インタビュー

ハリポタ完結記念、知られざる日本ワーナーの裏話や深いところをインタビュー


1本目の「ハリポタで有名なワーナーの日本本社に突撃、試写室や貴重なブツいろいろ」につづき、2本目のこの記事はこれまで日本での「ハリー・ポッター」シリーズの公開を長年支えてきた宣伝プロデューサーや関係者にインタビューして、いろいろと聞いてみました。

右から順に、安達さん・大谷さん・下枝さんです


GIGAZINE(以下、Gと省略):
では、まず各自の自己紹介からお願いします。

安達 利香(以下、安達と省略):
洋画の宣伝を専門にしています。各作品の売り方や、全体的な方向性を話しあい決めていきます。本社がアメリカのカルフォニア州バーバンクというところにあり、日本のマーケットにおけるニーズを考え、本社との交渉や本社を通して俳優や監督らとの交渉を主にやっております。内容はパブリシティとプロモーションです。

G:
パブリシティとプロモーションの違いは何ですか?

安達:
パブリシティというのは、基本はお金を掛けないで紹介してもらう映画宣伝の部分です。私のところでいうプロモーションというのは、企業タイアップですね。

G:
なるほど。次に大谷さんの仕事というのは基本的にどんな仕事になるのでしょうか?

真ん中が大谷さん


大谷 悟(以下、大谷と省略):
僕はフリーパブリシティの部分を担当しています。主にテレビ局とか雑誌記者とか、スポーツ紙の記者とか、そういう方達と会って、各媒体の企画を考え、露出していく事を行っています。

安達:
映画宣伝の中でもいわゆる広告がお金を使ってやる部分であるなら、みなさんに頑張って頭を下げていくという、いわゆるフリーパブリシティっていうところの宣伝ですね。

G:
なるほど。最後に下枝さんのやっているお仕事というのは何でしょうか?

左端が下枝さん


下枝 奨(以下、下枝と省略):
パブリシティ以外のところですね。作品の窓口としていろいろな映画タイトルごとに担当がいまして、作品のウリの方向性とかコンセプトとかコピーだとかクリエイティブの部分のアドバイスなどをします。あとはクロスディビィジョンと言って、ワーナー・ブラザース映画以外にワーナー・ホームビデオ、テレビジョン、そしてCPと言って商品化をするライツ局というものがあります。さまざまな部門と協力してもらって進めて行きたいので、その架け橋になったりとかですね。あとは安達が言っていましたが、メディアにお金をかける以外の本メディアというのがあります。いわゆる媒体にお金を払うのではなくて、自分たちが使うお金ですね。ポスターを作ったりとかイベントをやるお金だとか、予告編を作るお金とか。あとは海外取材に行くお金を管理しています。

G:
なるほど。次の質問ですが、お三方とも、どういうきっかけでこのお仕事をするようになったのでしょうか?この業界に入って、できれば宣伝を担当したいという人向けに、どのような道筋で今に至ったかを教えてください。

安達:
私はアメリカへの海外留学を経て、現地の会社で仕事をしていました。アメリカでは最終的にサンフランシスコで日系企業に勤めて、マーケティングを担当しておりましたが、帰国してからアニメーションの制作や映画の買い付けと宣伝配給を行う会社に入り、アニメーション作品の海外販売の窓口をしていました。そしてインターナショナルでもう少しスケールが大きい会社への転職を考えていた時に、ワーナー映画の募集を見たので、募集に応募し、面接を受けて、入ったのが1995年です。

G:
大谷さんの場合はどういう形ですか?

大谷:
私は宣伝会社にアルバイトで入り、ワーナー・ブラザース映画作品のパブリシティのサポートをしていたんです。

G:
学生の頃からですか?

大谷:
学生の頃からではなくて、社会人になってからですね。20代前半ぐらいの頃です。レオ・エンタープライズという会社でアルバイトをしていて、3~4年たって社員にさせて頂きました。レオ・エンタープライズではいろんな配給会社の作品の宣伝を携らせて頂きました。その後、20世紀フォックス映画、ディズニー映画での宣伝部で働かせて頂き、8年前にワーナー・ブラザース映画宣伝部に転職をいたしました。

G:
なんだかぐるっと回って来ましたね(笑)

ワーナー中枢の入り口、ここから向こうは立ち入り禁止、まさに聖域


G:
下枝さんの場合はどういう経緯ですか?

