取材

デジタルに必要なアナログマインド、そしてどのようにして夢をかなえたのかを「スター・ウォーズ」などに関わったマットペインター上杉裕世が語る


「スター・ウォーズ」シリーズでデジタル・マットアーティストを務める上杉裕世さんにデジタル化以前、以後の映像製作の技術の移り変わり、そしてそれについての考えを聞く機会をCEDEC2012で得ることができました。渡米するための資金を得るために「仮装大賞」にエントリーした経験談など、貴重な話を聞くことができました。

デジタル製作環境におけるアナログマインド
http://cedec.cesa.or.jp/2012/program/KN/C12_I0281.html

斎藤 直宏さん(以下、斎藤):
皆さんおはようございます。CEDEC2012の運営委員長をしている斎藤と申します。今日は司会進行をさせていただきます。よろしくお願い致します。


上杉 裕世さん(以下、上杉):
よろしくお願い致します。


マットペインティングという役割がありますが、これはかなり古い時代から確立されている映画の特撮で使われるテクニックで費用対効果が高い技術です。

スターウォーズ エピソード3の超高画質マットペイント - GIGAZINE


これと、僕が始めた頃と現在との両方について、その技術に関する説明をします。「INDUTRIAL LIGHT & MAGIC (ILM)」は映画監督の「ジョージ・ルーカス」が「スター・ウォーズ」の特撮を作るために立ち上げたスタジオです。「スター・ウォーズ」の3作目の頃に猛烈に憧れていましたが、これは僕がILMの黄金期じゃないかと思っている時代の作品です。

ある程度の特撮の知識を持った状態でこの映画を見ていたのにその時は全く気付かなかったのですが、後にメイキングの写真集を見たときに大変驚きました。「何百体もコスチュームを作るのは大変だろうな」と思っていたのですが、実はこれだけの数を絵で描いていたのです。そう考えると、とにかく費用対効果の高いトリックです。


さらに時代をさかのぼって、「ピーター・エレンショー」という巨匠のような、ILMなどの何百人もかかえる大スタジオが登場する以前の個人単位の天才的な人たちが活躍していた時代がありました。まず、一人の職人が写実的な絵を描き、光や影、何を見せたいのかなどをトータルでデザインする。そして実写に合わせて同じトーンで写実的な絵を描きますが、これは境目がどこにあるのかわからないにようにする特殊なスキルが要求されます。当然デジタル以前の作業というのは、作業が進行するベクトルが2つあります。一つは写実的な絵を完成させる、もう一つは境目がわからなくなるまでブレンドすること。この作業、特にブレンドする作業は現在のデジタルの技術だと5~10分でできる。しかし、以前は色のあたりをつけて乗せてみて撮影して、翌日まで待たないと結果が出ない。一番いいところをつかまえて発展させて撮影して、また次の日に結果を見るという風に、すごく根気がいる作業です。それを1週間、2週間継続して完成させます。当時はそれが当たり前なのでそうやっていましたが、デジタルで似たような作業をやるようになって昔を振り返ると「よくこんな作業してたな」と感心します。


また、この技術は2次元から逃れられないという面もありました。そのような制限があるなかで、例えば合成の仕方で実写部分を絵の中にどう持ってくるかということに関しては、いろんなテクニックがあり、ある程度カメラワークで可能な方法論もあります。しかし、それはあくまでカメラの視点が動かない状態でパン、チルト、ロール、そのコンビネーション、そしてズームを加えるとか首を振る動作しかできず、主観移動というのは無理でした。

僕がILMで働きだしたのは1989年ですが、1990年代前半から徐々にデジタル化が進んできて、我々の仕事も最終的にはフルデジタルになりました。その段階では、以前やっていたことを新しいやり方でどうやってやるかということで精一杯で、その他の可能性の追求というのはまだまだでした。しかし、頭の中ではこれを機会に3次元表現ができないかと考えていました。


時代は前後しますが、制作は1995年、公開は1997年の作品で、一番最初に3次元の表現ができました。この頃、CGというのはどういった段階だったかと言うと「ジュラシック・パーク」が最新というものです。

