取材

アニメ作りは少しでもいいものを届けたいという気持ちと経営とのせめぎ合い、社長3人が語る「アニメ制作会社代表放談」


アニメを制作する会社は数多くありますが、企画から実制作までを行う元請ができる会社となるとその数は限られてきます。そんな会社の代表者が3人集まってトークを行うイベント「アニメ制作会社代表放談」が行われました。実際にアニメの制作を行っている現場とはまた違う、経営者としての視点からの話は、アニメがいったいどういうビジネスで成り立っているのかを知るいい機会となりました。

アニメ制作会社代表放談 - マチ★アソビ vol.8 2012.05.3~5.5開催



左からユーフォーテーブルの近藤光さん、Ordetの山本寛さん、ボンズの南雅彦さん。


このうち、近藤さんと南さんはアニメ制作の「制作」セクションから会社を立ち上げ、山本さんは監督・演出から会社を立ち上げたという違いがあります。

近藤光(以下、近藤):
どうですか、制作会社作ってみて。

山本寛(以下、山本):
後悔してます(会場笑)。本当に大変です、いろいろな所にご迷惑をかけたりしているので、今日は偉そうなことは言いません。

近藤:
南さん、どうですか。新しい会社もどんどんできていますが……ボンズは10年以上経ちましたよね。

南雅彦(以下、南):
14年ですね、今年の10月が15周年です。

近藤:
15周年記念、何かやるんですか?

南:
そのときにやるタイトルに「15周年記念」という冠がつきますね。

近藤:
いま放送中の「エウレカセブンAO」は14周年作品ということですね。今日、僕はエウレカセブンAOと「blossom」の応援でここに座っています。南さんがここに来てくれた理由の1つに、このあとufotable CINEMAで「ストレンヂア-無皇刃譚-」の上映があるので、あまり人が入っていなかったら大変だからこの会場でみんなに活を入れて連れて行くということを考えていたんですが、現状で整理券があと10枚しか残っていないそうです。ほっとしています。

南:
このあと映画上映前に舞台でちょっとトークをさせてもらうんですが、目の前のお客さん数人に「どう?ストレンヂア」って話すような形になったらどうしようかと思っていました。


近藤:
さて、制作会社をやっていて、どうですか。

山本:
僕は経営者としては素人なので、むしろそれも見越した上でULTRA SUPER PICTUERSというホールディングスを立ち上げて、サンジゲンさんなどの指導を受けつつちゃんとした会社にしていこうという、テコ入れ中です(笑)

近藤:
ボンズさんは南さんが独立したという形ですよね。

南:
そうですね、サンライズから独立しました。制作会社って本当に浮き沈みが大きくて、昨年は鋼の錬金術師の劇場版とか「トワノクオン」とか「NO.6」とかやったんですが、今年はエウレカセブンAOのみをやっています。

ボンズが昨年手がけた映画「トワノクオン」。故・飯田馬之介監督によるオリジナル作品で、全六章を2011年6月から11月にかけて連続公開しました。


近藤:
今日は映画館でストレンヂアの上映がありますが、「映画館を作るんですよ」という話を南さんにさせてもらったとき、「こいつ、何やってるねん?」という顔をされたことがあったんです(笑)。でも、そのときに「ボンズがもし映画館でかけたい作品があればやりますよ」と言ったら、即答で「ストレンヂア」と答えたんです。すごく格好良くて……やっぱり、南さんの思いが詰まってるんですね。

南:
ストレンヂア、公開してから5周年なんですが回収できてないんですよ(笑)

近藤:
今度、廉価版のBlu-rayが出るんですよね。


南:
以前のやつには絵コンテなんかもついていて少し高めの設定だったんですが、今度は7月にBDだけのものを出します。結構お安くなってます。

近藤:
みなさん、回収だそうですよ。

南:
ヤマカンも廉価版……

山本:
そうしたら10年で回収できますよ。大丈夫、200円で売るよ!(笑)ウソだよ、値段は決められないもの。


近藤:
ヤマカンとは共通の知り合いが多いんだけれど、みんな「悪いやつではない」って言うんだよね。「すごくサービス精神があるんだ、だからいらないことを言っちゃう」って。ああいうのは本意ではなくて、ヤマカン本人はすごくいいヤツなんだよと。だから今みたいに「200円でいいよ」ってサービスで言っちゃうんだけれど、あるサイトに載ると「ヤマカンが200円発言」ってなっちゃう。

山本:
また載るか……すみません。

近藤:
ちょっと、誤解をといていこう(笑)
僕から見ると、ボンズは「作画」というイメージがあるんですが、南さんの作画に対する思いとか、いかがですか?

南:
会社というのはクリエイターにとって「物作りのできる場所」だと思うんです。だから、アクションを描きたいというクリエイターの人が集まってくるとアクション作品になって、ストレンヂアみたいに普通だとなかなかできるものではないようなアクションものができたりするんです。

近藤:
なんでわざわざこんなところにカメラを置くの?というようなところから撮ってますよね。

南:
それがアニメだと思うんですよ。アニメって、カメラを本来なら置けないような所にでも置き放題だから。

近藤:
それがいいところですよね。どうですか、Ordetはこれからどういったスタジオを目指していくんですか?