下枝:
日本ヘラルド映画という映画会社がありまして、そこに新卒で入社していました。その後、ヘラルドを辞めて、少し違う仕事をして、また映画業界に戻ってきて、東宝さんの製作宣伝を契約社員として関わり、邦画の製作現場に入りました。その後はポニーキャニオンさんの映画部に移籍して、それからワーナー・ブラザースの宣伝部ですね。同じ業界をずっとです。

G:
次の質問なのですが、最近はテレビ局のゴリ押しで大して面白くもない邦画が大プッシュされ、洋画が以前よりもずっと隅に追いやられている雰囲気が年々強まっていますが、ハリー・ポッターの場合、そういう日本の映画事情というものから何か宣伝の部分で影響を受けたことはありましたか?

安達:
邦画に勢いがあるのは事実ですね。ただハリー・ポッターに関しては映画だけでも、10年以上続いていますし、固定ファンの方たちは大勢いらっしゃいます。それに加え、毎年新たにファンになってくださる方たちもいるので、そういう意味では通常の洋画というものとはブランド性もクオリティー性も違うと思うんですね。毎作品ごとに役者さんも内容もバージョンアップをしているというところがあるので、作品的な部分での影響は特にないと考えています。

G:
宣伝的にも、とばっちりのようなことを受けたりすることもないと。

安達:
ないですね。

大谷:
全然ないですね。あまり考えたこともないです。

下枝:
うーん、影響というと、媒体的にはインタビューですかね。邦画の場合、役者さんが積極的に取材を受けてくれますから。

安達:
露出の数でいうと確かにそれはそうかもしれないですね。

下枝:
媒体側も出演者のインタビューを求める度合いが高くなっています。例えば、今までのハリー・ポッターだとロスにいってインタビューを5分できるだけでもすごいことだったのが、ちょっとずつ薄れてきていますね。来日してもホテルの部屋でのインタビューではなくて、スタジオでの取材や出演が優先されます。そういう雰囲気はあります。

安達:
確かに全体的な流れは変わってきているかもしれませんね。昔はハリウッドの俳優さんたちが来たらすごいことになっていたのが……それこそ多かった時は毎週とか二週間おきくらいに本当にトップクラスの方たちが毎月来ていたりしていたので、そういうところで媒体の方々は、さらなるスーパー級をリクエストするようになりました。それはもちろんハリウッドに限らず、全体的に見ていえることかと思います。それで下枝が言ってる通り、邦画の場合だと俳優さんの協力体制がもっとガッチリ組まれてやって下さっているので、そういうところではやはり大変と言えば大変ですね。

大谷:
テレビ局が制作、出資をしている映画の場合はどうしても洋画作品の紹介が入りづらくなってきます。そのような作品と公開日が重なってしまうと宣伝的にもなかなか厳しくなってきますね。

安達:
同じ時期にテレビ局の出資が入っている邦画と重なると、優先順位がつく場合が多く、若干難しくなってしまいますよね。

G:
そういうこともあるんですね。

壁にはずらーりと賞状


G:
次の質問ですが、例えばファンが意見や嘆願書を出してきたとして、そういうものは実際にどういう扱いを受けるものなのでしょうか?

安達:
私が受けているのは大体電話か、それか往復はがきか……お手紙ですね。嘆願書というのはもらったことがありませんね。

大谷:
あまりないですよね、僕らのところに何かがって。たまにハリー・ポッターの上映が近くなると「来日はあるんですか?」とかはありますけど。

安達:
「是非、来日させてほしい」とか。その時点で分かっていることは往復はがきとか頂くと書いて送り返したりということはしています。

G:
ちゃんとご返信されるんですね。

安達:
やっぱりファンの方なので。あとは私たちもその時点では情報がないことが多いので「うちのホームページを見て下さい」と書いて「そちらの情報が分かり次第、差し上げますので」というようなことを書いて送ったことがありますね。あとは大体電話ですかね。あとはファンレターです。

G:
ファンレターのようなものが来た場合でも対処はされるんですか?

