取材

ウクライナのクリミア半島が編入されたロシアで販売されている最新版の地図


全世界を震撼させたロシアによるクリミア半島編入。最近ではドネツクやルガンスクといったウクライナ東部地域の騒動が目立っていますが、それより先にニュースの舞台となったクリミア半島の、ロシアにおける扱いが気になっていたので、モスクワ滞在時に最新版の地図を探してみました。

こんにちは、自転車世界一周の周藤卓也@チャリダーマンです。旅行中はクリミア半島出身のウクライナ人サイクリストと一緒に走ったり、トルコのイスタンブールから同半島のセヴァストポリへの船を探したりしました。身近に感じていた場所だったからこそ、ロシアによるクリミア半島編入のニュースには耳を疑いました。

◆事の発端
ウクライナの首都キエフを中心とした民衆デモによって、親ロシア路線を強めていたヤヌコーヴィチ前大統領は国外脱出。欧州連合寄りとなった新政府に、クリミア半島で多数を占めるロシア系住民が反発し蜂起。住民投票による圧倒的な支持を経て、ロシアに編入され、今に至っています。アメリカ、欧州連合、日本などは認めていませんが、ロシアに近いベラルーシやアルメニア、アメリカに反発するボリビア、ベネズエラなどはクリミア半島のロシア領有を承認しています。

◆ロシア領となったクリミア半島
滞在中にモスクワで最大級の本屋と紹介される「ドムクニーギ」を訪問。大きな本屋だけあって、地図の種類も豊富でした。古い地図ではクリミア半島はウクライナ領という認識。ただし、最新の地図となれば状況は違ってきます。

こちらが手に入れた最新版の地図。自転車で走るなら手元に確保しておきたいほどの上質な地図で、デザインも洗練されていました。


表紙に描かれた広大なロシアの国土。


ロシア全土の地図かと思っていたのですが、モスクワと近郊しか載っていませんでした。シベリアやカムチャッカ半島は、どんな道が繋がっているのか興味津々だったのに残念。


地図を眺めてみると……

ヨーロッパで最も人口の多い都市にして、1000万人を越える人々が住む首都モスクワ。ロシア各地に向けて放射状に道路が伸びています。


北極圏最大の都市で、世界最北の不凍港を持つムルマンスク。最果ての場所で営まれる暮らしは、チャリダーマンの興味を惹きつけてやみません。


道路も少なく緑ばかりのこの辺りは、どんな景色が広がっているのでしょう。


ポーランドとリトアニアに挟まれたカリーニングラードは飛び地のロシア領。その歴史は第二次世界大戦の敗北によるドイツ東部領土の割譲で、この地に住んでいたドイツ人は追放されました。


そして、こちらがロシア領となったクリミア半島。ニュースを見ているだけでは実感がなかったのですが、ウクライナ本土から切り離された国境線は衝撃的でした。


親露派民兵とウクライナ軍との間で戦闘が続くウクライナ東部地域はこの辺り。赤枠のドネツクはルガンスクと共にニュースで聞くことも多いでしょう。こちらもロシア系住民が多数住むことから、欧州連合よりとなった中央政府に反発し、今なお騒乱が続いています。


ドネツクは国境地帯になるので理解できるのですが、更に東のウクライナ領土も地図に載っていて不思議でした。ウクライナ東部には、多数のロシア系住民が住むという事情からかもしれません。


◆ロシアの地図
1982年に領有を巡って軍事衝突の舞台ともなったイギリス領フォークランド諸島は、アルゼンチンの地図では自国領として記載があったり、朝鮮半島は一つの国という理由から、韓国の地図には北朝鮮との国境が無かったり、国によって地図の形も違っています。北方領土や竹島の国境紛争を抱える日本の地図も同様でしょう。そして、ロシアの地図も同じように、複雑な「お国事情」を抱えていました。

