サイエンス

「アメリカで最も優れた若き科学者」に選ばれた11歳の少女は水の鉛汚染を簡単に検知できるキットを開発


重金属に属する鉛は人体に取り込まれて蓄積されると健康に悪影響を及ぼすことが知られています。アメリカでは、財政破綻した街の上水道施設が劣化したことで水道水が鉛によって汚染されてしまうという事件が2015年ごろに起こり、大きなニュースにもなっているのですが、この事件を受けて誰でも簡単に水の鉛汚染を検知できる装置を開発した11歳の少女が「アメリカで最も優れた若き科学者」に選ばれました。

11-year-old girl inspired by Flint water crisis creates cheap kit to test lead - ABC News
http://abcnews.go.com/Lifestyle/11-year-girl-inspired-flint-water-crisis-creates/story?id=50559884

この賞に選ばれたのは、コロラド州に住む11歳の女の子、ギタンジャリ・ラオさんです。両親がいつも水に鉛が含まれていないかをチェックしているのを見たギタンジャリちゃんは、もっと簡単にチェックする方法があるべきだと考えたことから、新たな装置を開発しようと思ったとのこと。見事に賞を勝ち取ったギタンジャリちゃんは、2万5000ドル(約280万円)の賞金を手にしています。


ギタンジャリちゃんに大きな影響を与えたのが、全米を震撼させたフリント市の水道汚染だったとのこと。市の財政破綻を理由に水道の供給方法が変更されたことがもとで、老朽化した水道用パイプから鉛が溶けだして高濃度の汚染が起こったこの一件は、当時のオバマ大統領が非常事態宣言を行うまでに発展。マイノリティーが多く住む街で起こったことから「人種差別」とまで言われたこの出来事は、市の財政と老朽化した設備を原因とすることから、他の場所でも起こり得るとして人々の強い関心を呼びました。

非常事態宣言まで出たフリント市の水道汚染は「構造的人災」 | 冷泉彰彦 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2016/01/post-805_1.php

ギタンジャリちゃんはアメリカのABCテレビの取材に対し、「この一件で影響を受けた人の多さに私はがくぜんとしました。そこで、この状況を変えるために何かをしたいと考えました」と話しています。どうやらギタンジャリちゃんは、ともにエンジニアである両親からの影響を受け継いでいる模様で、「何か新しいことはないか」と定期的にチェックしているマサチューセッツ工科大学・Department of Materials Science and Engineering (素材工学学部)のウェブサイトを見ている時に、問題を解決する方法を見つけたとのこと。そこに書かれていたのは、有害物質を検知するための新しい技術に関する記事で、ギタンジャリちゃんはこれが鉛汚染の検知に応用できると考えたそうです。

そこでギタンジャリちゃんはまず両親に、そしてさらに学校の先生や地元の大学の専門家に助言を求めました。ギタンジャリちゃんの父親であるラム・ラオさんは、「娘が質問してくるので私たちも勉強しなければなりませんでした。私たちが娘にまず確認したことは『本当にこれをやりたいの?とてつもなく大きな問題になるよ?』というものでした」と、娘が手をつけようとした問題の大きさを語っています。

ギタンジャリちゃんは数か月かけて地元の高校と大学を説得し、実験スペースを提供してもらうことに成功。また、自宅には引っ越してきた時に作ってもらった「サイエンスルーム」があり、そこで実験と装置の開発を続けました。


2017年初頭にギタンジャリちゃんは、科学コンテスト「2017 Discovery Education 3M Young Scientist Challenge」のファイナリスト10人に選出され、3M社の科学者からの協力を得ながら最終選考に向けた開発を続けました。その結果完成したのが、「Tethys」と名付けられた小型の装置。カーボンナノチューブを利用することで鉛汚染を検知するという方法は、前述のMITのサイトで見つけた方法を応用したもの。さらに、なんと結果をスマートフォンに通知する機能まで備わっているそうです。


イリノイ州の教育長で、コンテストの審査員の一人でもあるブライアン・バーンハート氏はギタンジャリちゃんについて、「彼女は私たちを打ち負かしたと言っても過言ではありません。他の9人の子どもたちもとても素晴らしかったのですが、その中から抜け出したのは彼女が示したずば抜けた驚きでした」とたたえています。

ギタンジャリちゃんは、手にした賞金の一部をTethysの製品化のために使い、残りは大学進学の資金として残しておくと語っています。そして同世代の子どもたちに対して、「挑戦することを怖がらないで。私は実験する時に何度も失敗しました。最初のうちはとても腹立たしかったけど、終わりが近づいてくると、全ての出来事が1つに合わさってきました。いろんなことが経験となって、私の実験をより良いものにしてくれました」と語っています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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