安達:
大体ファンレターは来日の前後に頂くので、本人が来日されている場合にはちゃんとお渡ししますし、帰られた場合はうちの本社を通して渡してもらうために、まとめて送ったりします。

G:
そのあたりは手厚く対処されるんですね。中には変なものもあると思うので意外でした。

安達:
みなさんやはり日本人の方は礼儀正しいというか、きっちりされている方が多いのでそんなに変なものはありませんね。ただ、口に入れるもの……たとえば食べるものなどは申し訳ないのですが、処分させて頂くことがあります。

G:
もしもそういうものを送る場合は、ファンレターのようなものの方がありがたいということですね。

安達:
ハリー・ポッターの場合とかですと、みなさん直接書いて送られる方が多いみたいです。

G:
なるほど。

ドアがいかにもワーナーという感じ


G:
次の質問に移りますね。ハリー・ポッターの場合は相当数のファンがいて、ネット上でも「ポッターマニア」のようなファンサイトがあり、日本語字幕付きの予告編をどこよりも先に公開したということもありましたが、あれはどういう経緯なのでしょうか?

下枝:
うちが字幕をつけてデビューさせるのが一番早いので、ポッターマニアさんに先にお渡しすることはないですね。もしかしたら、字幕の入っていないオリジナルの英語版をダウンロードなのか……どうにかして手に入れられて自分で字幕をつけてアップロードしているのかもしれないですね。うちの本社から直接、ポッターマニアさんに素材を渡したりとか、弊社の見本からお渡しするということはまずないです。

安達:
いえ、一度、一作だけ過去作で延期になったことがあり、制作会社からの指示で「ハリー・ポッターのファンサイトで、日本で一番大きくて、一番信頼のあるところに最初に素材を出してあげて下さい」と言われたことはあります。あれは7作目PART1が延期になった時だったでしょうか?

下枝:
PART1が伸びた時です。

大谷:
……2009年?

安達:
「ハリー・ポッターと謎のプリンス」ですね。

大谷:
2年くらい前ですね。その時は確かに。

安達:
その時ですね。その記憶はあります。

G:
それで世界中のいろんなファンサイトが映像を出していたんですね。

安達:
だと思います。でもそれも本当に特殊なケースなので、その前もそれ以降も下枝が言っているように、他のところで出している形ですね。

G:
先ほどの話しで少し出た「延期したからファンサイトの大きなところに素材のムービーを送って下さい」という判断はどういった経緯で出るんでしょうか?

安達:
それは制作会社ですね。制作会社と弊社のスタジオ側が話をして「まずは映画公開を一番心待ちにしていらっしゃるファンの方々に、こういうやり方で」というところだと思います。

G:
そういう経緯だったんですね。

屋敷しもべ妖精ドビーのおそらく原寸大フィギュア


映画館の入り口に置いてあったものらしく、完成度が異様に高い


G:
ハリー・ポッター公開当初と比べるとネット上の環境も激変していますが、ネット上での映画の前評判や、上映後の評価などはどのようにして調べているのでしょうか?また、宣伝にあたって新しく導入していった仕組みというのはありますか?

大谷:
ネット宣伝に関しては、宣伝をするにあたって大きい存在になっています。一般の方達の手元にあるのはネットやモバイルでの情報が多いと思いますので、今後はソーシャルメディアを含め、無視できない媒体になっていると思います。

G:
ソーシャルメディア寄りになっていく、ということですか?

大谷:
そうですね。ですが、これからソーシャルメディアがどのあたりまで伸びるのかということが分からないので、何とも言えませんが、伸びてくれば、そういうケースもあるんじゃないかなと思います。

安達:
ただ基本的に宣伝というのはこちらが仕掛けていくものなので、例えばそこで何を言われているのかということを常に気にして、その都度宣伝方向を変えていくというのではなく、どちらかというと、こちらがけしかけていく形なんです。例えば材料を投げていって、彼らがそれをどういう風につかんでいっているのかということをモニターしたりはします。もちろん、映画ファンの方が我々とは違う観点から作品を捉えられたり、面白いネタに反応されているのを見ると「ああ、そういう着眼点もあったんだな」ということで、そういう部分に注目することもあります。前評判がこうだからといって、それに左右されることなく、私たちの求めている取り込みたいターゲットに対するメッセージというのは一貫して広告もフリーパブもできるだけぶれないように通して行きます。我々の宣伝活動にはそのような基本的スタンスがあります。

G:
今回のハリー・ポッターの場合、その辺りの「こういう風に行こう」というスタンスというのはどういう風に決めているんでしょうか?

