サイエンス

「実用的な量子コンピューティングは間近に迫っているのか?」という疑問に専門家が回答


量子コンピューターは量子情報の最小単位である量子ビットを利用して計算するコンピューターで、従来のコンピューターでは解けない問題が解けるようになると期待されています。テキサス大学オースティン校の理論コンピューター科学者であるスコット・アーロンソン氏が、「実用的な量子コンピューティングは間近に迫っているのか?」という疑問について回答しました。

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https://scottaaronson.blog/?p=9425


アーロンソン氏は2025年12月、カリフォルニア州サンタクララで開催された量子テクノロジーの国際会議・Q2Bに参加し、「Why I Think Quantum Computing Works(なぜ量子コンピューティングが機能すると思うのか)」と題した基調講演を行いました。量子コンピューティングの実用化について語ったこの基調講演は、アーロンソン氏がこれまでに行った講演の中で最も楽観的なもののひとつだったとのこと。

これまでアーロンソン氏は、主に量子コンピューティングの高速化に関する課題について語ることが多かったものの、基調講演では「過去1年間に達成された実験的なマイルストーン」に焦点を絞りました。これらのマイルストーンを達成するたびに、脳内に浮かぶスケーラブルな量子コンピューティングへの疑念が弱まっていったそうです。


Q2Bから戻ったアーロンソン氏は、量子コンピューター関連のYouTubeチャンネル・The Quantum Bullの「フォールトトレラントな量子コンピューティングにどれだけ近づいているのか?」というテーマのポッドキャストに出演しました。

Scott Aaronson on the Possibility of Fault-Tolerant Quantum Computing by 2028 - YouTube


アーロンソン氏はこのポッドキャストの中で、量子コンピューティングの競争に焦点を当てて、さまざまなトピックに語りました。アーロンソン氏はポッドキャストの内容を以下のようにまとめています。

◆量子コンピューティングの技術的課題は解決されつつある
量子コンピューティング分野に参入した大企業やスタートアップは、商業的に成功するかどうかは別として、少なくとも現実の技術的課題の解決に取り組んでおり、中には驚くべき進歩を遂げている企業もあります。その一方で、投資家や政府に対し、量子コンピューティングが機械学習や金融に革命をもたらすというストーリーを売り込むことに最適化した企業もあるとのこと。なおアーロンソン氏は、量子コンピューティング企業のIonQが政府に「AIとは異なり、量子コンピューターは決定論的であるため幻覚を起こさない」といった誤解を与えたことを非難しています。

◆この1年間で最も印象的なデモンストレーション
アーロンソン氏はこの1年間で行われた最も印象的なデモンストレーションとして、「QuantinuumOxford Ionicsによるイオントラップ」「GoogleやIBMによる超電導量子ビット」「QuEraInfleqtionAtom Computingなどが実現した中性原子量子コンピューター」などを挙げています。

◆2025年はハードウェア面の期待を上回った
2025年の量子コンピューター分野は、ハードウェアに関するアーロンソン氏の期待を満たした、あるいは上回った年だったとのこと。複数のプラットフォームが99.9%以上の忠実度を誇る2量子ビットゲートを実現し、フォールトレランスの理論上のいき値を超えました。これによってアーロンソン氏は、企業が将来の目標を掲げるロードマップをより真剣に受け止めるようになりました。

◆量子コンピューターのアプリケーション
量子コンピューターの主な応用分野は、依然として「量子物理学や化学そのもののシミュレーション」「広く使われている暗号技術の解読」「最終的に機械学習や最適化の分野で一定の利点をもたらすこと」などで、四半世紀前からほとんど変わっていません。今後、新たな量子アルゴリズムの発見で応用分野が拡大するとみられますが、逆に一部の量子アルゴリズムが非量子化されるケースも想定されるとのこと。


量子コンピューティングは注目を浴びている分野ですが、必ずしもすべてのブレイクスルーや成果が公表されるとは限りません。たとえば1940年3月、イギリスの物理学者であるオットー・フリッシュとルドルフ・パイエルスが、核爆弾に必要なウラン235の質量を推定しました。しかし、学術誌に掲載すると敵対国家による核爆弾の製造が進む可能性があったため、あえて公表せずに軍のルートにのみ伝達しました。

これと同様に、実際に運用されている暗号システムを解読するのに必要な物理量子ビット数とゲート数を推定している研究者らは、世界中の暗号システムが解読されるのを防ぐため、いずれその推定値を公表するのをストップするとかもしれません。アーロンソン氏は、「その地点はすでに過ぎ去っているのかもしれません。これは、ポスト量子暗号システムへの移行の緊急性について、現時点で公に提供できる最も明確な警告です。この移行プロセスがすでに始まっていることに感謝します」と述べました。

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by log1h_ik

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