コラム

TPPは全世界で反対されている、自由貿易ではなく公正貿易が必要

By courosa

アメリカ国内でも「TPP反対」の動きがあります。TPPの問題は「日本vsアメリカ」の構図だと思いがちですが、実際には全く違っており、問題の本質は「国vs国」ではないのです。

◆アメリカ国内でも「TPP反対」の動きがある


TPPに対してアメリカ国内でも反対する意志を表明した抗議のデモが行われています。場所はシカゴで、今年の9月に反対デモが起きています。

Deal with Asian-Pacific countries draws Labor Day protest here - Chicago Tribune


これはシカゴのグラント・パークに約200人が集まって行われたもので、記事中では以下のように書かれています。

抗議に参加した人々はTPP協定が仕事と環境に与える潜在的な影響に対して注意喚起したかったと言っています。

「私たちは雇用を求めるためにここにいます」とロレーヌ・アシュビー(66)(シカゴの南東側からの引退した公務労働者)は答えています。

「小さなビジネスを行って、本当の雇用を作り出す人々がここにとどまることが難しくなってきているのです。TPPは雇用を作り出す人々を後ろからナイフで刺すようなものです」

さらに以下の記事でも同様にTPP反対の抗議の様子が伝えられています。

Pro-labor activists in Chicago protest Trans-Pacific Partnership pact - Chicago Tribune


「あまりにも多くの過去の貿易協定は普通の人々を犠牲にし、ウォールストリートと大企業の役立ちました」と彼は言いました。

「私たちは、この地域から海外へ送られた何十万もの高給与の仕事を見ました。また、私たちが必要とするものは、シカゴで、および世界中で労働者の生活水準を実際に改善する貿易協定です」

「労働者はTPP協定が実施されても余裕はできません。TPPは最底辺で競争するための市場を開くだけです。TPPは見境のない資本主義に走らせるだけです。TPPが実行されるなら、それらのすべての国々の労働者および我が国が代償を払うことになります」

その抗議の様子が以下にあります。

Labor Day Trans-Pacific Partnership Rally - a set on Flickr

Untitled | Flickr - Photo Sharing!



Untitled | Flickr - Photo Sharing!



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Toni Preckwinkle | Flickr - Photo Sharing!



また、アメリカだけでなく、ニュージーランドでも以下のようにTPPに反対する団体が存在しており、公式サイトではその活動がまめに報告され、TPPに関する資料も揃えられています。

TPP Watch(主にニュージーランドで活動しているが全世界のTPP反対活動をウォッチしてまとめている)
http://tppwatch.org/


Trans Pacific Partnership Digest(ニュージーランドのオークランド大学法学部からの許可による支援で運営されており、TPPに関する容易にアクセス可能で包括的なデータベースを供給することを目標としおり、世界中のTPPに反対するサイトへのリンクや各種資料が用意されている)
http://tppdigest.org/


◆TPPの真の問題点

さらにこのTPPについて、以下の書籍「No Ordinary Deal -Unmasking the Trans-Pacific Partnership Free Trade Agreement-(「普通の契約ではない~TPP自由貿易協定を暴露する~」)」でもオークランド大学のジェーン・ケルシー教授など複数の関係者が以下のように警告を発しており、なんと日本についても触れられています。


以下が書籍中で触れられているTPPの真の問題点です。

・TPPは通常の自由貿易ではない

・オバマ大統領がアメリカ国内の仕事と景気回復のキーとしてTPPを売っているに過ぎない

・TPP関係でベトナム以外の9つの国が既に規制緩和を行っており、民営化も進めており、各国間に既に多くの自由貿易が成立している

・アメリカの乳製品市場がニュージーランド・中国・インド・日本に開放されるなどと誰も信じていない

・TPPでは「貿易」という名前自体が誤っている、間違っている

・TPPは輸出品や輸入品に関係していない

・TPPの契約によってもたらされる義務は政府の政策や国会の責任などのコア領域に押し入ることを目的としている

・アメリカのロビーストたちが自分の好きなように医薬品・食品・知的財産の規則を制限できるようになってしまう

・外国人投資家は自国を守るために投資を削減させようとする法案を出す政府を訴えることができるようになってしまう


加えて、関西大学の高増明教授が日本政府の内閣府によるTPPによる経済効果が本当かどうかを確かめるため、実際に計算して試算し、政府が発表していないもっと具体的で現実的な部分の数値までシミュレーションした結果がサイトで公開されています。

