モンゴルで「リアルノマドライフ」を送る遊牧民のゲルに宿泊してきた
今流行りの「ノマド」は英語で遊牧民のことなんですね。知りませんでした。モンゴルにはリアルでノマドライフを送る人たちがいます。草原で牧畜を営む遊牧民の方々。そんな彼らが暮らすゲルにお邪魔して、遊牧民の一日の生活を覗いてきました。
こんにちは、自転車世界一周の周藤卓也@チャリダーマンです。バックパッカーとなって中国から150カ国目のモンゴルを旅してきました。吹雪いたときには焦りましたが、翌日は一転して快晴。最高の1日を過ごしてきました。
◆ガヤゲストハウス
中国の北京から寝台バスと寝台列車を乗り継いでモンゴルの首都ウランバートルまで移動しました。そこから更にモンゴルの中央にあるハラホリンという町を目指します。ハラホリンへ向かうバスは市内西部のドラゴンバスターミナルから出ていました。
チケットを買ってバスに乗り込むと、見知らぬ男がやって来てゲストハウスのパンフレットをくれます。10分ほどしたら次は電話がかかってきて、ゲストハウスのオーナーの声が。事前に誰かのブログで予習していたので、こうなることは分かっていました。だから慌てることなく、宿の予約を入れました。
ハラホリンでは「ガヤゲストハウス」という宿に泊まりました。現地に到着すると、オーナーのガヤさんが乗用車でピックアップしてくれます。ガヤさんは流暢な英語を操るしっかりとした女性。滞在中は何かと親切にしてもらいました。
ガヤゲストハウスでもゲルに宿泊できます。ドミトリーで8USD(約850円)ですが、シーズンオフなのもあって一人占めでした。
室内はこのような感じ。コンセントがないので充電はガヤさんの家で行います。家にはWi-Fiも飛んでいます。
ストーブの燃料に石炭を混ぜた固形燃料を使っていました。夜になると肺がひんやりするくらい冷え込むのでストーブで暖を取ります。火がついて真っ赤な輝きを放つストーブの炉。ゲルの中も次第に熱がこもり、暖かな空気にウトウトしながら心地よい眠りに落ちるのでした。
ハラホリン2日目は寒波のせいで起きたら吹雪いていました。ガヤさんの家から窓を眺めても強い風の中を舞う雪は止まりません。ラグビーでもやっていそうなガタイのいいガヤの旦那さんも隣で窓を眺めていました。いつも無口でニコニコしているのですが、このときばかりはニヤニヤしながら同意を求めてきました。そんな顔につられて私もニヤニヤ。動けないほどの雪に降られたら笑うしかないですよね。午前中はかなりの猛威を振るっていました。
昨日とは打って変わって一面の雪景色となってしまったゲル。
ちなみに、こちらがガヤゲストハウスの入り口。
ハラホリンは意外と大きな街でした。
◆ノマドツアー
雪が降り積もるなんて想定外でしたが、2日目に天気が崩れるのは分かっていました。そして3日目は快晴でした。ウランバートルで確認した天気予報通り、計画通り。3日目はハラホリン郊外の遊牧民が暮らすゲルに遊びに行きます。ガヤさんの同級生が住んでいて、ノマドツアーとしてホームステイを斡旋していました。価格は夏が30USD、春・秋が35USD、冬が50USDと、季節によって変わります。
住む場所も季節によって変えていて、それぞれハラホリンから10km(夏)、15km(春・秋)、25km(冬)離れているという説明でした。私が訪れた5/12~5/13は春、秋シーズンとなって、1泊2日で35USD(約3750円)でした。
街から少し進むと小さな峠にぶつかります。大小の石が無造作に積まれた人の背丈ほどあるケルンが峠にはありました。街と草原の境目。峠を越えると人の手が入っていないモンゴルの大平原が広がります。
昨日の降雪の影響で郊外も雪化粧。
ところどころで放牧されている家畜たち。道中にはポツポツと遊牧民のゲルが存在していました。
