取材

庵野秀明も顔を見せた「日本アニメ(ーター)見本市-同トレス」生放送レポート


「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の制作で知られるスタジオカラーとドワンゴが手を組み、日本のアニメの発展のための場として始めた企画が「日本アニメ(ーター)見本市」。11月7日から第1話「龍の歯医者」が公開されていますが、いったいどのようにしてこの作品は作られたのか、そもそも作家である舞城王太郎さんが監督を務めるにはどういった事情があったのかなどを解説する生放送が行われました。

日本アニメ(ーター)見本市
http://animatorexpo.com/

【ゲスト:鶴巻和哉、亀田祥倫】日本アニメ(ーター)見本市-同トレス- - 2014/11/10 22:00開始 - ニコニコ生放送
http://live.nicovideo.jp/watch/lv197515458


MCは山田幸美さんで、アニメ特撮研究家の氷川竜介さんがアニメコンシェルジュを務めました。


最初に「龍の歯医者」の上映が行われてから、解説が始まりました。


そもそもタイトルになっている「同トレス」とは何なのかを、氷川さんが実際に作画机を使って説明。作画机は中央がガラスになっていて、下から光を当てて同じ絵をトレスできるようになっていますが、まったく同じ絵をトレスすることを「同トレス」と言うわけです。ちなみに、この生放送の会場は都内某所にあるスタジオカラーの建物だったりします。


今回のゲストは「龍の歯医者」の演出を担当した鶴巻和哉さんと、アニメーションキャラクターデザインを担当した亀田祥倫さん。


スペシャルゲストとしては企画の立案者でありスタジオカラー代表の庵野秀明さんも登場。実は亀田さんが間に合わないかもしれないので場を繋ぐためにスタンバイしていたとのことですが、構想1年の企画が無事始まったことに安堵の表情を浮かべていました。庵野さんの登場は告知されていなかったこともあり、ニコニコ生放送では大きな反応が

この「日本アニメ(ーター)見本市」という企画の中は、声がある役は山寺宏一さんと林原めぐみさんの2人ですべて演じることになっています。これは、作品数が多く中身もバラバラな企画において、登場キャラクターが大量にいるような作品が出てきたとき、そのたびにキャスティングするというのは予算的にもキャストを集める物理的問題からも難しいため、「2人でやればいいじゃないか」ということから、まるで電気が点くように「山寺さんと林原さんなら」と庵野さんが思いついたものだとのこと。そんな山寺さんと林原さんからは、それぞれ企画に対しての意気込みを感じる長いメッセージが届いていました。


初回を舞城王太郎さんに依頼した理由は「巨神兵東京に現わる」を作った時に遡ります。このとき、作品を単なる特撮で終わらせないために「文学の匂いをさせたい」と樋口真嗣監督が提案。奥さんである安野モヨコさんが舞城さんのファンだったことから庵野さんは本を読んだことがあり、連絡を取ってみるとOKがもらえて、劇中のテキストを舞城さんが担当することに。今回の企画でも、舞城さんと食事をしているときに「企画があったらやりますので、出しませんか?」と打診してみたところ20本ぐらいの企画が届き、その中から鶴巻さんと舞城さんで選び出したのが「龍の歯医者」だったというわけです。

庵野さんが多忙のため退席後は「アニメーション業界でははじめまして」という舞城さんからのメッセージが読み上げられました。小説、マンガ、実写映画、ドラマなど、それぞれの表現方法にそれぞれの味がある中で、この「龍の歯医者」はぜひアニメにしたかったのだそうです。


鶴巻さんによると、もともとは原案と脚本をやってもらう予定だったのですが、舞城さんの小説にある独特の文体から、映画の編集でカットをどう切るかみたいなものに興味があるのではないかと考えて、ふと「監督もできるんじゃないか?」と、会ってみて持ちかけてみたら舞城さんはノリノリで監督を引き受けてくれたのだとか。


舞城さんが送ってきた20本ものプロットの中から、タイトルから中身が想像できてこれならできそうだと「龍の歯医者」が選ばました。それは、現在主人公のように描かれている少女がまだおらず、単純に「龍」と「龍の歯医者」の友情のようなお話だったそうですが、いざ舞城さんからプロットが上がってくると今回のようなお話になってきたのだそうです。


小説家でありつつ、絵も描く舞城さんは絵コンテも担当。描いているうちにどんどんアイデアが膨らむため、長さが10分以上になり、鶴巻さんが入って舞城さんに代替案を出したり「もっと短くしないと完成しません」となだめたりすかしたりして、ようやく現在の形に落ち着きました。


龍については、舞城さんは「ドラゴンクエスト」などに出てくるような、わりとイメージしやすい姿を想定していたようです。


ここは鶴巻さんが「それではありきたりになる」と考えてイメージを提出、これを見た舞城さんは「面白い!」と、こっちの方向で進むことに。しかし、龍はかなりいろいろとデザインしたにもかかわらず、作品の中では全身が見えるのは最後の1カットだけなので、ちょっと鶴巻さんは残念そうでした。