TPPの経済効果(GTAPモデルによるシミュレーション)
http://www.takamasu.net/tpp.html


 日本がTPPへ参加したときに、どのような影響があるのかをGTAPモデルを使ってシミュレーションした。シミュレーションから得られた結果は、つぎのとおりである。

(1) 日本だけがTPPに参加した場合、日本はGDPを0.29%増加させる。しかし、日本のコメ生産額は-64.5%、小麦の生産額は-62.3%、肉類の生産額は-23.9%となり、日本の農業は壊滅的な打撃をうける。

(2) 日本、韓国、中国、台湾、ASEAN諸国がすべてTPPに参加した場合、東アジアの先進工業地域、中国はTPPに参加することによって、GDPを上昇させることができるが、その上昇率はそれほど大きくはなく、日本は0.43%、韓国は0.83%、中国は0.22%、台湾は0.42%である。一方、日本、韓国、台湾のコメ生産は壊滅的な打撃を受け、そのほかの農産業についても日本は大きな生産額の減少を余儀なくされることが予想される。

(3) アメリカは、日本などの参加によって、農業は生産を増やすが、GDPは上昇しない

(4) 日本のコメの生産を減らさないためには、400%程度という非常に高い補助金を支給する必要がある。

この計算結果について高増明教授は以下のようにコメントしています。

高増明:TPP内閣府試算の罠 ── 菅内閣がひた隠す"不都合な真実" (News Spiral)

このような結果は政府も得ているはずで、それを発表しないのは、都合の悪い結果を隠しているとしか思えません。また他の国のGDPがどのように変化するのかも明らかにしていません。私の推計では、アメリカのGDPはほとんど増加しません。これは農業生産の増加が工業生産の減少で相殺されるということです。したがって、政府やマスメディアが言うように日本もアメリカも利益を得るというのは必ずしも当たらないと思います。

なんとTPPによって日本もアメリカも利益がこのままでは得られないわけです。だからこそアメリカでもTPP反対運動が起き、TPPに関係する諸国では抗議が起き、日本でも大騒ぎになっているわけです。

これらの事実を前提にすると、京都大学准教授である中野剛志氏がNHKの「視点・論点」で語った「TPP参加の是非」はかなり当を得ていることが分かります。

中野剛志 視点・論点 「TPP参加の是非」 - YouTube


全文文字起こししたテキストは以下にあります。

視点・論点 「TPP参加の是非」 | 視点・論点 | 解説委員室ブログ:NHK

 TPPとは、農業や工業の関税の完全な撤廃のみならず、金融、労働、環境、衛生など広範囲にわたって、外国企業の参入障壁の撤廃を目指す国際協定です。現在、九カ国が参加して交渉中であり、日本はこの交渉への参加を検討しています。
 しかし、このTPPの交渉に参加することは、一般に思われているよりもずっと危険なことなのです。

ということで、以下のような問題を提示しています。

問題点その1:TPPへの参加は東日本大震災からの復興の妨げになる

問題点その2:TPPは日本にとって何のメリットもない

問題点その3:日本はTPPに参加しないと世界の潮流から取り残されるとか、鎖国になるとかいった懸念が聞かれるが、それも間違い

問題点その4:TPPの問題点は農業だけではなく、金融・投資・労働規制・衛生・環境・知的財産権・政府調達などあわせて24もの分野に及ぶ

問題点その5:TPPの交渉にいったん参加したら、どんなにルールが不利になろうと離脱することはできなくなってしまう


特に最後の「TPPの交渉にいったん参加したら、どんなにルールが不利になろうと離脱することはできなくなってしまう」というのが最大の問題点で、どんなに不平等で不利益な中身であってもそれに従うしかなくなるわけです。そのことはこの記事の1つ前に書いた「アメリカで「TPP」を推進して米政府を操る黒幕たちの正体」の中に、TPPを推進する多国籍巨大企業たちをすべて名指しでリスト化していますので、それらをひとつずつ見ていくことで理解できます。

途中で交渉をやめることができないということについては以下のようにも報道されています。

2011/10/29 09:19:日本のTPP途中撤退けん制 米交渉官、拡大協議が閉幕 - 47NEWS(よんななニュース)

米国のワイゼル首席交渉官は記者団に、日本国内でTPP交渉への参加後に協議から撤退することも可能だとする意見があることに対し「真剣に結論を出すつもりのない国は交渉に参加しないでほしい」と述べ、けん制した。日本の姿勢が交渉を一層遅延させかねないとも考える米国のいら立ちを示した形。

これに対してチリの首席交渉官は「満足できないなら(交渉から)出ればいい」と言っていますが、これはTPPを牛耳っているアメリカへのただのけん制であり、意味がありません。

