なぜランニングで多幸感が得られる「ランナーズハイ」が起きるのか科学者が解明
By Bill Dickinson
ランニングをしていると、走っている途中に気分が高揚してくる「ランナーズハイ」になることがありますが、走ることで多幸感が得られるという生理作用がなぜ起こるのか、科学者が明らかにしました。
Leptin Suppresses the Rewarding Effects of Running via STAT3 Signaling in Dopamine Neurons: Cell Metabolism
http://www.cell.com/cell-metabolism/abstract/S1550-4131(15)00394-0
「レプチン」は脂肪細胞で作り出される物質で、体内のエネルギー貯蔵の管理にかかわる働きを持っており、食べ過ぎて不要なエネルギーが体内に摂取されると、レプチンが分泌され食欲を抑制、同時に筋肉などのエネルギー消費を増大させるなどして、肥満になることを防ぐという働きを持ったホルモンです。「飽食ホルモン」とも呼ばれるレプチンについて研究を行ったモントリオール大学の研究チームは、レプチンレベルの低下によりランナーズハイが引き起こされることを発見しました。
従来の研究では、レプチンの水準は肥満時に増加する以外にも、飢餓・睡眠欠乏・情緒的ストレスによっても変動することがわかっていました。さらに今回の研究で、歩く・走るなどの活動時に体内のレプチンが減少することが判明。ランニングなどの活動で体内のレプチンが減少すると、脳の快楽中枢に飢饉信号が送られますが、快楽中枢が刺激されることでランナーズハイに至るとのこと。これは飢饉状態の体で長時間にわたって食べ物を探せるようにするための作用とみられています。
By marcovdz
これまで、ランナーズハイの仕組みは詳しくわかっていなかったものの、ドーパミンを放出してレプチンを中継する作用を持つレプチン感受性のタンパク質「STAT3」が影響していると考えた研究チームは、遺伝子操作によりSTAT3を欠損したハツカネズミを作り、正常なハツカネズミと比較実験を実施。
レプチンの低下によりランナーズハイになった正常なハツカネズミは、回し車を1日あたり平均6kmも走りましたが、遺伝子操作が施されたハツカネズミは、正常なハツカネズミの2倍近くとなる平均11kmを走ったとのこと。遺伝子操作によってSTAT3を欠損、つまりレプチンの影響を受けづらくなったハツカネズミは、通常のハツカネズミよりもランナーズハイの効果を受けやすくなったことがわかりました。これはつまり、レプチンが減少するほどランナーズハイの効果が大きくなることを示している、というわけです。
また、研究者の1人であるステファニー・フルトン氏は「実験の結果は、体内のレプチンレベルがランナーズハイに大きく影響するだけでなく、脂肪を調整しているプロのマラソン選手のようなレプチンレベルの低い人ほど、運動によるランナーズハイの影響が強くなることを示しています」と説明しています。
・関連記事
職場でのバーンアウト(燃え尽き症候群)を減少させる効果的な手段とは? - GIGAZINE
運動時、私たちの脳に何が起きてどのように幸福感をもたらしているのか? - GIGAZINE
軽い運動でも睡眠の質を劇的に改善することが判明 - GIGAZINE
「適度な運動」の「適度」がどのくらいなのか研究で判明 - GIGAZINE
ほんの数十年前までランニングするのは変人で警察の職務質問のターゲットだった - GIGAZINE
・関連コンテンツ