来たるべき自動運転車の世界でAppleは存在感を見せられるのか?
iPhoneによって世界で最も利益を上げる企業に成長したAppleが、iPhoneの次となる有望市場として「自動運転車」に狙いを定めていると予想されています。The New York TimesがAppleの自動車開発プロジェクトTitanの関係者を取材して、これまでの経緯や現状、未来の展望についてまとめています。
Apple Scales Back Its Ambitions for a Self-Driving Car - The New York Times
https://www.nytimes.com/2017/08/22/technology/apple-self-driving-car.html
Winner-takes all effects in autonomous cars — Benedict Evans
http://ben-evans.com/benedictevans/2017/8/20/winner-takes-all
長らくウワサされてきたAppleによる自動車開発プロジェクトについて、2017年6月にティム・クックCEOがBloombergのインタビューで「自動運転システムに焦点を当てている」と公に認めました。
「Appleは自動運転車技術を開発中」とついにティム・クックCEOが正式に認める発言 - GIGAZINE
Appleによる自動車開発プロジェクト「Titan」は、シリコンバレーでは公然の秘密として知られていましたが、秘密主義のAppleは、具体的な内容について明かすことはありませんでした。Appleは新しい技術について、技術者自身が完全に理解するまで世に出さないことがよくあります。たとえば、スマートフォンを世界中に普及させるきっかけとなった「iPhone」が発表される数年前から、タッチディスプレイに関する技術を徹底的に研究し熟成してきたことが知られています。TitanでもAppleが考える自動車の核となる技術が見定まるまでに、数年の時間がかかっていたとしても不思議ではないというわけです。
しかし、The New York Timesが匿名を条件に情報を得たTitanプロジェクトの関係者5人の話を総合すると、Titanは決してスムーズではなく、紆余曲折を経て自動運転車システムの開発という柱が出てきたことが分かっています。
2014年に始まったTitanでは、基本的な技術の調整や確立というレベルを超えた野望が定められました。つまり、当初は現在のような自動運転車システムというソフトウェア部分の開発ではなく、車体というハードを含めた自動車全体をAppleで内製することが目標にされていました。これは、ハード・ソフトをすべて自社開発するiPhoneやMacなどの製品を見れば、Appleとしては一般的な形態と言えます。
革新的な自動車を作り出そうとするAppleは、静かに開閉するドアやステアリング(ハンドル)やペダルのない自動車、AR機能を持たせた新ディスプレイなどさまざまなアイデアが出されたとのこと。特に、製品のデザインに対して重視するAppleは、他のライバルが作る自動運転車が備えるLidarなどのレーダー装置がデザインを損ねると考えて、どうにかして外観から取り除けないかということが議論されていたそうです。
さらには、円柱の側面が接地して回転する一般的なタイヤではなく、全体が球形のまったく新しいタイヤのデザインについても研究されていたとのこと。球形のタイヤであれば、前後だけでなく左右にも移動できるという発想であり、実現すれば間違いなく革新的な自動車になるであろう技術だと想像できます。
By Automobile Italia
しかし、The New York Timesが接触したTitan関係者の5人は、Appleには自動車に対して求める明確なビジョンが欠如しており、開発が難航したと証言しています。
当初、Titanを率いていたスティーブ・ザデスキー氏はドライバーの存在を前提とする半自動運転技術を追求しようと考えていたとのこと。しかし、Appleのチーフデザイナーのジョナサン・アイヴ氏率いるインダストリアルデザインチームはドライバーの必要ない完全自動運転車こそ、自動車の体験を再構築するものだと信じており、溝は埋まらなかったそうです。
結局、ザデスキー氏はTitanを去ることになり、2016年7月にiPadやMacBook Airの開発で知られるボブ・マンズフィールド氏がTitanのリーダーに就くと、自動車の車体開発を諦めて自動運転技術のシステム開発に専念するという方向転換が行われました。
人員削減が行われるなど開発環境が大きく変化したAppleの自動車運転プロジェクトは、現在、自動運転技術の鍵となる機械学習技術の専門家などが加わり、方向性が定まりいよいよ開発を軌道に乗せようという段階だと見られています。Appleが開発する自動運転システムを搭載したテスト車両は、シリコンバレーのオフィス間を行き来するシャトルバスとして走行実験が行われようとしています。
Appleがまったく畑違いの自動車関連技術分野に乗り出したのは、iPhoneの次となる製品を求めたからなのは間違いありません。iPhone生誕10周年を記念する次期iPhoneがAppleに大きな利益をもたらすことが確実だとしても、次の収益源を作り出すために、Appleは産みの苦しみを味わっているところです。
自動運転車について、将来的にメーカーがどのような形になるのかは不確実ですが、10社以上の巨大なプレイヤーが存在する現在の自動車産業とは違い、巨大な2、3のメーカーが市場を寡占する形態になるとの予想があります。この理由は、ハイテク産業に特有の「ネットワーク効果」が自動運転車技術で大いに機能するからです。
例えば、自動運転車技術に不可欠の地図データの正確性や周辺情報を読み取る画像認識技術の精度は、実際の道路を走行する自動運転車が収集するデータによって、どんどん高められていきます。つまり、データをより多く集めたメーカーの技術がさらに発展し、多くのユーザーに支持されデータがさらに集まりやすくなる、という良いサイクルに入ったメーカーがどんどん技術的な優位性を高めていき、サイクルに入れなかったプレイヤーはみな市場で死に絶えるというわけです。スマートフォン市場がAndroidを持つGoogleとiOSを持つAppleの2強が支配するようになったのと同じ状況が、自動運転車市場でも起こりえるというわけです。
先行者の利益がとてつもなく大きくなると見られる自動運転車技術では、すでに市販車から大量のデータを集めるテスラや実走行実験のデータを蓄積してきたGoogleからスピンオフしたWaymo、さらには中国政府のバックアップが期待できる中国企業のBaiduなどのハイテク企業に加えて、BMW、フォード、日産などの既存の自動車メーカーもハイテク武装をして来たるべき自動運転時代に向けた開発競争を始めています。ネットワーク効果が働く世界で生き残って市場のパイの大半を得る巨人になるために、本格参戦が遅れたAppleにとっては開発を停滞させることが許されない状況と言えそうです。
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