未舗装の荒れた道を進んでいきます。
◆ホームステイ先
自動車で30分ほど走って今回お世話になるゲルに到着。ホームステイでは1組の夫婦のお世話になりました。奥さんのジャガさんはガヤさんと同級生、ゲル内の食事は彼女が作ったものでした。旦那さんのトゥメさんは日本の着物のような民族衣装をまとっていました。馬に乗って放牧に出かけるので日焼けした顔をしています。モンゴル語しか通じないので会話も多くはなかったのですが、ご両人にはよくしてもらいました。
今回のホームステイ先はこちら。
全景はこのような感じとなっていました。ご夫婦、ゲスト用とゲルが2つ映っていますが、あと1つ親族の方々が暮らすゲルがあります。ご家族で協力しながら暮らしているようでした。
ホームステイ先には、このような家畜小屋が2つあります。
柵の中にいた子羊たち。
子ヤギの姿もありました。
庭では羊が歩きまわることも……。
おとなしくて賢そうな顔をした犬も一匹連れていました。
◆ゲルという家
モンゴルの遊牧民が使用する伝統的な移動式住居のことをゲルと呼びます。コンビニの肉まんのような、円の形をした真っ白な建物。サーカスのテントのような雰囲気でした。
こちらのゲルで1泊させてもらいました。
ゲルの外にはソーラーパネルが置いてあって、車のバッテリーを充電しています。
ゲルの外にはパラボナアンテナも置いてありました。これはもしかして……?
ゲルの外側には防水性の厚い布が巻かれていました。学校の運動会とかで使うイベントテントの屋根に近い布地です。壁に当たる部分は敷布団でも入ってるような分厚い感触がありました。
ゲルの内部はこのような感じとなっています。中央の大黒柱が円形の天井を支えていました。
円形をした天井の半分は透明となっていて、ゲル内を太陽光で明るくしてくれます。日が落ちて辺りが暗くなると、外側からカバーを被せていました。
円形の天井から壁に向かって放射状に伸びる梁。
梁と梁の間に板を架けてベルトや紐の置き場所にしていました。
テーブルの中央には日本の仏壇のような祭壇が置いてあります。
液晶テレビもありますよ。先ほどのアンテナを使い、車のバッテリーに繋いで衛星放送を視聴していました。
衛星電話も使っていました。現代の遊牧民は緩やかに外の世界と繋がっています。
暖房及び調理を兼ねるストーブがゲルの中央を陣取っていました。ここにあることでゲル内に熱を均等に伝えてくれます。すすが出るのですが、まっすぐに伸びた煙突を通って外に吐き出されていました。
大きな鍋でお肉や野菜を炒めていました。調理と暖房を同時に行う寒い地域ならではの知恵。
ゲル内には棚もあって鍋、食器、調味料が置いてありました。梁の間には蓋やお玉が挟まっています。
吊るされた歯磨きセット。私たちのトラベルグッズにも似たような物がありますよね。
・ゲルでの食事
このホームステイでは昼、夜、翌朝と食事が3食付いてきます。
モンゴル風の焼きそばのツォイバンという料理。ジャガさんがゲルの中で麺をこねていました。
モンゴル風の雑炊。あっさりとした料理です。
朝食はカラッとした揚げパンと食パンでした。
コクのあるヤギのミルクも飲むことができます。ただ、ちょっとお腹を壊してしまったので飲んだのは一度きり。
このヤギのミルクは早朝にゲルの人たちで絞っていました。親ヤギを抑えている男性の股には子ヤギが挟まれています。大事なミルクを頂いているのです。
一もみしてピューッ、一もみしてピューッと繰り返すことでお椀のミルクが溜まっていきます。
・家畜の「ふん」
ゲルの外には家畜のふんが集められていました。
ぎっしりとふんが詰まっています。
ただ、乾燥しているので臭うことなく手に持っても汚れません。