Jurassic Park Trilogy Blu-Ray Trailer 1080p HD Oct. 25 2011 - YouTube


「ILMに入れる=スター・ウォーズ」に関われるという認識でしたが、1989年に入社して1998年にやっと実際に関わることができました。「スター・ウォーズ」関係で動きだしたのが、スペシャルエディションです。今となってはこれが正しい選択肢だったと思います。なぜかと言うと、ジョージ・ルーカスが特撮から離れていた時代にデジタル化が起こり、彼の知らないところで技術はすごく発展していた。彼のプロデューサー的な視点から新しい技術でどういったことができるのか実感することが必要でした。一方、我々はスケジュールに追われる毎日でそんなに新しいことは試せなかったのですが、このときはジョージ・ルーカスのスタンスもわかっていたからこちらからいろいろ提案できたし、例えばストーリーボードをもらったときはちょっとズームインするくらいの設計だったんですが「これが3次元表現ならば効果的に見せられる」と提案しました。

カメラマップというのは今では当たり前のテクニックで、コンピュータの中に世界を作って光源を置いてライトでものを照らして光があたっている部分と影をシミュレーションして絵を作り出すのでは無く、いわゆるテクスチャマッピングの延長でカメラと全く同じコンセプトをもったテクスチャを照らしだすものです。空間のなかのポイントからカメラのようにある一定の幅で映写するわけです。それに対して視点移動がある、それだけのことなのでコンピューティングの部分も軽い。

斎藤:
毎フレームを計算するわけではない?

上杉:
毎フレームは計算しますが、やっていることは結局3Dワーキングなのでパースを変えているだけです。なぜそういう選択肢をとったかと言うと、やはり僕がマットペインターだからです。当時、最先端でいわゆる個々の物質を写実的に表現することはできました。つまり、世界にはじめてCGでは無理だろうと言われていた恐竜を表現できたので話題性がありました。でも、大きな景観をCGで表現できていなかった。例えば大手ゼネコンの研究室のようなところが、「昔の古代遺跡はこんな風でした」という空撮は見るからにCGという感じでした。それはなぜかと言うと、正直にコンピュータの中に世界をシミュレートして太陽光をシミュレートして光と影をシミュレートしていたからです。それに対して、僕はマットペインターなので写実的に一枚の絵を作りあげることはそんなに難しいわけではないです。それをある空間から成立するように形状を作ってマッピングしてカメラフレームごとに発想を変えた方が、感覚的に合います。視点が変わればテクスチャがカバーしていない部分が見えてきて、それをどうやって解決するのかなど、いろいろ試行錯誤しました。


最近のものでは「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」という映画で使われた、チェルノブイリの壊れている原子炉があります。

Transformers 3 - Dark of the Moon | OFFICIAL trailer #1 US (2011) - YouTube


すごく偶然なのですが、このショットをとっていたときに「3.11」の大地震が起きた。だからニュース映像とかで、原子炉って一体どんなものなのかということがよくわかっています。このとき製作されたものは、「3.11」以前のなんとなくな原子炉で、誰しもが「こんなのじゃないの?」って思い描く原子炉です。その後、全然こんなのではないことがわかりました(笑)。

カメラマンが自分のイマジネーションでカメラワークをつけてやったのですが、これを元にしてみるとパンのタイミングなどが理想的ではなくスケールが小さくなってしまうので、いじる必要がありました。ちょっとわかりにくいかも知れませんが、かといって実写を使わなくてはいけないので、強制的にカメラがチルトしたタイミングとかを自分の都合の良いようにすることによって、兵隊たちがなるべくフレームの中にいてもらえるようになっています。また距離感を変えています。すごく地道な作業ではありますが、個々のショットを完成させるためにマイナーなアジャストメントは必要になります。