2008年の北京オリンピック開催中にグルジアと軍事衝突が起きた南オセチアを、ロシアは国家として承認しています。オセット人が多数を占める南オセチアは、ソビエト連邦時代はグルジア・ソビエト社会主義共和国の自治州でした。グルジアが独立することによって、南オセチアは中央政府と対立し、ロシアよりの姿勢を強めます。日本を含む多くの国ではグルジアの領土とされているものの、政府による支配は及んでいません。


同様にアブハジアと呼ばれる地域も、グルジアの実効支配が及んでいません。こちらも、2008年の南オセチア紛争を受け、ロシアは独立を承認しました。


そして、日本の北方領土に目を向けると、当然ロシア領となっています。戦後に小笠原諸島や沖縄を返還したアメリカと比較しても、解決の糸口が見えない北方領土問題……。


◆モスクワからクリミア半島へ
もう一つ、クリミア半島がロシア領として扱われている地図を見つけたので購入。「モスクワからドライブでクリミア半島」がテーマで、紛争の舞台となっているウクライナ東部を避けるルートが紹介されていました。日本だと北海道北部と同じ緯度でも、モスクワ市民にとっては温かい南の保養地。ヤルタやセヴァストポリはクリミア半島を代表する観光地です。

地図は一枚の紙を折り畳んだ形。何よりフランス系のスーパーマーケットに置いてあったことに驚きました。


左側のウクライナを通る旧ルートでなく、右側のロシアを通る新ルートが紹介されています。


こちらもウクライナとロシアの国境がクリミア半島の付け根に引かれていました。


◆グーグル・マップでは
意外なことにグーグルマップ上だと、クリミア半島はウクライナ領ではありません。インドとパキスタンが領有を争うカシミール地方と同様に、国境未確定の破線が引かれています。


◆紛争中を体感
ビザさえ取得すれば普通の国のように旅行ができたロシアですが、滞在中にモスクワの中心となる赤の広場が封鎖され、何らかの式典が行われていました。寒空の中で演説するプーチン大統領。テレビからは、重々しい空気が伝わってきます。

式典が行われていた11月7日はロシアにとって特別な日で、旧ソ連時時代にはロシア革命記念日として盛大な軍事パレードが行われていました。ソビエト連邦崩壊によって廃止されたものの、近年では第二次世界大戦でドイツの包囲が迫る中で行われた1941年の軍事パレードを再現する形で復活しています。独ソ戦はロシアにとっても国家の存亡をかけた戦いでした。

11月5日、大規模な舞台が組み立てられていた赤の広場は午後には立入禁止に。


社会主義の象徴でもある赤や、軍人への勲章にも使わている星に、日本とは違う空気を感じました。


子どものおもちゃのようなハリボテの戦闘機。


過去の威信で国家をまとめようとする光景に、紛争の当事国にいることを実感しました。

ロシアがクリミアにおける住民の意思の尊重を訴えても、チェチェン共和国における一連の動乱を顧みると整合性がとれません。徹底的な弾圧は報復のテロとなって、ロシア国民の生活を脅かします。モスクワ劇場占拠事件ベスラン学校占拠事件は日本でも大きなニュースとなりました。地下鉄、航空機、空港といった場所でも自爆テロが発生しています。


敢えて擁護するならば、同じスラブ系民族が多数を占めるセルビアに対する欧州連合の二重基準は、ロシアが態度を硬化するには十分でしょう。セルビアからアルバニア系のコソボは独立したものの、ボスニア・ヘルツェゴビナにおけるセルビア人のスルプスカ共和国は独立は認められませんでした。一連のクリミア危機に対し、プーチン大統領は演説でコソボ独立を引合いに、西側諸国との対決の姿勢を鮮明にしています。

領土と民族の問題では、いつもたくさんの血が流れます。

このようにクリミア半島は、最新版のロシアの地図だと自国領扱いでした。今なお騒乱が続くドネツク・ルガンスクを含めて、どのような結末を迎えるか注目していきたいところです。

(文・写真:周藤卓也@チャリダーマン
自転車世界一周取材中 http://shuutak.com
Twitter @shuutak
)

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in 取材, Posted by logc_nt

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