安達:
各作品ごとに、前回を振り返って「次に取り込みたい層、次のターゲットはこうしましょう」というのを話しあって決めてきました。それら過去の戦略を振り返り、また結果を分析して毎作品「今回はこうしていこう」というのを全部決めていきます。前作に続き、最新作PART2の作品も大谷と下枝が担当していますので、彼らから話してもらいましょう。

G:
例えばどういうスタンスで次の方向性を決められているんでしょうか?プロセスのようなものを教えていただけますか?

下枝:
プロセスは社内で作品担当とクリエイティブの担当がいまして、「この作品をどう宣伝したら興行成績を上げられるか」というところから始まって、ハリー・ポッターの場合はシリーズごとに15%~20%ずつぐらい興行成績が落ちていっているので、そこからなんとかV字回復するために「じゃあ、どんな層が離れていっているのか」とか「1を見た人と2を見た人は今何歳くらいだろう」とか。例えばファンタジー映画、魔法の映画は20歳前後の人が喜んで来るかということを確固たるデータがあるわけじゃないですけれども予測をしながら、もちろん日本の代理店さんにも情報をもらい「この年代は見ているだろう、見てないだろう」という情報を元に、ディスカッションしながら決めていますね。

例えば、ターゲットのどこに一番注力して、最後のターゲットはここにしてやっていけば、効率的であろうかということを考えながらセグメントしていって、ターゲットや目標に近づけるような映画のポジショニング、いわゆるコンセプトみたいな「この映画はこういう映画なんですよ」と。「ハリー・ポッターと死の秘宝PART2」ってどんなのですかって聞かれた時に、ぱっと答えられるようなポジショニングと、あとはこの作品ならではの中身の売りのポイントをうまくきれいに並べて、ハリー・ポッターのスタッフはここにいるメンバー以外にも20人ぐらいいますので、足並みをそろうように意思統一をして、例えば一行だったらこういう風に言おうとか、写真を一枚使うんだったらこの写真を使おうとか、そういうような形でコンセプトを作っていくと。みんなの意思疎通をして、同じ方向に向かっていくという感じですね。

G:
話を聞いているとさすがにプロフェッショナルですね。

安達:
そこから更に上層部、そしてさらに本社やフィルムメーカーの承認も取らなくてはいけないので、長いプロセスです。我々が考えた案が100%通らないこともあります。「日本はそう思っているかもしれないけれど、こういう売り方をしなさい」と言われる時もあるので、そこは下枝が申している通り、皆が一丸となって「我々のコンセプト案とターゲットがどういった理由で日本市場にあっているのか、売れるのか」という肉付けをしっかりして、それから上に持っていくという形になります。

G:
ディスカッションをして、決めて、それを上にあげて向こう側のゴーサインが出たら、行くと。

安達:
そのようなプロセスになります。

読売映画・演劇広告賞 映画部門 審査員特別賞を「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」で受賞した際のトロフィー


2002年の日本アカデミー賞を「ハリー・ポッターと賢者の石」が受賞、さらに2003年に日本アカデミー賞「ハリー・ポッターと秘密の部屋」でも受賞


G:
第一作が公開された当初というのは、今と違って前作というのがない状況からのスタートのはずで、「この映画が当たるか当たらないかは分からない。恐らく当たるだろう」と言うような状況だったと思うんですが、当時はどんな感じでしたか?

安達:
「当たるだろう」ではなくて「絶対に当たる!ただ、どれくらい当たるのか?」という部分が未知でした。当時、言われていたのは原作が売れている部数の倍の数が動員数になるだろう、と。当時の「ハリー・ポッターと賢者の石」が270万部で、その倍を考えても540万人くらい来るのではないかと言われていたのが、1600万人以上が来たので、そこは思っていた以上の大きな社会現象になっていました。ここまで広がりを見せるとは予測していなかったのですが、改めて皆思ったのは、興行成績が百億以上のものというのは、百をこえたところからその先は分からないということです。一回、火がついてしまうと、どこまでそれは広がるのかということは長年やっている人でも百億から上は分からないところではあるんですが、「ハリー・ポッターと」の一作目の時は「来ないはずがない」という確信はありましたね。

それはうぬぼれではなくて、逆にものすごいプレッシャーで、作品についてるファンの方たちをがっかりさせず、きちんとこっちに来てもらえるような道しるべを作らなければいけなかったので、作業は一個ずつ慎重にこなしていきましたね。

G:
プレッシャーというのは?

