ボーイングはウェアラブルデバイス「Google Glass」を導入して航空機の生産効率アップとミス削減を実現
1機の航空機には何百万というパーツが使われており、それらを素早く確実に組み立てるためにさまざまな工夫が重ねられています。1916年7月15日に創業し、ちょうど本日・2016年7月15日で100周年を迎える航空・宇宙開発企業のボーイングでは、Googleが開発したウェアラブルデバイス「Google Glass」を用いて航空機の製造現場の効率化を実現する取り組みが行われています。
Google Glass takes flight at Boeing | CIO
http://www.cio.com/article/3095132/wearable-technology/google-glass-takes-flight-at-boeing.html
近年の航空機は電子化が進み、機体の操縦系統はもとより、乗客のための機内エンターテインメント用にも多くの配線が使われるようになっています。そのため、1機あたり数キロメートルにもおよぶケーブルが機内を駆け巡るようになっており、その製造も非常に複雑なものとなっています。
複雑な配線を実現するために、製造の現場ではいきなり機内で配線を行うのではなく、あらかじめ別の場所でケーブルやコネクターを必要な長さと形状にアッセンブルした状態にする作業を行います。
コネクター1つとっても、さまざまな形状のものが用いられています。全ての配線は設計の段階で細かく指定されているため、製造のミスは一切許容されません。
アッセンブル作業の際には、このようにあらかじめ経路が描かれている専用の治具(ジグ)を使い、人の手で一本ずつケーブルを配線していきます。従来は、配線の詳細は紙の仕様書で示されていたのですが……
やがて、ノートPCで仕様書を表示するように変わりました。
この変更の際にも、それまでの紙の仕様書よりは効率が上がったそうですが、必要な情報を得るためには、作業員はこのようにわざわざノートPCの前まで行き、さらに作業の手を止めてキーボードを操作しなければなりません。
頭につけたカメラの映像でもその様子がよくわかります。作業スペースの横に置かれたノートPCに体を90度曲げ、画面で詳細を確認し……
体を元の向きに戻し、作業を行います。これでは、作業効率がよくないことに加え、作業員の体にも負担がかかることは必至。
そのため、製造の現場では自動化できる部分をロボットに置き換え、負担を減らしながら作業時間を数秒ずつ削り取るような取り組みが行われてきました。
しかし、その進化を飛躍的にスピードアップさせたのが、APX labs社の「skylight」と呼ばれるシステムでした。skylightはGoogle Glassを用い、必要な情報を目の上にある小さなディスプレイに表示します。
Skylight | APX Labs
ボーイングはAPX Labsと共同し、skylightを航空機の製造現場で活用する取り組みを進めました。パーツが置かれた棚に近づいた時に、「オッケー、skylight」と話しかけてGoogle Glassに音声コマンドを入力します。ここでは、ケーブルをまとめる作業を行うので「Start wire bundle(ワイヤーのバンドルを開始)」と話しかけて……
次に、「Scan order(指示書をスキャンする)」とコマンド。
すると、パーツを入れた箱に掲示されたバーコードをGoogle Glassのカメラが読み取り、必要なデータをデータセンターから取得します。
こうやって読み取った後に、部品をとりだし。
そして部品を作業場所へと配膳。ここでは、また別のスタッフが作業を担当するようです。
システムの開発を担当するランドール・マクファーソン氏は「これらの仕組みを取り入れることで、数分・数秒単位の時短ではなく、『25%の時短』が可能になりました」と語ります。
作業を担当するスタッフもGoogle Glassを装着。「OK skylight」と話しかけ……
「Local search(ローカル検索)」
「0-5-5-0」と音声で調べたいケーブルの番号を入力。
するとskylightは、Google Glassのディスプレイにケーブル「0-5-5-0」を差し込むべき場所を表示しました。以下の画像は、実際の作業員が目にしているものをシミュレートしています。
従来のノートPCを使ったシステムだと、作業を止めてキーボードをたたいて検索して……という作業が必要だったわけですが、skylightであれば音声で調べたいキーワードを入力するだけで、目の前に必要な情報を表示してくれます。
そのため、作業員は手を止めることなく確実に作業を続けることができるというわけです。
また、Google Glassを使うことで、カメラで捉えた作業の様子を離れた場所に転送することが可能。作業に困っても、このように映像を責任者のPCに転送して、必要な指示を仰ぐことが可能。相談を受けた側も、実際の様子を見ながら確実な指示を与えることが可能になります。
さらに、作業の様子を動画で保存しておくことも可能。
スタッフが作業に迷った場合でも、正しい作業の手順をディスプレイに表示することで、迅速に正解にたどり着くことができるようになるというのです。
機内を駆け巡るおびただしいケーブルは、どれもきちんと役目があって無駄なものは1つとしてありません。そのため、確実に作業を行うことが極めて重要です。
そんな作業の正確さに加え、効率性をも向上させたというのがボーイングとAPX labsが開発を進めてきたskylightというわけです。
ボーイングは2013年ごろからGoogle Glassを使った作業改善に関心を寄せ、2014年にAPX Labsと共同で開発する提携を結んでいました。ケーブル製造の現場での有用性が認められたことで、今後は機体そのものの製造にもskylightの活用が進められることになるそうです。
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