斎藤:
けっこういじっているのですね。


上杉:
けっこういじっています。このショットで一番気に入っていないのはセットの岩ですね。作り物としてはよくできていて比較的ライティングも上手にしてあるのですが、そこにあるものが20倍、100倍、2000倍と広がりをもった月の表面を作るといった僕に与えられたテーマを考えると違和感を感じます。だから、できる限り実写にあったものを消す作業をしています。とは言っても僕の単独の判断ではできない。全体の流れ、シークエンスとして成立させるために共通していないといけない部分がありますから、このショットだけを追究したらもっと色は減らしたいと思うのですが、他のショットで別アングルからというのもあるので、それを考えると徹底してはできなかった。

ちょっと古くなると、「スター・トレック」もあります。敵であるバルカンの文明には異文化っぽいテイストを持ち込みたいというのがあったので、とにかくスケール感を反映させるのが大切でした。

Star Trek - Trailer - YouTube


マットペイントの説明の際に忘れていたのですが、特撮の映画の世界に入るにあたって8mm映画とか高校、大学とかやってて、全部やりかたったんです(笑)。高いレベルで仕事をするためには自分のフィールドを固めなければいけません。それで、どこに絞ろうかと考えたときにマットペイントが魅力的だった。なぜなら、当時のILMをモデルとする組織などを考えるとマットペインティングだけが最初から最後まで一人のアーティストが関わってショットを仕上げます。モデルショットの人は精巧なモデルを作りますが、モデルができると撮影に渡さなければいけません。自分の作った愛着のあるものが、悪い言い方をするとどう料理されるのかわからないわけです。映画のスクリーン上で自分の作ったものが違和感なく特撮として成立するためには自分のコントロールできないところが機能してショットが成立するわけで、それに比べてマットデパートメントのなかで完結している仕事というのはショットデザインもあるし、撮影にも立ち会う、写実的な絵も描く、最終的なショットの完成まで責任を持つ、そこがいいなと思いました。

斎藤:
どこまで手を入れるかやどこに注力するのか、そしてどこで力を抜くのかなどはどう考えながら作りますか?

上杉:
そこの見極めは大事だと思います。長い制作期間の中でものを作ることって全てが同じような形で仕上がっていきません。もし、切り替えることで可能になる他の手段がある場合は、迷わず切り替えます。会社のなかの大きなパイプラインがあるとすると、ILMの中で資金やスケジュールを大きく注ぐ部分はキャラクター、アセットです。「トランスフォーマー」がいい例です。デザインのリバイスを繰り返し、監督とやりとりをして形状を決め、モデリングに時間をかけ、どんなアングルでどんな部分が画面いっぱいになっても耐えられるくらいの高解像度のテクスチャを職人がとにかくたくさん描いて、ライティングの方が毎日データをアップデートしながらターンテーブルと呼ばれる環境光を再現した中でレンダリングをするんですけれど、違和感なくあたかも撮影してきた場所の中にいるかのような存在感を持ったクオリティになるまでつめていきます。何ヶ月もかけてクオリティをあげていき、それができあがって初めて大量生産に入る。全部のロボットで同じ作業レベルまで進んだところで、アニメーターがアニメーションをつけ、物理シミュレーションが必要であれば物理シミュレーションを加えたりしながら、レンダリングしてコンポジットします。なぜその方法論が成り立つかというと、同じロボットが一つの映画の中で200ショット出てきた場合、コストを分散させることができるからです。それに対して僕らがやっている仕事というのは、さっきのチェルノブイリの原子炉もそうですが、あのアングル、あの場所は1ショットしかないのです。そこにロボットと同じ時間をかけてモデリングをすることは非常にムダです。ということで、ぼくらがやる仕事は1ショット1ショット違う方法論かも知れないし、とは言っても同じ設定で1シークエンスのなかに4、5ショットある場合もありますので、ある程度の共通した方法論を探りますが、キャラクターなどに比べれば独立性、単独性が高いです。

斎藤:
時間がかかるのであれば違う手法をとって……


上杉:
そうですね。ものすごくプリミティブなレンダリングをします。当時はまだグローバル・イルミネーションとか発想すらも無い頃で、レンダリングに一年かかります。ものすごくCGっぽいところで作業を終わらせたとしても、そこからリタッチを加えたりしてリアリスティックにもっていくことはできたわけなので、当然そちらを選びます。

