物語に命を吹き込むコツをアニメーションで解説
面白い物語を作るには「作り込まれたプロット」「生き生きしたキャラクター」などが必須ですが、映像や舞台といったイメージ要素が少ない小説の場合、読み手のイメージをかき立てるためには、それ以外に「読み手に感覚を与える言葉」が重要になってきます。「読み手に感覚を与える言葉」とは一体何なのか、どうすれば物語に組み込めるのか、TED-Edで小説家のナロ・ホプキンスンがアニメーションを使って解説しています。
How to write fiction that comes alive - Nalo Hopkinson - YouTube
「犯人をつきとめるため」「未開の星へ旅行するため」「笑うため」「泣くため」「考えるため」「感じるため」など、私たちが架空の物語を読む理由はいろいろあります。
架空の物語に没頭している間は、読者は自分がいつ・どこにいるのかを忘れます。
では、書き手の側では、架空の物語はどのようにして作られているのでしょうか。
わくわくするようなプロットや……
魅力的なキャラクターたちで読者を物語に引き込む、ということももちろんありますが、そこには別の要素も存在します。
例えば「ビリーの足は麺だ。彼女の毛先は針、舌は固いスポンジで、瞳は漂白剤でできている」という文章があったとします。
物語の中で上記のような文章があった時、読者は文字通りビリーの体が別の物体に変身してしまったのではなく、「ビリーは自分の足がふにゃふにゃと麺になってしまったように感じられた」のだ、と理解できます。
ストーリー上、これをシンプルな文章に直すと「ビリーは気分が悪くて弱気になった」になるそうです。しかし、この文章は読者に鮮明なイメージを与えません。
架空の物語で大事なのは「呪文を投げること」
読者が本を読んでいる瞬間に、「自分は物語の中で生きている」と感じられるような魔法をかけるのです。言い換えると、キャラクターたちが経験することを、実際に読者が経験しているように感じさせる「感覚」を与える必要があるのです。
映画や舞台などは、この「感覚」を視覚的・直接的な方法で見ている人に与えます。
設定・状況・キャラクター同士のやりとりを直接的に見ることができるためです。
一方で、小説などの場合は白い紙に文字が書いてあるだけなので、映像などに比べて、魔法をかける力は弱くなりがち。
すると、ビリーが感じていた気持ちを理解することはできても、ビリーの気持ちにはなれない、という状態が生まれます。
架空の物語を書くに当たって「プロットが面白い」「真実をつきとめたい気持ちになる」ということはもちろん大事ですが、それと同時に「読者に『自分はキャラクター自身だ』という気持ち」にさせることができないと、読者に途中で寝落ちされてしまうかもしれません。
そのため、作家が作り出す架空の物語には味覚・聴覚・視覚・触覚・視覚など、さまざまな「感覚」がちりばめられています。
例えば、「The World was ghost-quiet, except for the crack of sails and the burbling of water against hull(帆がカタカタと響き、水が船に当たってちゃぷちゃぷと音を立てる以外は、世界が消えてしまったかのように静かだった)」という文章があります。
この時、quiet(クワイエット/静か)、crack(クラック/カタカタという音)、burbling(バーブリング/泡立つような雑音)という3つの単語が聴覚という「感覚」を読者に与えています。
この時、3つの単語は単純に「大きい」「小さい」というものではなく、それぞれの「音」に具体性を与えるもの、読者が頭の中で特定のイメージを浮かべられる音になっています。
これら言葉の魔法によって、読者の頭の中には情景が浮かび上がります。
そして仕上げに、「ghost」と「quiet」という通常は一緒に用いられない単語を組み合わせ、抽象的なあるイメージを与えています。「quiet as a ghost(亡霊のように静か)」と表現するのではなく「ghost-quiet」と新しい言葉を造語しているのがポイントで、明確に書くのではなく、「ほのめかす」ことで読者の読書体験は大きく変わるとのこと。
また、書き手は常に「バラのように赤い」というような「決まり文句」を避けます。使い古されたイメージは読者に鮮明さを与えないためです。
「愛は浜辺から始まった。ジェイコブがチェリーを煮詰めた色のドレスに身を包んだアンを見た日に」という文章があると……
読者はアンの着ているドレスの色を想像し始めます。これが読者を情景に引き込む、ということ。
書き手が文章に「感覚」を散りばめることでダイナミックな世界が完成し、読者は浜辺でロマンスを目の当たりにしているような体験ができるわけです。
物語を書く場合、音・味・匂い・動き・触りごこちなど、「感覚」にまつわる言葉選びに慎重になること。単純に書いただけでは伝わらない、予想外の「言外の意味」を作り出し、読者のイマジネーションに火を付けるのです。
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