ギリシャ人が戦闘機でトルコのATMに駆けつける前に知っておくべきこと
2015年7月中旬に「ギリシャ操縦士、戦闘機F-16でトルコまで飛んでATMでお金を引き出す」というニュースがインターネット上で話題となりました。気になって読んでみると、どうみても不自然な記述があります。そう思っていると、やはりジョークサイトのネタだということが判明しました。
こんにちは、自転車世界一周の周藤卓也@チャリダーマンは、シンガポールで自転車を預け、バックパッカーとなって未訪問国を周っています。つい先日、インドのニューデリーからフライトでトルコのイスタンブールに降り立ちました。そのトルコでは、今後の旅に必要な米ドルを入手。ついでにユーロも引き出してみました。トルコのATMには、世界を周る旅人にとって、喉から手が出るほどの仕組みが備わっています。
◆戦闘機でATM
数年前から何度も繰り返されるギリシャ危機の報道ですが、今年は例年とは違っていました。痛みを伴う一連の改革に疲れ切ったギリシャ国民は、国際債権団が求める更なる財政緊縮策に反発。その賛否を問う国民投票が行われます。一連の混乱は、デフォルト(債務不履行)の可能性まで囁かれ、国内ATMの引き出しも、1日あたり60ユーロ(約8100円)までの制限が入りました。そうした時期に流れたニュースがこちらでした。
ギリシャ操縦士、戦闘機F-16でトルコまで飛んでATMでお金を引き出す | 新華ニュース 中国ビジネス情報
http://www.xinhuaxia.jp/social/75150
トルコメディア「BGN News」は18日に、仏サイト「radicorcpit.fr」の記事を引用して、ギリシャの戦闘機F-16の操縦士Homere Sipostopoulosが戦闘機で密かにトルコに向かい、トルコのATMでお金を引き出した後、また戦闘機を操縦してギリシャの空軍基地に戻った。
という突っ込みどころ満載の記事でしたが、個人的に
3つのATMから6000トルコリラを引き出し、ユーロに両替した。2000ユーロ以上の現金を持って、すぐに飛行場に戻り、F-16を操縦してギリシャのネアアンヒアロス空港に戻った。
という記述が引っ掛かりました。
だってトルコでは、ATMによっては直接ユーロを引き出すことができます。そんなことを考えていると以下のような記事が。
「ギリシャの戦闘機がトルコ着陸、ATMから現金引き出す」←ジョークと判明
http://www.huffingtonpost.jp/2015/07/20/greek-f16-atm_n_7830174.html
今回のニュースは、フランスのサイト「レディオコックピット」が7月18日に掲載した記事が元ネタになっている。これがトルコのニュースサイトが取り上げて、世界中に拡散したのだが、「レディオコックピット」の著作権欄には、以下のような警告文が書かれていた。
「このサイトは、笑いを提供するのが唯一の目的です。それ以外にあなたの注意を反らす野心は一切ありません。ここに書かれたどんな記事を読む場合でも、情報を信頼すべきではありません。人名や企業名は、単なる風刺です」
ジョークサイトのネタということが判明。常軌を逸したギリシャ人パイロットなんていませんでした。良かった。良かった。
◆トルコのATMの実態
代わりに、私がトルコでユーロの入手を試みます。
インドのニューデリーを発って、キルギスのビシュケク経由で、トルコのイスタンブールにある「サビハ・ギョクチェン国際空港(SAW)」に到着。イスタンブールには、もう一つ「アタテュルク国際空港(IST)」があるのですが、そちらはトルコのフラッグキャリアでもあるターキッシュエアラインの本拠地。今回はLCCのペガサス航空を利用したので、規模も小さいサビハ・ギョクチェン国際空港に降り立ちました。入国審査を済ませ、荷物を受け取ると、空港内にはどれを使えばいいか迷うほどにATMが並んでいました。
ずらーっと並んだATM。
TL(トルコ・リラ)、$、€の表記があった「HSBC(香港上海銀行)」でトライ。世界各地で見かける銀行なので、それなりに信頼して利用しています。
操作を進めていくと、TL(トルコ・リラ)、USD(米ドル)、EURO(ユーロ)と3つの通貨の選択肢。
まずは、40トルコ・リラを引き出し。日本の口座から1トルコリラ=43.85円で、1754円の引き落とし。
ATMから離れて、時間を空けて100米ドルを入手。日本の口座から1米ドル=127.26円で、1万2726円の引き落とし
そして、100ユーロも出てきました。日本の口座から1ユーロ=143.22円で、1万4322円の引き落とし。ユーロ加盟国ですら珍しい100ユーロ札です。