安達:
やはりファンの方たちというのは自分たちの原作に対する思い入れがあるので、もちろん映画を見たら「本と違う」と言う人もいるだろうし、映画のキャスティングも「何でこの人たちなの」と思う人もいるかもしれないですし、想像という部分をとって考えると、本を読んだ時に、その方の頭の中で描かれたイマジネーションを超えられるものってそうないと思うんですね。それを誰かが映像化して見せた時の一番最初に出てくるギャップはどうなんだろうとか、その時にこちらが一番最初に打ち出していくメッセージを彼らが「そうなんだよ、私たちが待っていたハリー・ポッターってそういうものが見たかったんだよ。ありがとう」と思えるようなコピーを作らなきゃいけないとか、そういうところですよね。

G:
確かに話を聞いているとプレッシャーが掛かりそうな感じですね。

安達:
話しているだけで改めてプレッシャーが蘇ってきました(笑)

G:
「ハリー・ポッター」の映画版は当初、全7部作が予定されていましたが、最後の最後でまさかのPart1・Part2に分けて、全8部作になりました。これはどういう事情だったのでしょうか?

安達:
最初から決まっていたわけではないのです。役者さんのスケジュールを確保しなくてはいけないですし、何百人という人が携わっている作品なので、それはある程度、早い段階で制作者側と弊社の本社であるスタジオ側が協議して決めたことですね。ただ、各シリーズのあの長い内容を二時間ちょっとに収めようと思ってもどうしても無理がありますよね。最後に関しては、できるだけ本に忠実に描きましょうというところがあったようなので、そうするとどうしても四時間半以上……五時間近くのものになると。そういうことでPart1・Part2に分かれたのだと思います。

G:
今までは1部作ずつという形で来たわけですが、これが今回はPart1・Part2と二つに分かれてしまって、宣伝としてやりにくかった点と逆にやりやすかった点というものはありましたか?

下枝:
2つに分かれていると、PART1を見ないとPART2がわからない、PART1だけだと途中で終わるのでスッキリしない、とお客様に思われてしまうかもしれないといった不安はあります。ただ、我々は、PART1の宣伝から2本で1つの作品であるという位置づけで表現してきました。PART2はシリーズの本当の最終話ですので、わかりやすいですが、PART1は位置づけがむずかしかったです。

「ハリー・ポッターと賢者の石」の優秀宣伝賞


「ハリー・ポッターと秘密の部屋」の外国映画ファン賞


G:
Part2の方の終わり方はそのお話でいくと「終わり」となるわけで、もう「次」はないことになるのですが、何か感慨深いこととかはありましたか?

下枝:
はい、感慨深いです。

安達:
キャストも一緒だったし、監督は途中で交代しましたけど、後半は同じ監督で、一緒にやってきた感というものはものすごくあるので。来日も多かったですし、やはりずっと作品をやってきたスタッフはみんな身近に感じていると思いますね。

下枝:
やっぱりハリー・ポッターというのは普通の作品とは少し違ってほぼ毎年公開でしたので「また来た!」と僕らはそういう風に思うんですね。公開まで半年くらい前になると、素材が来るじゃないですか。そうすると「ああ、また来たな!」といつも思わされるんですね。プレッシャーと先ほど言われてましたけど、やっぱり僕らもこの映画の興行成績がすごいなって実感させられるのは100億円いくと「ああ、100億いったんだ!」と言われて、80億円だと「ちょっと下がったね……」と言われて。そんな映画ってそんなにないと思います。

G:
なんだか規模がでかすぎますね(笑)

下枝:
そうなんですよ。普通に80億円だと「ああ、ちょっと落ちちゃったね」なんて言われる映画なんてないです。だからプレッシャーというのはすごくありますよね。

G:
普通の映画なら大成功ですからね(笑)

下枝:
大成功ですね(笑)

G:
次に、キャストたちの来日での何か今まで公表したことのない裏話的なエピソードを教えてください。

安達:
来ている時間が短いですから、かわいそうなくらい何かできる時間というのはほとんどないですね。

下枝:
時間があれば、休むために少し寝る人も多いです。

安達:
ロン役のルパート・グリントが秋葉原を好きなくらいですよね、日本のガジェットが好きだから喜んで買っているみたいです。

下枝:
日本の電気商品技術は高いから買っているというのは聞きますね。本当に二泊三日とかですから、夜着いて次の日に記者会見と取材をして、プレミアをして、その次は朝早く帰って行くみたいなスケジュールですから。

安達:
本当にすごい早いですからね。残念なんですけど。

G:
本当に分刻みで決まっているということでしょうか?