さらに、5つの問題点を指摘した中野剛志氏が書いたTPPに関する2011年3月17日発行の書籍「TPP亡国論」に関するAmazonの書評もかなり鋭い意見が多いです。

Amazon.co.jp: TPP亡国論 (集英社新書): 中野 剛志: 本


1.TPPは米国以外の参加国は日本との貿易量も少なく、かつ日本はそれらの国とFTAを既に締結していることから、TPPは日米FTAに他ならない。

2.日米FTAを交渉するのに、米国以外は農産物輸出国ばかりが参加しているTPPの場でわざわざ行うのは、わざわざ不利な戦場を選んでいくということであり、鴨が葱をしょって出かけていくのと一緒で非常に悪い戦略である。

3.仮に実質日米FTAであるTPPを締結したとしても、米国の鉱工業品の関税率は既にほとんど数%しかないことから、日本側の利益はほとんど発生しない。

4.TPPは経済危機にある米国が国内経済扶養・雇用拡大の戦略として日本にしかけているものであり、日本が農産物において大幅な貿易自由化を行い米国に多大な利益を与えるものでなければ米国は締結を認めない。農業が大きな打撃を受け、日本の食料安全保障は脅かされ、国土が荒廃する一方で日本の得るものは少ない。

5.TPPによる.輸入の増加や労働力の輸入自由化は国内のデフレを促進させるため、TPPの締結はデフレに苦しむ日本経済へさらに打撃を与える。

6.デフレ脱却には輸出の増加は役に立たない。デフレ脱却・経済活性化のためには国債を増発し公共事業を増やすことにより適度のインフレを誘導するしかない。

7.政府は米国の要求に従って米軍に日本を守ってもらうためにTPPを締結しなければならないと考えているようだが、守ってもらえないのであれば自己防衛するしかないのであり、日本経済を人身御供として差し出すのは本末転倒である。

書いてあることはまともな人ならほとんどそう思うであろう簡単なことなのだが、何故か今の日本ではそれを言う人はほとんどいなくなっている。戦略的に物事を考える知識人がいなくなっていること事態が日本の大きな危機であると著者は言っているが、その通りだと思う。こういうまともな経済学者が今の日本にもまだいたということにおおいに慰められた。

著者は本来経済産業省の役人であり、このような所属省の政策を真っ向否定する論陣をはることも許容するのが経済産業省のふところの深さだと著者は言うが、本当だろうか?

さらに著者の中野剛志氏はこのようなTPPが話題になる前の2009年11月4日には以下のような書籍を執筆しており、むしろこちらの方が問題の本質を浮き彫りにしています。

Amazon.co.jp: 自由貿易の罠 覚醒する保護主義: 中野剛志: 本



書籍刊行時にはなんと経済産業省経済産業政策局新需要開拓・雇用創出担当参事官補佐であり、その中でこのように書いています。

「有能な政府とは、さまざまな民間主体との緊密なコミュニケーションのパイプをもち、政策の遂行とその結果のフィード・バックのメカニズムを有したもの」(211頁)

まさにTPPを推進するアメリカ政府を操る大企業の姿そのものを奇しくもこの時点で言い当てており、アメリカと日本との本質的な差はまさにここにある、と考えても差し支えありません。書籍名の通り、まさにTPPは「自由貿易の罠」です。

◆FAIR TRADE NOT FREE TRADE「自由貿易ではなく公正貿易を」

By His Noodly Appendage

自由貿易最大の問題点は貧富の差が拡大する点にあります。貧しいものはより貧しくなって貧困から抜け出せなくなり、富める者はますます富むようになるわけです。

これは実際に一方的なルールに基づく「自由貿易」を強制された過去のアフリカの例を見れば明らかで、そのほかの国でも同じようにして「自由貿易」を行って栄えた国はありません。「自由」と「公正」とはまったく違うのです。

求めるべきは「公正」な取引であり、勝手なルールと勝手な規則・規制・法律によって強制される一方的「自由」ではない、ということです。また、「開かれた貿易」というのも耳に聞こえ心地はいいのですが、実際には「公正な立場の貿易」でなければ、ただの「植民地」と変わりが無いのです。なぜなら、日本がTPPで相手にするのはアメリカというより「多国籍企業」であり、一国に依存しない多国籍企業はどの国の国民の利益にも関心はないためです。だからこそ世界各地で反対運動が起き、問題点が山のように指摘されているわけです。

つまり、私たちは自由貿易ではなく公正貿易を求めなければならない、ということです。

◆日本はどうすればいいのか?

