サイエンス

新型コロナのロックダウンで思春期の青少年の脳が急速に老化したという研究結果


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック期間中に実施されたロックダウン施策により、青少年の脳の成熟が異常に加速したという研究論文が米国科学アカデミー紀要(PNAS)上で発表されました。特に若い女性の脳の成熟が顕著に見られたため、男性よりも女性の脳の方が脆弱(ぜいじゃく)であると指摘されています。

COVID-19 lockdown effects on adolescent brain structure suggest accelerated maturation that is more pronounced in females than in males | PNAS
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2403200121


COVID lockdowns caused premature aging of adolescent brains - Earth.com
https://www.earth.com/news/covid-lockdowns-caused-premature-aging-of-adolescent-brains/

COVID-19のパンデミック初期、世界中の政府機関が感染拡大を防止するために外出禁止令や学校閉鎖といったロックダウンを実施しました。ロックダウンによる混乱が日常生活や社会活動にどのような影響をおよぼすかについてはこれまで多くの研究が行われており、意外にもロックダウンにより人々が幸福を感じていたことが明らかになっています。

パンデミックが幸福度を下げたがロックダウンにより回復したとの研究結果 - GIGAZINE


感情・行動・社会性が著しく発達する時期である思春期の若者も、ロックダウンで幸せを感じていたという研究結果があります。一方で、ロックダウンにより社会的交流が著しく制限されたため、特に若い女性が不安やうつ病、ストレスを多く経験するようになったとも報告されました。

ワシントン大学の研究グループがPNASに掲載した研究論文では、ロックダウン中の思春期の若者の脳について調査を実施しています。研究グループは被験者の脳の成熟度を脳の外側の組織層である大脳皮質の厚さを調べることで測定しています。大脳皮質は10代であっても加齢とともに自然と薄くなっていくことが知られており、慢性的なストレスや逆境で薄化は加速するそうです。大脳皮質が薄くなると不安やうつ病などの神経精神疾患や行動障害を発症するリスクが高まり、特に思春期の若者でこれらの障害が現れることが多くなります。


研究チームは2018年から、9~17歳の青少年の脳構造の変化を調査。当初は2020年に調査が終了する予定だったものの、同年に新型コロナウイルスのパンデミックが発生したため、調査は2021年まで延期されることとなりました。これによりパンデミック前後で若者の脳構造にどのような変化が起きたのかを調べることができるようになったそうです。

研究チームは脳のスキャンデータを使用して思春期における大脳皮質の「正常な薄化速度」を予測するモデルを開発。その後、2021年に収集した脳スキャンデータと比較して、若者の脳の成熟が正常に進んでいたのか否かを判断しました。この分析の結果、ロックダウン前と比較すると女性は平均4.2年、男性は平均1.4年も脳の成熟が加速していることが明らかになりました。

脳の成熟の加速(老化)は特に女性で顕著に見られ、脳全体で薄化が確認できました。一方で、男性の場合は視覚皮質周辺で薄化が見られるのみで、女性ほどの脳の老化は確認できなかった模様。


研究グループの主任著者であり、ワシントン大学の学習・脳科学研究所(I-LABS)で共同所長も務めるパトリシア・クール氏は、「我々はCOVID-19パンデミックを健康危機と考えています。しかし、それが私たちの生活、特に10代の若者に他の大きな変化をもたらしたことも明らかになっています」と語っています。

論文の筆頭著者でI-LABSの研究者でもあるネバ・コリガン氏は、「パンデミックが始まってから、私たちは、どの脳測定法を使えばパンデミックによるロックダウンが脳にどのような影響を与えたかを推定できるのか考え始めました。10代の若者たちにとって、学校にも行かず、スポーツもせず、出かけもせず、社会集団の中にいるのではなく家にいるということがどういう意味を持つでしょうか」と語りました。

クール氏は今回の結果が、思春期の女性における社会的交流の重要性と関係があると示唆しています。思春期の女性は「友人との親密な関係」や「感情や会話の共有」に頼る傾向が強いのに対して、男性は友人と集まっても身体活動に従事することが多く、女性ほど他社に依存していないと指摘。クール氏は「パンデミックが実際にもたらしたものは、少女たちを孤立させることだったようです。10代の若者は皆孤立しましたが、少女たちの苦しみはより深刻だったようで、脳への影響もはるかに深刻でした」と語っています。


クール氏は大脳皮質が以前の厚さに戻る可能性は低いとしつつ、通常の社会的交流が再開されるにつれて、薄化速度がゆるやかになりいくらか回復する可能性もあると指摘。しかし、この回復が起こるか否かを判断するには、さらなる研究が必要になるとクール氏は指摘しています。

なお、高齢者の場合、大脳皮質の薄化が早いほど、情報処理速度や日常の課題をこなす能力などの認知機能が低下します。一方、10代の若者の大脳皮質の薄化に関するデータはほとんど存在しないため、今後も研究を進めていくことが重要になるとクール氏は語りました。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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