ふんはゲル内のストーブの燃料に使われています。
更に家畜小屋の漆喰代わりにもなっていました。隙間風を防ぐ役割も果たしていました。
◆乗馬体験
このホームステイでは乗馬もできるとあって、かなり楽しみにしていました。ただ、経験がないので心配は心配。落馬も怖かったのでガヤさんがいた時に「乗馬はゆっくり安全に」と伝わるようにお願いしました。ガイドをしてくれるトゥメさんも分かってくれたようで、にこやかに頷いてくれました。
自転車のペダルのような鐙に足をかけて馬へと跨がります。足の届くことのないその高さにはに身がすくみました。「スピードが出ていたら、手綱を引っ張ると止まるから」という説明をするとトゥメさんもヒョイッと自分の馬に。トゥメさんの手には2本の手綱がありました。乗馬中は犬の散歩のように、私の馬も引っ張ってもらうのです。
絶好の乗馬日和。
たてがみを眺めながらのお散歩です。
左、右、左、右と馬の脚と一緒のお尻がリズミよく弾みます。最初こそ「落ちる」「死ぬぅ」と顔をひきつらせていたのですが、慣れてしまえばそこまで怖いものでもありません。澄み切った青空の下で、見渡すかぎりの大草原を飄々と駆け抜けていきました。グイグイと丘を登っていくお馬の力強さにはしびれます。逆に丘を降りるときは、前方に体重がかかって体が落ちそうになるので、ちょっと集中する必要がありました。約1時間ほどの乗馬体験でした。
こんな感じで馬に乗っていました。
「乗馬しているぞー」と拳を空に突き上げて。
あたふたする私を嫌な一つすることなく優しく先導してくれたトゥメさん。
お馬さんにもありがとう。
・遊牧民の放牧
私だとおっかなびっくりでギコチない姿となっちゃうのですが、その道のプロが馬に跨る姿は絵になります。手足の一部のように馬を操っていました。時にはフーフーと口笛で高い音を出したり、グワッグワッとカエルのような声を出して、家畜たちを一つにまとめて移動します。
モンゴルらしい草原の放牧。
右へ左へ散らばっていく家畜たちをコントロールしながら、どこかへと消えていくのです。
貫禄のある後ろ姿。
モンゴルの大草原に住む遊牧民は馬を巧みに操りながら脱走した馬を追いかけ回す - YouTube
◆家畜を観察
自転車の旅でしたから、これまでも嫌というほど家畜と戯れてきました。追いかけ回していました。でも振り返ってみると、あまり近くで観察した記憶がありません。だからこそ、かなり近い距離で家畜たちと触れ合える今回のホームステイは新鮮でした。
ゲルを出てすぐところにいた羊とお馬の群れ。
のんびりとした顔をして草を食べているのが羊。
ヤギたちは岩場が好きみたいで、身軽にヒョイヒョイと登っていきます。
モンゴルの大草原に放牧された子ヤギがメェメェと鳴いて親ヤギを探す - YouTube
お馬の親子もいました。
ゲルのある場所は緩やかな谷となっていて、家畜さんたちはどこまでも歩いていきます。
日が落ちて辺りが暗くなり始めると、ゲルの人たちは家畜たちを柵の中へ集めていました。トゥメさんも体を大きく広げて両腕をバタバタ上下しながら、家畜を追い込みます。威嚇しているのですが鶏が暴れているようにも見えて、本人はいたって真剣ですが可愛らしい動作に見えました。
◆遊牧民の朝
遊牧民の朝は早く、日が昇る前からゲルの外からメェメェと騒がしい声がしていました。
柵の中にいる子羊たち。
この柵を開けると子羊たちが猛ダッシュで駆け出します。お乳の時間でした。メェメェと慌ただしく鳴きながら「子羊は親羊を」「親羊は子羊を」探し合うのでかなり混沌とした状況になります。
親羊と子羊が慌ただしく鳴きながらお互いを探し合う - YouTube
頭を付き出してお母ちゃんのお乳にしがみつ子羊ちゃん。
束の間の親子だんらんです。
親羊と子羊が並んで歩く様子。