山本:
僕らはまさに「かんなぎ」とかそういう作品でお芝居がメインのものを作ってきたんですが、このあいだオンエアさせていただいた「ブラック★ロックシューター」では不得手だったアクションものを、TRIGGERさんというもともと天元突破グレンラガンを制作していたチームに入っていただいて「こうやって作るんだよ」というのを指導していただいて、徐々に不得手な部分をつぶしていきたいと思っています。

2012年2月から3月に全8話が放送された「ブラック★ロックシューター」。Ordetがアニメーション制作を担当、監督は吉岡忍さん。


近藤:
特色としてこういった方向にしていきたい、どういうフィルムを作るスタジオになりたいというのはありますか?

山本:
実はOrdetになって、まだ山本寛監督作品がないんですよ。なので、まずは山本寛監督作品を作らないといけないと思っています。現在仕込み中ということで……

近藤:
自分の作りたいものが会社のカラーになっていくぞ、という感じで。

山本:
もちろんそれもそうですが、最終的にはヤマカンあってのOrdetだと言われるようにですね。今までは経営者だからと一歩遠慮していたところがありましたが、もうちょっと踏み込んで「俺の会社じゃい!」とアピールしていきたいと思っています。

近藤:
うちの会社では、とにかく手元にある時間はMAX最大限に利用してちょっとでもいい絵にしていこうという姿勢で作っています。ボンズも同じですよね?

南:
そうですね、最後にいろんなものが詰まってくるというところと、絵が完成していないと音がつけられないですよね。音と絵のバランスのせめぎ合いをいつもやっています。


近藤:
ちなみに、Fate/Zeroは全話アフレコが終わっています。
(歓声)

山本:
おおー。

近藤:
作り方も変わったことをやっていて、トライアンドエラーをひたすら繰り返しています。

山本:
贅沢なことをやっているんですね。

近藤:
テレビシリーズなのに、新規に絵合わせで音を作っていたりもします、しかも生で。

南:
……大変だね。

近藤:
そう、無理してるの(笑)
せっかくなので、いくつか質問を受けてみましょうか。業界人は却下ね(笑)


Q:
アニメを制作するにあたって意気込んでいることはありますか?目標にしていることとか。

山本:
命賭けてますよ。

南:
命は本当に賭けてますね。テレビシリーズというのは沢山の人に見てもらえるメディアですが、それだけに、何か作り出すということはプレッシャーなんです。1つは、皆さんが求めているものを作らなければいけないということ。もう1つは、皆さんに何かを伝えていきたいということ。これを作品には入れていかなければいけないと思っていて、我々作り手は毎日、真剣に作品と向かい合って作っています。

近藤:
どうですか、山本さん。

山本:
南さんの言っていることと少し重なりますが、クリエイターであり経営者であるということを5年ぐらい続けていて最大のジレンマは、僕にとっていいもの、面白いと確信するものと、売れるものとは違うということ。これは10年ぐらい前にとあるプロデューサーに厳然といわれたことで、今、深く噛みしめています。「いいじゃん、面白いじゃん」と思っていても、それが数字に結びつかないと、僕たちは生きていけないんです。そこのせめぎ合い、落としどころを経営者の立場で真剣に探さなければいけないと思い、努力しています。

近藤:
やっぱり、作りたいものと売れるものはずれていますか?

僕はストレンヂアはいつか回収できると思っていて、バンダイビジュアル史上最も辛かったという「オネアミスの翼」でも15年ぐらいかかって回収しているんです。あの作品が大好きで、僕の何千円か何万円かも入っているんですよ。LDを買いました、ムックもほとんど買いました、DVD出たら買いました、Blu-ray出たら買いました、と買い続けていて、回収できたという話を聞いて良かったと思っています。そうやって、僕は自分がいいなと思っているものはいつか届くと信じてやっています。

近藤さんも購入済みな「王立宇宙軍 オネアミスの翼」のBD。1987年の作品です。


今日も、ストレンヂアのパンフレットを買ったり、アニメイト徳島さんで予約をしたりして、何千円かが回収に入るはずです。

南:
よろしくお願いします。

近藤:
今回、「制作会社放談」ということになっているので、制作会社の代表として大事にしていることなどあれば。

山本:
これもまたジレンマなんですが、「スタッフを守る」ということです。監督の立場と経営者の立場での「スタッフを守る」はそれぞれ違うんですね。監督としては「みんなでいいものを作れた」と言わせることが第一だと思ってきたんですが、経営者としては食わせなければいけないので……。なので、今は「俺はどっちの立場でやればいいんだ!」と身が裂かれそうな状態です。今年に入ってからは、できなくても言わなければいけないと心がけています。

近藤:
南さん、14年続けてきた先輩としてどうですか?