これは最近の仕事ですが「バトルシップ」という映画があって、僕は最後のヘルプ的な関わりだったのですが、僕的に気に入ったショットがあります。どのショットもコンポジットだけで成立する2次元ショットを除いては必ず3D的要素が入ってきますので、実写を元にして、レイアウトの部署がカメラアングルとか世界の成り立ちやどのユニット単位で物が存在しているのかという決まりごとを決めて、それができた段階で僕らは作業を始めるのですが、そこのレイアウトは非常に優秀でした。

Battleship Final Trailer 2012 [HD] - Official Movie Trailer - YouTube


スター・ウォーズ エピソード1」のショットについてお話します。ちょうどクリスマス休暇に入るタイミングで作業が遅れ気味だったので、持って帰れる仕事は無いかと考えたら、プラットフォームの上を歩く人を合成するっていう部分が残っていました。このショットはシークエンスの中ではものすごく大事で、3つの場所から1箇所にその後の「エピソード2」「エピソード3」で出てくる主要なキャラクターが一同に会するところで、子どもの「アナキン」が船に乗って旋回しながら着陸するのですが、「あそこには誰々が来ているよ」「あそこには誰々が立っているよ」みたいなセリフでの補足もあるのですが、誰が誰なのか認識できないといけません。また、僕が担当していたショットが非常にワイドで、この実写撮影をした素材はありましたが表面を滑ることなく歩いているように見せて合成しなければいけませんでした。

僕らのやるショットというのはワイド系のレンズが多いです。広い景色が見たいという展開で、引いている感じがすごくあります。このロングレンズな感じ、ドキュメンタリーな感じが新鮮で、「これはいける」という感じがあって、ジョージ・ルーカスに進言してもらって実際にショットを成立させた。今日のテーマは「アナログマインド」ですが、ここではとてもアナログマインドが発揮されています。今だとCGで人間を作ってしまうし、ケープを着たような人物というのは物理シミュレーションでのリアルさに目を奪わせておいて、他の描写をつめなくてよくしていたりする。そういう意味で、逆に今だと作りやすいです。当時はまだそんなレベルではありませんでした。例えば、一人ずつ撮って、影とかリフレクションとかをコンポジットで乗っけていかなくてはいけなかったので、バラバラに撮っています。なぜなら、個々に調整できるほうが良いからです。またパースを再現するために、歩いている道すじというのはまっすぐなのですが、カメラがあそこにいたとしたらこう歩いてもらいます。

斎藤:
まっすぐでは無い歩き方ですね。

上杉:
これは非常にアナログなやり方です。

斎藤:
結果はそうは見えないですよね。

上杉:
ここまでかなり時間をとりましたが、僕が入る以前から最近までのことをカバーした感じです。

斎藤:
今は大活躍されている上杉さんですが、もちろん若い頃もあったわけで学生時代にどんなことをされていましたか?

上杉:
学生時代は仲間7人くらいと文化祭に向けて8mm映画を作りました。もう、本当に学生のノリでワイワイと一つのものを作るのが楽しかったです。でも、お金がないので学校の周りの商店街を営業してまわって一口5千円でどうですかなんてやっていました、30秒のコマーシャルを作りますと(笑)。

斎藤:
スポンサーを集めていたのですか(笑)。

上杉:
8mmフィルムというのは3分ぶんがマガジンに入っていて、それを買って現像して2千円くらいです。だから30分の映画を作ろうと思ったら全く無駄なく作ったとしても2万円かかります。しかし、無駄なく使うなんてことは難しく、その倍使ったとすると4万円かかります。そうすると費用がバカになりません。だから本当にに商店街から集めてきた資金で楽になって……

斎藤:
資金は集まったんですか?