安達:
取材中は分刻みですね。

下枝:
本当に分刻みですね。3分、5分違うとみんなバタバタして、スケジュールをうまく組み替えたり。

安達:
大変でしたよね(笑)

G:
先ほど「少しでも休みがあったら寝ている」というのはそれぐらい疲れるものなんですね。

下枝:
タバコを吸うか、水を飲むか、お茶を飲むか……とかそういう感じだと思いますね。

大谷:
あと時差ボケというのがありますよね。

安達:
ヨーロッパから来られると特に本当にかわいそうなくらいひどいですからね。ドラコ役のトム・フェルトンが来た時、最終日でようやく初めて体内時計が日本の時間になっていましたからね。それまでずっと昼間は死んでました、本当にかわいそうなくらい。夜中ずっと目がギンギンで寝られなくて、かわいそうでしたね。

下枝:
寝られないからと言って一人で夜の街に遊びに行くわけにはいかないですから。

大谷:
トム・フェルトンの時は本当に時差ボケがひどかったみたいで。彼は仕事はしっかりこなすのですが、休憩中は、ずっと寝ていましたね。

安達:
もう疲れてるのが分かりましたから。

安達:
15分でも寝てましたよ、昼間に。夜中、全然寝ていないので……。

大谷:
一応、大阪にいた時に「どこか行きたいところはないの?」と聞いても「行きたいところはあるけど……」となって(笑)

安達:
翌日、朝はもう全然、出てこない。時差ボケはやっぱりかわいそうですね。

G:
やっぱり時差ボケは起きるんですね。

「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」のゴールデングロス賞


「ハリー・ポッターと秘密の部屋」のゴールデングロス賞


大谷:
あと、ハリーのお客さんはみなさん、行儀がいいですから。

安達:
みんな普通の方たちなので、本当に。ただハリー・ポッター役のダニエル・ラドクリフが一番最初に来日した時……2作目の「ハリー・ポッターと秘密の部屋」の時だったのですが、あの時は本当にファンがすごかったんですね。東京と大阪のキャンペーンをやって、少しフリータイムがあったので、京都を案内したんですけれど、本当にパパラッチが追っかけてきたりとかありました。電信柱の向こう側から写真を撮ってきて(笑)

さすがにプライベートなのでごめんなさいと言っても記者さんが飛んで付いてきたというのがありましたね。さすがに「ハリー・ポッター=世界中で一番有名な男の子」、そしてダニエル・ラドクリフがそのハリー・ポッターだったんですよね。だから世界で一番有名な男の子が来た、という感じでした。成田でも三千人の女の子がダニエルのお母さんを見て泣くんですよ。皆感動していました。


黄色い声だし、本当にびっくりしましたね。本人が一番びっくりしていましたね。ロンドンではそういうことはないし、普通に学校に行って、普通に生活していたので、日本に来て「キャー!!」と言われてびっくりしていました(笑)

G:
本人にとってもそういう反応はびっくりなんですね。

安達:
あの時はまだ12歳だったのかな。嬉しかったと思います。女の子がキャアキャア言ってて。でもその勢いのすごさに本当にびっくりしていました(笑)

G:
そういう風になるもんなんですね。しかし、パパラッチがそういう風にして出てくるというのもすごいですね。

安達:
びっくりしますよね。電信柱の向こう側に隠れているんですから。

G:
来日したときの警備はどうでしたか?気を遣われる場合と、そんなに気を遣わなくても普通だったというケースがあると聞きますがどうでしょうか?

