サイエンス

猫の手ならぬ「アザラシの頭」を借りて解明される地球の海洋大循環


猫の手も借りたいという慣用句を耳にしたことがあると思いますが、南極海周辺における海洋調査では、「アザラシの頭」を借りて人の力が及ばない場所の調査が行われ、地球の海の詳しい姿が解明されています。

Seals lend scientists a helping flipper in the Southern Ocean | Ars Technica
http://arstechnica.com/science/2013/12/seals-lend-scientists-a-helping-flipper-in-the-southern-ocean/

海洋調査で用いられる装置の一つに、CTDと呼ばれるものがあります。この装置は海水の電気伝導度、水温、そして水深を計測し、その数値から海水の塩分濃度を算出して海上の調査船へと送信してデータを蓄積して行くようになっているのですが、専門の調査員や設備、船などが必要になるために、非常にコストがかかるのが現実です。

By Ocean Networks Canada

このコストを下げるための新たな装置が南極大陸近辺の南極海で調査を行っている研究員によって開発されました。その装置は海域に住むアザラシの頭の上に取り付けられ、通常では入手困難なデータを手に入れるものになっています。


これに似た試みとして、アルゴ計画と呼ばれるものがあります。アルゴ計画は、地球全体の海洋変動をリアルタイムで捉えることを目指した大規模な国際プロジェクトで、「アルゴフロート」と呼ばれる観測機器が水深2000メートルから海面までの間を自動的に浮き沈みして水温・塩分等を測定し、人工衛星を介してデータを収集するという仕組みになっています。

By fruchtzwerg's world

しかし、南極海域では海面に浮かぶ氷山などが障害物になり、システムがうまく作動しないことがありました。その問題を解消するために考え出されたのが「アザラシに調査を手伝ってもらう」ということだったのです。

そもそもの発端は、アザラシの生態を調査していた研究員による発案でしたが、そのことを聞きつけた海洋学者のチームがそれに乗る形でプロジェクトは進められていきました。発表されたばかりの報告書では、2004年から2010年にかけ、349頭のアザラシの「協力」によって得られたデータをもとにした調査結果が発表されています。

アザラシは水深500メートルから最大で2000メートルの地点まで潜ることがあり、その間に頭部に接着されたこぶし大のCTD装置がデータを収集して、次に水面に現れた時にデータを送信するという仕組みになっています。装置の寿命はバッテリーが切れる5か月となっており、一年に一回生え替わるアザラシの体毛と一緒に抜け落ちるようになっています。


調査の精度を高めるために研究員が改良を続けた結果、得られるデータはアルゴ計画と同等のレベルに達しています。データは、海水が地球規模で循環する「海洋大循環」の仕組みを解明するのに用いられています。海水は、南極海付近に浮かぶ氷により冷やされて比重が大きくなること、そして海水が凍ることで塩分濃度が上昇することによっても比重が大きくなるために、海の底へと沈んでいきます。この下降流が原動力となって、海洋全体の循環システムが形づくられているということが明らかになってきたのです。

未知の南極底層水を発見 ─海洋大循環を駆動する一番重い水─
http://www.nipr.ac.jp/info/notice/20130304.html


立っている者は親でも使え」という言葉のとおり、急いでいる時や必要な時には都合のいい相手に頼むのが解決の近道といえるのかもしれません。ただし、アザラシが迷惑と感じていないことを願うばかりです。

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in メモ,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

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