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360度ムービーやVRコンテンツの先駆けながらひっそり消えたAppleの「QuickTime VR」とは?


かつてApple Computer(現・Apple)には「QuickTime VR」という、画像をシームレスに360度つなぎ合わせる技術がありました。現在の360度パノラマ画像や360度ムービーの先駆けの技術とも言えるQuickTime VRがどんな技術だったのかについて、かつてAppleでCEOを務めたジョン・スカリー氏など当時のApple関係者がBusiness Insiderに対して説明しています。

Inside story of Apple's forgotten virtual-reality project QuickTime VR - Business Insider
http://www.businessinsider.com/inside-story-of-apples-forgotten-virtual-reality-project-quicktime-vr-2016-5

QuickTime VRは、スカリー氏によってAppleから追い出されたスティーブ・ジョブズがNeXTで奮闘していた1995年に発表された技術で、未来を予感させる技術としてデビューしましたが、晩年はユーザーからの関心を失い、最終的にはひっそりと消えていったという、Appleの歴史においても最も奇妙な技術の一つに挙げられています。

1990年代初頭にAppleのHuman Interface Groupで開発されたQuickTime VRは、まだデジタルカメラが一般的ではないころに誕生しました。そのため、QuickTime VRでは処理するべきデジタル画像自体から作る必要があり、数多くの写真を撮影したりイラストを描いたりすることが不可欠だったとのこと。そんなQuickTime VRについてスカリー氏は、「当時ではとても魅力的に感じられた技術でした」と振り返っています。


QuickTime VRの開発エンジニアで後にニューヨーク大学の教授を務めたダン・オサリバン氏は、「360度のパノラマ写真を作るための専用のマトリックスカメラは極めて高価でした。そのため、私はたった一つのカメラで複数枚の写真を撮影して、ソフトウェアの力でつなぎ合わせることにしたのです」と開発当初の状況について述べています。

もともとは「コカ・コーラの缶をぐるっと一周にわたってスキャンしたい」というオサリバン氏の衝動的な願望から1991年に開発が始まったQuickTime VRは、初期の実験結果が極めて良好だったとのこと。「当時の取締役会のメンバーだったシャリー・ライドは、リアルタイムに画像がつなぎ合わされる様子を信じられない様子だったのを思い出します」とスカリー氏は述べています。

写真をつなぎ合わせる作業は当時のコンピューターの性能からすれば負荷の大きな作業だったため、QuickTime VRの初期の開発結果の報告を受けてAppleは、Cray社のスーパーコンピューターを購入したそうです。順調に開発が進んだQuickTime VRは、1995年に発表されると高い評価を受けることに成功しました。

QuickTime VRの発表の様子は以下の2つのムービーで確認できます。

Apple WWDC 1995 - QuickTime VR - part 1 - YouTube


Apple WWDC 1995 - QuickTime VR - part 2 - YouTube


なお、1995年の発表会のデモを作るために、Appleはゴールデンゲートブリッジを上から見下ろす360度画像を作るためにニューヨーク市長から撮影許可を取り付けています。また、ロシアのパブロフスク宮殿内でも撮影を行うなど、かなり力の入ったデモ作成を敢行。QuickTime VRにかけるAppleの期待のほどがうかがえます。


1995年に起こったO・J・シンプソン事件では、QuickTime VRが一躍脚光を浴びることになりました。NFLのスーパースターが起こしたとされる殺人事件を巡って全米中のマスコミが連日連夜報道する中、NBCが殺人事件が起こったシンプソンのマンション内の状況を視聴者に分かりやすく解説するためにQuickTime VRを使いたい、とAppleに申し出たのです。Appleが公開前のQuickTime VRソフトウェアを提供した結果、NBCは26もの異なる場所をつなぎ合わせたパノラマ画像を作成し、放送で用いました。当時のNBCニュースのプロデューサーだったデビッド・ボーマン氏は、「QuickTime VRは驚くほど効果的なツールでした」と語っています。

スカリーCEO時代に生まれ、スカリー氏がAppleを離れた後にリリースされたQuickTime VRは、AppleのCEOに返り咲いたジョブズ体制下では、重要視されることはありませんでした。ボーマン氏は、「QuickTime VRはジョブズ復帰前のスカリー時代に生まれた技術であり、ジョブズ復帰後には、ジョブズ不在時の製品に注意が払われることはなかったのだと思います」と述べています。

結局、ジョブズ復帰後のAppleは、iMacやiPod、iPhoneなどの製品で次々と成功する中、QuickTime VRの開発はひっそりと終了し、QuickTimeXでサポートが打ち切られることになり、一部のユーザーに惜しまれつつも消えていきました。

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