By ZeRo`SKiLL

TPPについて、賛成とか反対とかは問題ではなく、実は問題となっているのはただ一点、「今から交渉する余地は本当にまだ残されているのか」という点のみです。「今からTPPというのを作るけど、参加する?」と誘いを受けているのであれば、交渉に参加するか否かというのが問題になります。ところが既に交渉が開始されており、しかも当初の予定では既に交渉の中身自体を終えるスケジュールになっているにもかかわらず、終盤になって途中から「交渉に参加するか否か」を問題にするのは論外です。

まず日本はTPP協定で交渉中の各国に対し、「今から交渉する余地は本当にまだ残されているのか」を質問し、その結果がわかれば議論は前に進みます。交渉する余地が残されているのであれば、何であれば交渉できるのかを明らかにしてもらうべきなのです。交渉する余地がもうないのであれば、当然ですが参加する意味はありません。「交渉のテーブルにつかなければ分からない」というのは明らかに詭弁です。逆向きにTPPで交渉中の各国の立場に立って考えれば、交渉する余地が残っているのであればそのようにはっきりと表明するはずで、どの国からも「交渉する余地はまだちゃんとある」という発言がないということは、「交渉できる余地などない」と考えるのが自然です。交渉できる余地があるのに「交渉できる余地はまだある」と言っていないのであれば、積極的に参加して交渉しに行くべきで、なぜなら「交渉されると困る」と相手が考えていることがわかるためです。

整理して考えると、以下のようになります。

まずTPP協定交渉中の各国代表に対し以下のように質問をします。

Q.「今から交渉する余地は本当にまだ残されているのか」

質問の結果、返ってくる答えの想定は以下の通りです。

A:「交渉する余地はない」
B:「交渉する余地はある」
C:ノーコメント、無回答


それぞれの回答に対してどう考えるべきかというと、こうなります。

A:「交渉する余地はない」

TPP交渉参加する必要は無い

B:「交渉する余地はある」

さらに細かくどの分野で交渉する余地があるのかを質問し、その結果で判断する

C:ノーコメント、無回答

「期日までに回答しないのであれば交渉する余地はないと判断するが、それで構わないか?」と再度質問する。


ポイントとしては「相手が嘘を言っている可能性」を排除しないことです。そのため、責任ある立場の人に、こちらも責任ある立場の人が質問をすることが肝心で、そうすることによって相手の「信頼」を交渉のテーブルにのせることが可能になります。上記AからCそれぞれの質問のポイントは、もし相手の回答が嘘であれば、嘘であるということがあとでわかる、という点です。もし「交渉する余地はない」というのが嘘であれば、その回答をした国は信頼を失います。「交渉する余地はある」というのが嘘であれば、その次の質問「どの分野で交渉する余地があるのか」に回答できないはずです。「ノーコメント、無回答」を貫くことは「交渉する余地はない」と回答しているのと同じことになります。

このように、質問する中身自体が既に問題の本質を突いた答えになっており、あとは相手がどのように回答しても問題なくさらに先へ話を進められるように持っていく、これが「交渉」です。上記のような具体的質問を相手に投げかけることができるかどうか、さらにそこから自分たちにとって有利なように相手の言葉を引き出せるかどうか、論理的に組み立てることができるかどうかが「交渉」であり、上記のような具体的行動を通すことが「交渉力」です。「交渉」と「話し合い」は違うのです。

TPPに関する議論はほとんどが問題の範囲を農業などに「矮小化」することと、「TPPに賛成か反対か」という極端な選択肢に集約されています。「矮小化」の方は具体的考えを小さくすることで問題の本質からずらすことに成功しており、「TPPに賛成か反対か」というのは抽象的議論で結論を出させず日本国内でお互いに一致団結して協力させず「仲間割れ」させることに成功しています。これもまた「交渉」の一パターンであり、今の日本は上から下までこの「交渉」にうまくのせられ、既に操られてしまっている、というわけです。

目の前に問題がある以上、避けて通ることはできません。そのためには現実世界での行動が必要不可欠です。そして、今の政府に求められているのは「交渉」であり、それは決してTPP協定交渉のテーブルに参加するかどうかではなく、既に今、まさにこの瞬間が既に「交渉」になっていることを自覚することから始まるのです。

・第1弾の記事
「TPP」とは一体何か?国家戦略室の資料を読めば問題点がわかる - GIGAZINE


・第2弾の記事
アメリカで「TPP」を推進して米政府を操る黒幕たちの正体 - GIGAZINE

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in コラム, Posted by KeitoYamazaki

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