カラスが道具を使えるのはなぜなのか?
カラスは非常に頭の良い動物で、道具を器用に使いこなしてエサを取る個体がいることが知られています。では、どうしてカラスが道具を使えるようになったのか、なぜカラスの中でも道具を使えるものとそうでないものがいるのかについて、イギリスの科学者が検討しています。
Scientists Have Found Another Crow That Uses Tools - The Atlantic
http://www.theatlantic.com/science/archive/2016/09/this-crow-nearly-died-out-before-we-knew-it-uses-tools/499724/?single_page=true
セント・アンドルーズ大学のクリスチャン・ルッツ博士は、2013年にハワイを訪れたときに、小さな穴に木の枝を突っ込む2羽のハワイガラスを目にしました。このカラスは野生のカラスではなく飼育されていたカラスですが、まっすぐ伸びたくちばしで細長い木の枝をしっかりとはさみ、小さな穴から虫をほじくり出して補食することに成功したとのこと。ルッツ博士はこのカラスのあまりにも見事な木の枝さばきにこれはまぐれなどではないと考えました。
ルッツ博士は2012年に、ニューカレドニアに生息するカレドニアガラスが木の枝を使うことに関する論文を書いており、道具を使える知能を持つカラスがいること自体はもちろん認識していました。しかし、ニューカレドニアとハワイというまったく異なる場所で、同じように道具を使いこなす異なる種類のカラスがいることを知り、あらためて道具を使いこなせる動物の条件を検討することにしました。なお、飼育されたカラスに道具の使い方を教えることは可能であることが知られているため、ハワイガラスが道具を使えるかどうかは野生のハワイガラスの生態を調べる必要がありますが、残念なことに2002年に野生のハワイガラスは絶滅しています。しかし、ルッツ博士はハワイガラスが巧みに道具を使う様子を見て、野生のハワイガラスも道具を使っていたはずだと推測したようです。
ルッツ博士はハワイガラスの生態を調べるために、ハワイの2つの動物園で飼われていた109羽のハワイガラスを使って実験することにしました。ルッツ博士は飼育係に対して実験の許諾を得るときに「馬鹿げていると思われるかもしれませんが、私はハワイガラスが道具を使えるという予感があるのです」と告げると、飼育係は「ええ、私たちはカラスが道具を使うのを見てきましたから」と答えたとのこと。実はハワイガラスの飼育係たちは、カレドニアガラスが道具を使えるということを知っていたため、ハワイガラスが道具を使うことが珍しいことだとは考えていなかったそうです。
カレドニアガラス、ハワイガラスという2種類の道具を使うカラスを対象にして、ルッツ博士が出した「カラスが道具を使えるようになる」ための必要条件は、「まっすぐ伸びたくちばし」と「顔の前方についた目」だとのこと。まっすぐ伸びたくちばしは、道具となる木の枝などをしっかりと固定するのに必要で、顔の前方についた目によって遠近感を得ることができるとルッツ博士は考えています。
また、ルッツ博士はニューカレドニアとハワイの地域の共通点として、「野生のキツツキが少ないこと」を挙げています。キツツキがいないため、小さな虫が木にたくさん生息しており、この虫を捕るためにカラスが木の枝を道具にするようになったというわけです。さらに、タカや蛇などのカラスを捕食する動物が存在しないことも要因であると考えています。つまり、上空や地面に天敵がいないという恵まれた環境のおかげで、カラスは安心して首を上下左右に動かして道具を使うことができるとのこと。
ルッツ博士は以上のような要因を挙げたうえで、人間は「道具を使える動物」であることについて優越感を持っているかもしれないが、道具を使うという能力は身体的な特徴と、恵まれた環境が合わさって身につけられたものではないかと考えています。
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