上杉:
集めたお金の半分以上がそうですね。これは高校2年生のときの話で、今度は高校3年生で「こんなに楽しいことをもう一回やらない手はない」ということで構想を練りました。結果的には解散となって作れなかったのですが、高校2年生から高校3年生にかけて考えていたことが今につながっている部分がすごくあります。今、思い起こすと考えていたことというのはどうやって特撮を成立させるのかという方法論ばかりでした。そんなことを考えながら武蔵野美術大学に入って、そこで「サカキバラ君」という人に出会いました。「サカキバラ君」は「サカキバラ君」で高校のときにどうやら僕と同じようなことをやっていたらしかったです。それから2人でまい進していました。僕は油絵科でそんなに課題がきつくないのですが、「サカキバラ君」は建築科でかなりヘビーな課題の合間をぬって僕と同じように趣味に関わっていました。目指していたのは「ミニILM」で、非常に原始的なカメラや、ILMがお手本で「素材を別々に撮ってオプチカル合成してなんぼだろう」という発想だったので、当然オプチカルプリンターも作った。「オプチカルのプロセスとはなんぞや」ということで、ブルースクリーンからトラベリングマットをどうやって作るかというのを試行錯誤しました。その95%くらいは失敗で、残りの5%をつなげて前に進み続むような毎日でした。

そういうことをしていたときに「東京国際映画祭」というのがあって、後に僕の師匠となる当時ドリームクエストというスタジオの創立メンバーだったロッコ・ジョフレという人が日本に来て、僕はそのときに何も見せられるものは無いですが「後に作品ができたら見てもらいたいので住所を教えてください」と言って、その後は就職活動として彼に見せられるものを作ろうとしました。そして、ロッコから「卒業したらうちに来なよ」という約束をもらって彼のところに転がりこみました。

斎藤:
ずっと映像を送り続けたのですか?

上杉:
そんなにたくさんは送ってはいないです。数ヶ月の活動を詳細なレポートにして送っていました。当時使っていたカメラを選ぶときに「サカキバラ君」と吟味して選ぶのですが、どう壊れているかにこだわるわけです(笑)。どっちみち壊しますから。なぜ壊すかというと、モーターを取り替えるためです。ステッピングモーターに取り替えることによって、フォーマットが違うだけでILMが使っているモーションコントロールパネルと原理的には同じものができます。

こちらは友達を集めて裸にしてたき火をたいて撮影して、こういうショートを作ったりもしていました(笑)。


会場:
(笑)

上杉:
雪が降ったらもうとにかく溶ける前に撮影です。2時間しかこの雪は保ってくれないので、ラフな絵コンテを描いてとりあえず撮影して詳しい設定は後で考えます(笑)。絵を描いて合成するのです。これは子どもをだまくらかして……


会場:
(笑)

上杉:
夕方のニュースに出るよって言って(笑)

会場:
(笑)

上杉:
ほんとうは「マウントラッシュモア」という歴代大統領の顔が刻まれているモニュメントがあるんですけれども、ロッコに送る作品集だったので大統領の顔の一つをロッコにしたかったのです、ゴマをする意味もこめて(笑)。でも、ロッコの資料が足りなかったので、全然関係の無い父親に出てもらいました(笑)。こういう感じのレポートをロッコに送っていました。1987年に彼のところに行ったんですけれども、そのとき彼はドリームクエストを辞めて自分でスタジオを構えていました。

これは、マーク・サリバンという人が自主制作していた恐竜映画のストップモーションです。僕も手伝わせていただきました。黄色いのはタオルで、ティッシュで作った花もあります。


上杉:
僕は、結果的に1989年にILMで働きだすことができたのですが、最初はとてもそんなことは考えていませんでした。キャリアを重ねていつかは行ければいいなくらいに思っていました。逆に言うとハリウッドという場所をものすごく意識していて、とてもやりたい仕事でした。でもすぐに行ける場所ではありません。当時よく失敗例を聞いていたのです。不法滞在が始まってしまうともうダメだとか。僕はその状態には絶対になりたくなかったのです、長いつきあいでアメリカに行ったり来たりしたかったですから。しかし最初は就労ビザがとれないことがわかって、いったん引き上げて長期戦略でマットペインティングができる状態に持って行きました。

