車場などに入れる際に、バック走行で車を思った通りに走らせることができず、うっかり車の後ろを柱や塀にぶつけてしまう事故は日常的に起こりうることです。なぜバック走行が思い通りにいかないのかという理由について、約3分間の物理学の解説ムービーを数多く公開しているMinutePhysicsが明らかにしています。
Why is it Harder to Drive Backwards? - YouTube
車で走行中にハンドルを切ると、ハンドルの切り具合に応じて車が曲がって走る、という仕組みは車を運転したことがあれば自明の理です。
ハンドルを切ると、前進・後進を問わず同じ角度でカーブしながら車が走ります。この理屈であればハンドルを切りながらバックで走行するのはさほど難しくないように思われますが、現実的には全く異なります。
バック走行が難しい原因は、「ハンドルの操作でフロントタイヤだけが動く」ということ。運転手の向いている方向はさほど関係がありません。
車が前進する際は、フロントタイヤの向きに合わせて車が曲がります。
一方で後進の際には、リアタイヤと同じ向きで車がバックします。
しかし両者で決定的に違う点は、車が前進する際には、進行方向がフロントタイヤの角度で決まるため、ハンドルを切ることでフロントタイヤの向きを自由に変えられること。
リアタイヤの角度はフロントタイヤに角度を合わせて自然と決まります。
このような状態を物理学では「安定(stable)」と呼びます。例えば鉛筆の先を指でつかんで、鉛筆の軸を下にぶらさげた状態で手を動かすと、鉛筆の反対側の先端が自然と手の動きについてくる現象も、「安定」と呼ぶことができます。
一方で車を後ろ向きに走らせる際は、進行方向がリアタイヤの角度によって決まります。しかし、ハンドルを切っても動くのはフロントタイヤだけ。
つまり、バックしたい角度でリアタイヤが進むようにフロントタイヤの角度を決めて、ハンドルを操作しなければならない、というわけです。
この状態は物理学の分野では「不安定(unstable)」と呼ばれているもので、例えば手のひらにオノを立てて垂直状態を保つ動きとよく似ています。手のひらにオノを立てるには、オノの動きを目で捉えながら手先の動きに常にフィードバックする必要があり、非常に難しいものです。
運転中にバック走行する際にも同じように、車の動きとハンドル操作に集中する必要があります。
「バック走行時にハンドルの操作とタイヤの動きが異なる」という問題を解決しているのが、倉庫などで活躍するフォークリフト。
フォークリフトは倉庫内でバック走行をすることが多いため、ハンドルとリアタイヤが対応するように設計されています。また、車体の動きもゆっくりとしているため、車をコントロールしやすくなっています。
また、車の後ろにトレーラーをくっつけて走る場合、バックする際の車の動きはどうなるかというと、フロントタイヤ・リアタイヤ・トレーラーのタイヤの3種類がそれぞれ異なる角度で動くので、「トレーラーのタイヤの動きをリアタイヤが決め、リアタイアの動きをフロントタイヤが決める」ということで、さらにバック走行の難易度が上がります。
トレーラーの数が増えれば増えるほど、ますますハンドル操作に熟練の腕が必要。
MinutePhysicsは「トレーラーをけん引するトラックの運転に比べれば、普通車のバック走行の方がよほど簡単に思える」と語っていますが、駐車場まで無人で自動運転して駐停車する自動車のような自動運転車が市場向けに登場すれば、このような悩みからも解放されそうです。
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