ちなみに、キャラクターデザインは小坂泰之さんが担当。もともと鶴巻さんがPixivで一方的に知っているという関係で、ヱヴァなどではチャンスがなかったものの「いずれ一緒に仕事ができれば」と考えていたので特にコンタクトを取らずにいたところ、今回がいい機会だと連絡を取ろうとしたらアカウントが消えていて、なんとかうろ覚えのサークル名や同人誌のタイトルから連絡を取ることができた、という繋がりだそうです。なお、この制作中はずっと電話とメールでのやりとりで、面識がないままに作業が進められたとのこと。

作画監督を任された亀田さんは、当初は原案を無視して描いてしまう部分もあったそうですが、ともに絵柄に80年代後半から90年代のテイストっぽいところがあり、近いものを感じたことで寄せていけるかなと考えて整えていったそうです。ただ、先輩の顔はなかなかしっくりと落ち着かなかったそうです。


そんな亀田さんを鶴巻さんが抜擢したのは、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の鶴巻さんのパート(セントラルドグマに降りた13号機が改二号機と戦うあたり)で、丁寧な原画ではないものの物怖じしないアクションを描いてきて、特に鶴巻さんが好きなアスカがよく描けていたことが理由。鶴巻さんいわく「かわいい女の子が描ければ作画監督になれます!」


作品の音楽は小山嘉嵩さんが担当。舞城さんから相当のダメ出しがあり、それに応えるためにかなり大変な仕事になったようです。

アニメコンシェルジュである氷川竜介さんは「氷川の二度見」のコーナーで作品のポイントを解説。今回挙げたのは「高所恐怖のレイアウト」で、この高いところを使った恐怖というのは映画でも古くから使われる歴史のあるものですが、アニメの原画は単なる平面なのになぜ高さを感じるのかを解説してくれました。


龍の鱗が大きく映るシーンだと、左手側(手前)の鱗と右側(奥)の鱗とで比率が変わっていますが、これはレイアウトの時点で計算されたもので、パースによって迫力を生み出しています。


また、もう1つは雲を使った部分。最初に先輩が説明しているときは、カメラワークが下からの時に雲が上の方に描かれています。


みんなが進んでいくと、雲はやはり行く先にあってゆっくりと動いていきます。


このカットだと、右側の雲には「1.3ミリ/K」、つまい1コマあたり1.3mm動かすという指示が書き込まれています。これは、雲が高いところにあるという観客のイメージを利用したもの。


しかし、気付けば雲はキャラクターの足元にまで来ていて……


少女が落下すると、その雲に吸い込まれていきます。このように、連続的に繋がっているという印象をいかに紡いでいくか、そしてお客さんに気付かれないように雲の位置を変えていくか、という技が使われているわけです。ちなみに、雲はコストをかけずに簡単に空間を作れるモノで、宮崎駿さんなどは雲使いを得意としています。


そして、解説生放送は「クリエイターの履歴」という、ゲストのパーソナル面に迫るコーナーへ。


まずは「アニメに興味を持ったきっかけは?」という質問だったのですが、鶴巻さんは子どものころからアニメを見ていたためキッカケが何かは思い出せず。一方、亀田さんは業界に入りたいと思ったキッカケはエヴァを見たことで、こうして鶴巻さんと仕事をしたり、庵野さんと一緒の企画に参加したりして、幸せな時間を過ごしていると回答。

そんな亀田さんの好きなジャンルは、基本的には子ども向け。自分が見てきたものがなくなるのはイヤなので、子ども向けをやりたいと語りました。鶴巻さんが好きなのはロボットアニメ、そしてラブコメだとのこと。

さらに、クリエイターたちから回答を集めて法則を作ろうと考えているというフリから繰り出されたのは「あなたは猫派?犬派?」というもの。鶴巻さんは即答で猫派、亀田さんは「犬派だったけれど、ここ最近は猫もいいかな?」という回答で、氷川さんから「これはアニメに関係あるんですか?」という冷静なツッコミが入っていました。回答を集めると何か見えてくるものはあるのでしょうか……。

最後に、「アニメとは?」に対する回答を色紙に書いてもらったということで出た鶴巻さんの答えは「アニメはアニメ」。これはアニメが大好きなので、アニメが他の何かで代用される必要はない、アニメとはアニメである、という答え。


そして亀田さんからは……「←」、つまり鶴巻さんと同じく、アニメはアニメであるという答えでした。


氷川さんが「7分の作品ですが、その何十倍も楽しかった」という解説生放送、ぜひ「龍の歯医者」をもう一度見るときには高さ、そして雲の動き・位置に注目して見てみてください。

「日本アニメ(ーター)見本市」第2話は谷東監督の「HILL CLIMB GIRL」。氷川さんによると、自転車モノの作品で、自転車をアニメで描くのは大変なのでどんな映像になるのか乞うご期待、とのこと。

第2話「HILL CLIMB GIRL」予告編/日本アニメ(ーター)見本市 - ニコニコ動画:GINZA

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in 取材,   アニメ, Posted by logc_nt

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