南:
スタッフがいなければ作品はできないので作りつつ、かつ、チャレンジもしていかなければいけない。それがプロダクションの使命なので、辛い部分はあります。やっぱりかんなぎみたいな作品を作りたいって思いますもん。ほんと、うちはアクションの仕事ばかり来るので。GOSICKーゴシックーとかも作ってましたけれど。


近藤:
他、質問ありますか?

Q:
これは会社が潰れるかもしれないと思ったことはありますか?

山本:
ジャストナウ。

(会場拍手)

近藤:
ボンズさんのとある作品で枚数を使いまくっていて、枚数って使うとお金がかかるじゃないですか。南さんが集計表を見てPCをたたき割ったという伝説を聞いたことがあるんですが……。

南:
たたき割らないよ、備品は壊さない(笑)……いや、壊すか。ありますよ、これ以上どう頑張ればいいんだろうっていう時が。ちゃんと作っていればなんとかなっているということも思います。

近藤:
制作予算以上にかかってしまうことも、どうしてもあるんですよ。いまうちはFate/Zeroという作品をやらせてもらっていますが、制作としては厳しくても、お客さんが喜んでくれていると「いつか必ず返ってくるだろう」と思ってやるしかないんですよね。シナリオとか絵コンテとか見てゴーを出しますけど、あれを「3000枚以内で」って言っても無理ですよ。うちもそうだけれど、ボンズのコンテで3000枚になんてなるわけがない。エウレカとかすごい枚数でしょ?

南:
エウレカは1話と2話で1万……ぐらいかかっていて、これは最初からかかるだろうとは思っていたんです。でも「UN-GO」って知ってます?そんなにアクションがないのにかかってるんですよ、6000枚ぐらい……。だから、「枚数考えろよ!」というのは効かないけれどかけようとする呪文みたいなものですね。

近藤:
お金だけではなくて、今言っている「枚数」というのは動画枚数のことですけど、枚数がかかると原画枚数も増えて、原画の作画期間が延びる、作業量が増えるんです。なので、ランニングコストがかかってしまうということになってくるんです。それだけの枚数が描けるということは人がいるということですから。

山本:
この中だと肩身が狭いなぁ(笑) やってらっしゃる人だから……僕らの場合はこれからどうしようというところで、最初、フリー集団のようなものだったのが会社としての体になったのはここ1~2年ですよ。

近藤:
フリーになって最初に手がけたのは?

山本:
「おおきく振りかぶって」ですかね。

近藤:
Ordetとしては?

山本:
Ordetとしては何になるのかな、「ドクロちゃん」の絵コンテかな?

Q:
続編を作りたいものがあれば教えてください。


山本:
かんなぎ。
(会場拍手)

近藤:
南さん、どうですか。

南:
かんなぎのグロス(笑)
あまり知らないかもしれないですが、うちが最初に作った「機巧奇傅ヒヲウ戦記」という2クールの作品があって、江戸に向かうところで終わっているんですがその続きは考えてあって、あのあと江戸城無血開城まで行くというのを描きたいと思っているんですが、回収できてないの……!

続編構想はあるという「ヒヲウ戦記」


南:
プロダクションも監督もそうだし、1本1本どれということはなく愛情を持っているんで、続きをやりたいと思っている作品はたくさんあるかなと思います。

近藤:
その時々のことを思い出しますよね。

南:
そうなんですよ。だいたい盛り上がってきてね、ストレンヂアも2があるんですよ。

近藤:
ええっ、作るんですか?

南:
いや、やりたいなって。

近藤:
なんとなくわかってきたでしょ、ストレンヂア2を見たい人はBDを買うしかないんですよ。ヒヲウ戦記の続きを見たい人は……BOXは出たんですか?

南:
BOXはずいぶん前に廉価版のDVD-BOXが出て、BDは……回収できていないのでまだ出ないです。

近藤:
DVD-BOX、何本出たら次が出ると思います?

南:
1万セット行けば絶対作るよね。

近藤:
そうですよね、極端な話、この中にすごいお金持ちがいて「俺、1万セット買う」って言ってくれたら続編スタートですよ。
かんなぎ2も、どうなの?

山本:
BD-BOXが絶賛発売中です。あれは完全限定生産なので、増産はできないんです。

全話再撮影によるHD映像化を行った「かんなぎ」のBD-BOXは5月2日から発売中。


近藤:
「初回限定」とか書いてますけど、相当まとまった数字が出れば別だけれど、追加は難しいんですよね。うちがやっているFate/ZeroのBOXも追加は難しいし、「空の境界」は売り切りにしようということで作ったので、もう箱とか作れないんです。

多くの人に見られるアニメを作っていくということで、そのファンの期待に応えつつ、会社の経営も成り立たせなければいけないという難しさを、3人のトークからは感じることができました。ファンからすれば、本気で続きが見たい作品であれば何らかの形で応援することは決してムダではないということもわかったトークでした。

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in 取材,   アニメ, Posted by logc_nt

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