メモ

中国・インド・フィリピンにソフトウェア開発をアウトソーシングして分かったこと


グローバル化の進んだ現代では、大企業は労働賃金の安い国へ製造拠点を移します。しかし、同じ製造業であっても、ソフトウェアの開発を他国にアウトソーシングする場合は、ハードウェアの製造とは異なる特有の難しさがあるようです。

Troy Hunt: Offshoring roulette: lessons from outsourcing to India, China and the Philippines
https://www.troyhunt.com/offshoring-roulette-lessons-from-outsourcing-to-india-china-and-the-philippines/

ファイザーで働いていたトロイ・ハントさんは、長年にわたってソフトウェア開発部門で働き、発展途上国など賃金が安い国にソフトウェア開発をアウトソーシングしてきました。10年以上の期間にハントさんが携わった国は、西はパキスタンから東は日本やニュージーランドまで、アジア・オセアニアのほとんどの国に及んでいます。この経験から、ソフトウェアのアウトソーシングには、ハードウェア製造とは違う独特の問題があるとハントさんは述べています。


そもそもなぜソフトウェアの開発を他国に任せるのかというと、最大の理由は賃金格差です。アメリカやオーストラリアでの労働賃金は高く、発展途上国でははるかに安い賃金で労働力を得ることができるため、多くの製造業が賃金の安い地域を探し求めて世界中を移動してます。


ソフトウェア開発での労働賃金を、オーストラリア・アメリカ・イギリスという比較的高価な国と、中国・フィリピン・インドという比較的低廉な国とを比較すると、その差はまさに桁違いとのこと。


ハントさんが長い時間取り組んできた国の中で、アウトソーシングする価値を持つと考えるインド・中国・フィリピンの各問題点は以下の通り。

◆インド
インドは世界中の企業にとって「ソフトウェアのアウトソーシングを行う場所」の代名詞になっています。その大きな理由は、インドはイギリスの植民地だった歴史から、エンジニアが極めて高い英語のスキルを持っているからです。さらに、13億人という世界第2位の人口も魅力的で、多くのハイテク企業が多額の投資を行ってきたという実績があります。

そのITアウトソーシング大国のインドにおける大きな問題点は、「離職率」とのこと。インドではほとんどの人は働く企業に対する執着心がなく、2年間同じ企業に勤めるという人はまれだとのこと。また、インドのエンジニアは、他の国に比べて特に詳細な資料を要求する傾向があるとハントさんは述べています。

◆中国
中国のインターネット利用者は7億人を突破しており、アメリカの2.5倍のインターネット人口を持ちます。さらに中国のインターネット利用者はまだ国民全体の半分に過ぎず、すでに90%以上に達しているアメリカに比べると、今後、さらにインターネット人口が増える見込みがある点で非常に有望なソフトウェア開発地域と言えます。

しかし、豊富な労働人口を持つ中国では、悪名高い検閲システム「グレートファイアウォール」が大きな障害となっているとハントさんは述べています。Google・Facebook・Twitter・YouTubeが使えないいびつなインターネット環境の中国では、それ以外にも英語のレベルが高くないことが大きなネックになるとのこと。細かな仕様を伝えるためにマネージャーが英語を翻訳する過程で、数%の情報が失われてしまうそうです。また、英語のレベルが低いせいで、コード自体も欧米人には読みづらい構造になってしまうという欠点もあるとのこと。言葉の壁は、出来上がるソフトウェアのUIの壁につながるとハントさんは考えています。

また、近年、中国での労働賃金が急激に上昇していることも大きな欠点だとのこと。2010年にアメリカと中国との賃金格差は11倍あったものが、わずか5年間に7倍まで縮小しており、この傾向は今後も続くと考えられており、労働コストの低さを利用する海外アウトソーシングのメリットが大きく損なわれているという問題があります。


◆フィリピン
ハントさんがインド、中国以上に評価しているのがフィリピンです。フィリピンではアメリカの占領下に置かれた歴史から、英語が第二言語として機能しており、またフィリピン人特有のフレンドリーな資質も非常に魅力的だとのこと。コールセンターの多くがオーストラリアからフィリピンに移されたのと同様に、高い英語力とフレンドリーな国民性は、新興のハイテクセクターとしてのフィリピンの潜在能力の裏支えとなっています。また、ハントさんによると、フィリピンでの労働コストは、インド・中国に比べても一貫して低かったとのこと。

◆海外アウトソーシングにおける問題点
海外生産に切り替えることで得られるコストのメリットについて、ソフトウェアの開発は、ハードウェアの生産とは異なる問題点があるとハントさんは指摘しています。例えば、コストが半分の国にソフトウェアの開発拠点を構えた場合、これまでの2倍の人員を雇い入れることができ、生産性が2倍になると考えがちですが、そうではないとのこと。

ソフトウェアの開発はチームで行われ、チームのメンバー間での共同作業や意思統一などのチームワークが問われます。2人で仕事をする場合は、コネクションの数は1つですが、3人になった場合はコネクションの数は3つに増えます。4人では6、5人では10とチームの人数が増えるに従って、コネクションの数は急速に増えていきます。チームのメンバーが増えてコネクション数が増えることで、メンバー間の意思疎通が機能しにくくなるという「ロス」があることから、労働コストの差がそのまま生産性を高められるわけではないというわけです。


また、労働コストの安い地域がみな、労働コストの高い地域と同等の「質」を維持できるわけではないことは言わずもがなです。しかも、ソフトウェアの品質は、アウトソーシングした時点では明確でなく、技術的なレベルを高めるために数年の歳月が必要なこともしばしばあるため、ソフトウェア製品のライフサイクルが短い場合には、アウトソーシングによる価格的なメリットを受けられない危険があるとのことです。

そして、各国にある「文化的なニュアンスの違い」は決して過小評価してはならないとハントさんは指摘します。リモートで行われることの多い海外チームとの意思疎通をさらに難しくする文化的な違いは、海外アウトソーシングにおいて払うべきコストとして織り込むべき大きな問題だそうです。

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in メモ,   ソフトウェア, Posted by darkhorse_log

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