ちょっと時間がなくなってきました。アメリカに渡るためのエポックメイキング的な映像があります、では日本テレビの映像をお願いします。

21回25番 カブト対クワガタ - デイリーモーション動画

※欽ちゃんの仮装大賞第21回の25番目

斎藤:
夢をかなえる(アメリカへ渡る)ための(資金を調達する)手段としてこれを選んだのですね。

会場:
(笑)

上杉:
結果、100万円です。

斎藤:
前にちょっとお話を聞いたときにマットペインティングというのは、アートとテクノロジー、イラストマンシップが絶妙なバランス具合で構成されていると……

上杉:
そうですね。どれかが突出しているというのはたくさんあるのですが、バランスしていないと成立しない数少ない分野だと思います。8mmで映画を作っていた頃から自分の資質が長期的に大きなビジョンで全体像を作るタイプではないなと早いうちからわかっていました。友達と作りだして一番最初にやったのがエンディングのロールでどういうギャグをかますかを考えたりとか(笑)、こう一点投入型なのです。集中は持続するけれど、小さな部分に注ぐ集中力であって、大きな部分に注ぐものでは無いとなんとなく自分の資質がわかりました。

斎藤:
ILMに入られたときにスーパーバイザーになりたいと考えたと思うのですが。

上杉:
そうですね。一昔前は特撮監督が花形で、当時のアカデミー賞や効果賞を取るというような、個人のスキルが表に出るような時代だったのです。現在、映画全体にはILMのチームがあってその上にスタジオ直下のスーパーバイザーがいてその下にILMを代表するスーパーバイザーがいます。もちろんクリエイティブなデシジョン・メーカーであることも重要ですが、近年より重要な役割というのは450人だったりする膨大な数のクルーを円滑に回していく能力、クライアント側と自分の部下たちの間、そして部署間のコミュニケーションのハブになれることです。つまり、コミュニケーション能力ですね。あと、誰からも好かれて嫌悪感をもたれず、その下で働いている人がポジティブでいられるような励まし上手という風にシフトしていって、ちょっとこれは僕の特性が向かうところでは無いなという気がしてきました。

斎藤:
最近コンピューターエンターテイメントというのは、ビジネスで考えた場合アウトソーシングというのが大きい。その点についてはいかがですか?

上杉
僕もすごくそのことは意識しています。というのは、ILMはアウトソーシングの部分では遅れをとっている会社だからです。例えば「ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス」さんや他のスタジオでは人件費の安いインドなどに大きなスタジオを建て、できる仕事はそちらにまわすということをやっています。僕は個人的には価格競争に入ったらそっち方向の努力は生き残るために無視できなかったりする事実はわかるけれども、結局それが行き着くところは発注する側はクオリティ管理しかできないということです。それは僕のやりたい仕事ではないので、そういう風に進んでもらいたくは無いという部分があります。また、アウトソーシングというのは短い目でしか見ていないと考えています。長い目で見ると、結局は後のライバルになるスキルセットを持った人間を育てることになります。また、アウトソーシングが成立しているのは、現在経済格差があるからで今は中国、今度は中国が高くなってきたからベトナムだ、などと、結局は一時しのぎの選択肢でしかないと思っています。それは回り回って自分たちを苦しめています。だから、アウトソーシングというてっとり早い手段に逃げるのではなくて、差がつく付加価値であったり、そっちの方を追究するほうが長い目では生き残ることになると考えています。

斎藤:
今後ものづくりをしていく中で、どういう選択をしていけばいいのでしょうか?若いクリエーターに向けて最後に一言お願いします。

上杉:
自分が好きなことを究めたいというマインドがあれば突っ走ることができます。だから、第一段階としては自分が何が好きなのかということをよく考えてみることだと思います。そして、それが見つかったとすれば「いや、こんなに苦労して」と人が言うようなことも、本人は全然楽しめるというわけで、これが一番大事なのです。

斎藤:
皆さんには、この言葉を自分の中で消化していただければと思います。以上です。

会場:
(拍手)

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in 取材,   動画,   映画, Posted by darkhorse_log

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