「羊飼い犬」は2つのアルゴリズムを使って群れを操っていたことが判明

By Henri Ton

広い牧場で放牧されている羊などの群れを巧みに操り、目的の場所に誘導したり盗難や天敵による被害を食い止める仕事をする犬が牧羊犬(羊飼い犬)です。巧みに群れをコントロールして人間よりも効率よく操る羊飼い犬ですが、実はその際に2つのアルゴリズムを使っていたことが明らかになりました。

The Mathematics of Herding Sheep | Motherboard
http://motherboard.vice.com/read/the-mathematics-of-herding-sheep

Solving the shepherding problem: heuristics for herding autonomous, interacting agents
http://rsif.royalsocietypublishing.org/content/11/100/20140719.full.pdf+html

研究を行ったのはイギリス・スウォンジー大学の生物学者、アンドリュー・キング博士率いる国際研究チームで、発表された論文ではその手法が解き明かされると同時に、家畜以外の人間の行動をコントロールしたり、環境浄化に役立てることができるという展望を明らかにしています。

羊が群れを作る際の動きを解き明かした理論には、「現代のダーウィン」とも呼ばれたウィリアム・ドナルド・ハミルトン博士が発表した論文で解明された「利己的な群れの幾何学」があり、ここでは外敵による危機にさらされた羊がとる行動のメカニズムが述べられています。

By SheltieBoy

オオカミなど天敵に襲われた際、羊には「自分が助かるために群れの中心部へ紛れ込もう」という心理が起こります。そして全ての羊が同様の行動をとることで、群れには集団の中心部に向かおうとする強い向心力が発生します。この圧縮力が群れの密度を非常に高くし、多くの羊の集団からなる群れはまるで一つの個体のような動きを見せるというのが「利己的な群れの幾何学」が明らかにした理論となっています。

By Linda Tanner

そして羊飼い犬はこの羊の心理と行動を本能的に理解しているとみられ、実際に群れをコントロールする際には、2つの行動を巧みに使い分けていることが調査の結果で明らかにされました。調査では羊飼い犬と羊にGPSセンサーを取り付け、全ての個体の動きを詳細に記録したところ、以下のような動きが観測されました。

羊(赤枠)が群れをなさずにバラバラになっている状態のとき、羊飼い犬(青枠)はまず羊に向かって行き、全ての羊を1箇所にまとめて群れにまとめる行動をとります。これが1つめのアルゴリズムである「集合化(Collection)」の動きとなります。

羊がほぼ一つの群れになった状態。

いったん群れが形成されて一つの固まりになると、羊飼い犬は左下にある目的地点から一番離れた群れの一点を刺激し、群れに動きを生みだします。これが2つめのアルゴリズムである「駆動(Driving)」です。

徐々に進んでいた群れですが、矢印が指すように群れからはみ出してしまう羊の個体も出てきます。

すると、羊飼い犬は群れへの刺激を中断し、はぐれた個体を群れに戻すよう働きかけます(Collecting)。

そして再び群れが形成されたところで、改めて目的地点を目指して群れを進める(Driving)という行動をとっていることがわかりました。

この行動をもとに研究チームは行動をモデル化してコンピューター上でのシミュレーションを実施。その様子が以下のYouTubeムービーで示されています。左の枠が実際の計測データ、右がシミュレーションで作り出された「羊の群れの動き」となっています。

Herding Algorithm


そしてそのシミュレーションの動きをまとめたのがこちらの図。右上から左下へ向かうDrivingと、コースから外れて群れを作り直すCollectingの2つのアルゴリズムが線の形で再現されています。

研究チームはこの研究結果をもとにすれば、家畜管理のロボットによる自動化が可能になったり、原油の流出などによる環境汚染の除去、さらには人間の混雑した集団をコントロールする技術にも役立てることができるとしています。