安達:
イベントの時とかは逆にファンの方たちがケガをされたらいけないので、お客様の安全性に重点を起きます。ファンの方が沢山集まるところはどうしても危険性が高いので、タレントというよりも、「何かあってみなさんが倒れてはいけない」とかいう部分ですね。あとはエマ・ワトソンが来た時などはやはり若い女性ですから、若干タレント回りでは気を使うところがでてくる場合もあります。ただし「ハリー・ポッター」の場合はそんなに大変なことはないと思います。

大谷:
厳戒態勢とかそういうことではないですね。

G:
むしろお客さんの方に気を遣わなきゃいけないんですね。

安達:
「ハリー・ポッター」だけではなくてどの作品も全部一緒ですが、事故があってはいけないですから。

下枝:
うちが運営しているイベントですから、ケガをされたらまずいので、そういうことに気をつけるために、セキュリティーはしっかりします。

G:
先ほど言われたようにインターネットなり、宣伝にはいろいろあるかと思いますが、これを機にもしもできるなら「こういうような巧みな宣伝がやりたい」というアイデアはありますか?

下枝:
難しいですね。宣伝の新しい手法のアイデアがあったとしても今はあんまり言えないですね。そこは自分たちの財産であり、自分らのブレーンですし、基本的にどの映画も他でやってないこととか、今まで行われてないことを一生懸命考えて、それをマスコミの方々に取り上げてもらうとか、一般の人に驚いてもらうということを常に考えているので。

G:
なるほど。

「ハリー・ポッターと秘密の部屋」のゴールデングロス特別大賞


G:
ハリー・ポッターの場合で何か言ってもいい、宣伝のボツ案って何かありますか?

大谷:
タイアップですかね。

安達:
なんの縛りもなくやれたとしたら、タイアップはしてみたいですね。ハリー・ポッターに関しては一切できないので。

G:
タイアップはできないんですか?

安達:
一回だけコカコーラさんとグローバルタイアップが決まり、日本でも進めていいというのがありましたが、それ以外は一切禁止されています。なので企業さんとのタイアップは一切見られたことはないと思いますね。

G:
言われてみれば知りませんね。

安達:
前売り券販売にまつわるものとかはありますが、それ以外はまったくないですね。あとは広告を好きなコピーで展開してみたいですね。いろいろとやりたいようにやってみたいですよ(笑)

大谷:
ある程度の縛りがある中でやるからこそ形になるのかもしれないですけどね。

安達:
それで意外と正しい場合も多かったりしますからね。やはりフィルムメーカーの作品に関わってきた方たちの意見は重要です。

大谷:
そう、変にただダメだって言ってるだけじゃないですからね。

安達:
逆にそれはやってみて結果として正しかったんだなと思うこともありましたから。

G:
「ハリー・ポッター」はタイアップをやってはいけないというのも映画のイメージが関係しているからなんでしょうか?

下枝:
はい、ブランドコントロールです。

安達:
その細かい規制に関しては私たちも、どうして、誰が、どこまで、というのは分からないですけど、原作者のいる作品なので、その辺の縛りはたくさんありますね。

G:
なるほど。しかし、「ハリー・ポッター」に実はタイアップがほとんどないというのは驚きでしたね。

安達:
コカコーラさんとの一回だけですね。全世界で一回だけ彼らとタイアップ展開を行っても良いと言われて行っただけです。ただ、タイアップを進めていく中で細かい部分全ての承認を取るのも本当に、血を吐くんじゃないかというくらい大変でした。毎晩2時、3時まで仕事してましたから(笑)

G:
そうなんですか!

安達:
本当に素材が来なかったり、ぎりぎりだったりとか、コカコーラさんのスケジュールもあるので。先方も毎晩2時、3時まで居て下さったので、なんとか実行できたという感じでした。本社からはそれ以降タイアップに関しては何もありません。残念ですよね、確かに。タイアップはもう少し広くやりたいと思っていましたから。「ハリー・ポッター」は企業の方々がやらせてくださいというオファーの一番多い作品でした。

G:
今回のお話はかなり面白かったです、ありがとうございました!


なお、これが2001年に実施されたコカ・コーラとハリー・ポッターのタイアップ。推定1億5000万ドルで独占タイアップを行ったので、他社がタイアップできなかったわけです。


『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』
7月15日(金)丸の内ピカデリー他全国ロードショー<3D/2D同時上映>
公式サイト:http://www.deathly-hallows.jp
公式facebook:http://www.facebook.com/hp7jp
公式twitter:http://twitter.com/#!/hp7_jp/
ワーナー・ブラザース映画配給

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in インタビュー,   映画, Posted by darkhorse

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