このようにトルコのATMでは、現地通貨のトルコ・リラ、米ドル、ユーロと3種類の通貨を引き出すことができました。インターネット上で話題となった記事には、トルコ・リラを引き出し、ユーロに両替とありますが、それでは手数料が余計にかかりそう。また、同じようなことが起きた場合は、直接ユーロを引き出すべきです。そもそも、国外のATMでカードが利用でき、ユーロの入手ができるなら、引出制限の意味がなくなるので、実際のところはどうなるのか気になりますが……。
続けて、さらなる米ドルの入手に努めます。
同じ空港の別の場所にもまた、ずらーっとATMが並んでいました。
TEBと書かれてあるATMを選択。緑の背景に星が並ぶマークは、フランス大手の「BNPパリバ」の現地法人となるようで、こちらも海外では良く利用しています。
このATMにも$、€、₺(トルコ・リラ)と3つの表記。
こちらも、操作を進めていくと、TL(トルコ・リラ)、USD(米ドル)、EURO(ユーロ)と3つの通貨が表示されます。
50米ドルを確保しました。
あとは20$札が欲しかったので、一旦空港の外に出て街中を探したのですが、米ドルの引出しができそうなATMは見つからず。夜にグルジアへ向かうフライトがあったので、空港に戻ってきた時に、同じATMで150米ドルを入手しました。50$札なので、何とかお釣りを貰って、小額紙幣を確保したいところ。ビザ代の支払いにお釣りを期待していいのかどうか。
今回の米ドルはエジプトからスーダン、エチオピアと南下するのに必要なので下ろしました。ユーロは余計だったのですが、記事のためにも引き下ろし。3つの通貨を目の当たりにし、トルコのATMの便利さを改めて確認できました。
空港内にあった「DenizBank」というATMも……。
「NAKIT AVANS(キャッシュサービス)」と書いてあって、トルコ・リラ、ユーロ、米ドルが引き出せそうです。
こちらのHSBCだと、£(英ポンド)の引出しまで可能なようでした。
空港の外でみつけたATMにも€の表記。
トルコが実効支配している北キプロスのATMでも、トルコ・リラ以外の通貨が引き出せそうです。
2010年にトルコに滞在したときも、イスタンブールからウクライナのオデッサに渡るフェリーが米ドル払いだったので、ATMから引き出したことを覚えています。
◆米ドル、ユーロが必要なケース
・ビザ(査証)の入手
アフリカのビザ代は米ドルで支払うことが多かったです。今回トルコで入手した米ドルも、エジプト、スーダン、エチオピア、ソマリランドといった国々のビザ代に使われることになるでしょう。アメリカと仲が悪いイランのビザはユーロ払いが基本でした。
50米ドルを払ったケニアのビザ。
・ATMが使えない国
かつてのシエラレオネのように、そもそもATMがない国。イランやスーダンのようにアメリカとの関係が悪く、ATMが国際キャッシュサービスに対応していない国。また、ウズベキスタンやベネズエラのように、ATMは国際キャッシュサービスに対応しているものの、国内経済が混乱していて実勢レートと差がある国。このような国では、両替所や市場で米ドルやユーロを現地通貨に両替していました。ちなみに、同じ100米ドルでも「10$札が10枚」より「100$が1枚」の方がいいレートになることが多いです。携帯に便利な高額紙幣は重宝されます。
経済混乱の影響で闇両替が一般化していたアルゼンチン。ATMはレートが極端に悪くなるので、利用しませんでした。
・少しだけ両替
少ししか滞在しない国は、手持ちのお金を両替して乗り切ったりします。5日のトランジットビザで駆け抜けた、中央アジアのトルクメニスタンはそうしました。つい先日に南太平洋の島国を周った際は、トンガ、バヌアツ、ソロモン諸島で、事前に用意していた豪ドルを現地通貨に両替。ATMで引き出す際の手数料が500円近かったので、豪ドルを準備しておいて正解でした。
1泊2日だった中米のホンジュラスは、国境で20米ドルを現地通貨に両替して突破。
また、国境からATMのある街まで距離がある場合は、小額紙幣を現地通貨に替えて、それまでの滞在費を賄ったりします。
こうしたことがあるので、長い旅をするならば、どこで米ドルやユーロを入手するか、計算しないといけません。このトルコ以外にも、「ユーロ圏だけではないユーロの国、アメリカだけではない米ドルの国」という記事でも紹介しましたが、中米のパナマやアフリカのジンバブエは、現地で流通している米ドルが、ATMからも出てきます。そして、今回のトルコ以外にも、南米ならペルーやウルグアイのATMで、米ドルの入手が可能。こうしたスポットを頭に入れて、裸で現金を抱えるリスクも勘案しつつ、上手く旅を進めていきたいものです。
ちなみに、これだけ大量に引き出しをした翌日に、一時1ドル=116円台まで米ドルが下がり、きっちりと話にオチを付けてくれました。
(文・写真:周藤卓也@チャリダーマン
自転車世界一周取材中 http://shuutak.com
Twitter @shuutak)
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