サイエンス

世界で初めて「時間結晶」の生成に成功

By Clint Budd

結晶」は原子や分子が空間的に繰り返しパターンを持って配列する物質のことを指しますが、この繰り返しパターンを時間方向にも広げた「時間結晶」の作成が世界で初めて成功しました。

Physicists Create World’s First Time Crystal
https://www.technologyreview.com/s/602541/physicists-create-worlds-first-time-crystal/

「時間結晶」という概念が生まれたのは2012年のことで、マサチューセッツ工科大学の物理学者フランク・ウィルチェック氏が提唱しました。時間結晶は粒子の規則的配列が三次元空間だけでなく時間方向にも広がっている、という四次元の結晶構造を指します。提唱した当時、ウィルチェック氏は時間結晶の具体的な生成方法については言及していなかったのですが、のちにアメリカのローレンス・バークレー国立研究所が生成方法を提起していました。

「四次元の時空間結晶、実際に作れる」バークレー研究所が作製方法を提起 | SJN News 再生可能エネルギー最新情報

三次元空間での結晶化とは、ある物質の分子系から熱を取り去って低エネルギー状態にしたときに起こる連続的な空間対称性の破れを意味する。物質中の全方向に対して対称的だった構造が、低温に置かれることで壊れ、離散的対称性(ある特定方向だけに対称となること)が現れる現象が結晶化であると説明できる。時空間結晶とは、この離散的対称性を時間方向にも拡張した構造であり、結晶にみられる規則的パターンが、空間だけでなく時間的にも周期性をもって現れることになる。

例えば、摩擦ゼロの状態で永久に円運動を続ける粒子は時間方向に結晶化していると見ることができる。バークレー研究所のチームが提起している時空間結晶では、極低温下での電界イオントラップと粒子間クーロン斥力を利用することによって、トラップされたイオンが永久に回転運動し、その構造が時間上で周期的に再現されるようになる。このような時空間結晶は、量子エネルギー状態が最低になっているため、時間的秩序が永久に保たれ、理論的には宇宙のその他の部分がエントロピー増大による熱平衡状態(熱的死)に達した後にも結晶が持続すると考えられるという。


しかしその後、時間結晶は実現不可能であることを数学的に証明した論文をカリフォルニア大学バークレー校の渡辺悠樹大学院生と東京大学の押川正毅教授が公表。時間結晶は実在しないものであると考えられました。

(PDF)「時間結晶」が不可能であることの証明~ノーベル賞物理学者の新理論を明確に否定~


「時間結晶」が実現できないことが数学的に証明される | サイエンス - 財経新聞

今回の研究では、統計力学により導かれる安定な物質の状態(平衡状態)で巨視的な物理量の時間相関関数を評価し、厳密な不等式を用いてこれが時間的に振動することはないことを数学的に証明した。これは、統計力学に従う限り、「時間結晶」は実際には存在しないことを意味している。


そんな中、2016年10月4日にメリーランド大学のクリス・モンロー教授が率いる研究チームが世界で初めて時間結晶の作成に成功しました。時間結晶を作成するための基本工程はとても単純で、イオン群のような量子系をリング状に作成し、エネルギーの状態が最も低くなるまで冷却するというもの。すると、物理法則的にはリングが完全に静止することになります。

なお、研究チームは時間結晶の用途として「強力な量子メモリを実現するための量子情報タスク」などを挙げています。ただし、まだまだ理解が進んでいない特質なども多く、慎重に性質を検討していかなければ本当に時間結晶が存在することを示したことにはならないだろうとのことです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「時間を見ることができる」という驚くべき共感覚を持つ人 - GIGAZINE

なぜ1分は60秒で1時間が60分なのに、1日は24時間なのか? - GIGAZINE

アナログ時計はなぜ広告で10時10分付近を表示しているのか? - GIGAZINE

人類滅亡までの残り時間を示す「世界終末時計」、滅亡まで「あと3分」のまま変わらず - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by logu_ii

You can read the machine translated English article here.