お乳の時間は30分程でしょうか。柵から草原に散らばっていた羊たちをゲルの人たちが集めていました。
再び柵の中に押し戻します。
モンゴルの遊牧民の生活、羊やヤギを柵の中に追い込む - YouTube
親も子もまとめて柵の中に入れてました。ここから親羊だけを柵の外に出します。そのために柵の中に立って羊たちと対峙していました。方法はいたって簡単、親羊なら通して子羊ならガードするだけです。私も手伝ったのですがアメフトでもやっているような感覚でした。隙間を抜けようとする子羊たちを超反応で追い返します。
こうした選別の後、親羊と親ヤギは再度放牧に駆りだされます。子羊と子ヤギはお留守番。昨日、昼前に到着した時と同じ状況になっていました。
大草原へと向かって歩いていく家畜たち。たくさんのお尻。
馬に乗ったゲルの人が付き添います。
どこか遠いところで放牧をするようでした。
◆草原を散歩
家畜たちもいなくなり暇となったのでゲルの周辺を散歩します。
遠くにはオルホン川というモンゴルで一番長い川が流れています。
ゲルから少し歩くと生活用水を確保するための沢がありました。
少しだけですが木も生えています。ただ、寒くて乾燥しているのでひ弱で元気がない……。
向かいの丘から眺めてみたゲルのある一帯。
草原にはコツコツと骨が落ちていました。拾ってみると意外と重くて硬かったりします。骨を道具にしていた時代に思いを馳せるのでした。
このような頭蓋骨まで落ちています。
◆ベイビーシーズン
私が旅した5月の初めは雪も降りましたし、モンゴルのベストシーズンでもありません。草原の緑も青々というよりはまだ成長中。ただ、デメリットばかりではありません。ホームステイ先は3月に生まれた子羊と子ヤギでいっぱいでした。
子羊の横顔。
クルクルとしたくせ毛に包まれた子羊たち。
子ヤギは柵に近寄ると駆け寄って2本の足で立ち上がります。
人間の子どものように澄んだ目をした小ヤギにモテモテでした。
草原のゲルに泊まって遊牧移民の日常を体験するのが、モンゴルの旅での最大の目的でした。そうしたツアーがないか旅前に調べていたところ、ワールドランナーというブログのレポートを発見。ガヤゲストハウスもノマドツアーも彼の記事を参考にしました。おかげさまで、最高の1日を過ごすことができました。
お世話になったゲルのご夫婦と一緒に。
小学校の国語の授業に「スーホの白い馬」というお話がありました。だからこそ、モンゴルといえば馬と草原のイメージでした。そのイメージ通りの世界をこの目で見てきました。
(文・写真:周藤卓也@チャリダーマン
自転車世界一周取材中 http://shuutak.com
Twitter @shuutak)
・関連記事
かつての恐竜化石密猟の天国・モンゴルで貴重な化石を守った取り組みとは - GIGAZINE
日本なのに異国情緒全開の宿泊施設「テンゲル」が朝・夕食付きで8000円なので泊まってみました - GIGAZINE
4000万人を殺したというチンギス・カンは地球の温度を下げたか? - GIGAZINE
Googleストリートビューが捉えた放牧中の羊をひたすらまったり眺められる「google sheep view」 - GIGAZINE
「羊飼い犬」は2つのアルゴリズムを使って群れを操っていたことが判明 - GIGAZINE
トンガにある豚だらけのエウア島では道脇で豪快に授乳する光景にも遭遇 - GIGAZINE
川を泳いでいくゾウの姿をボツワナのチョベ国立公園で発見 - GIGAZINE
道路横断中のナマケモノを発見し「無防備すぎて襲われてしまう」ことに納得 - GIGAZINE
イルカのように泳ぎ「海の遊牧民」となっている子どもたちの実態に迫る - GIGAZINE
・関連コンテンツ