サイエンス

眼球の網膜に隠されたある構造が目の働きを最適化していた

By Ben K Adams

眼球のもっとも内側にある網膜は、光の情報からなる視覚的映像を神経信号に変えて脳へと信号を発する器官で、カメラのフィルムのような役割をしていることが一般的に知られています。その網膜の構造には、目の働きを最大限に発揮するために最適化されていることがあり、その事実を発見したイスラエル工科大学のErez Ribak博士が自ら説明しています。

Look, your eyes are wired backwards: here's why
https://theconversation.com/look-your-eyes-are-wired-backwards-heres-why-38319

Phys. Rev. Lett. 104, 158102 (2010) - Retinal Glial Cells Enhance Human Vision Acuity
http://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.104.158102

眼球にある網膜はいくつもの層に分かれていて、網膜の後部には赤、・緑・青の色に対して反応する錐体視細胞と、色を区別できないものの、光に対する感度が高く暗所で機能する桿体視細胞があります。錐体視細胞と桿体視細胞の手前側、つまり角膜側には神経節細胞やアマクリン細胞といった細胞からなるいくつもの層が位置しており、眼球から入った光はいくつもの層を透過して錐体視細胞と桿体視細胞にたどり着くわけなのですが、なぜ錐体視細胞と桿体視細胞の裏側でなく手前側に細胞で構成された層が存在するのかは、研究者たちの間でも長年の謎とされてきたそうです。


イスラエル工科大学のRibak博士は網膜の構造に関する謎を解き明かすため、2010年に網膜のモデルを作って実験を行い、網膜に存在する細胞の中で最も密度の濃いグリア細胞が、視界の鮮明度を増加する作用があることを発見しました。ただし実験で本当に興味深かったのは、緑と赤色の光が青色よりも集中してグリア細胞を透過していたことです。そして、コンピューターを用いたシミュレーション実験でも、グリア細胞を通る緑と赤色が、青色が通るときよりも5~10倍ほど濃い、つまり集中していたことが判明しました。

Ribak博士は次にモルモットを使って、光が網膜をどのように透過しているかを調べる実験を実施。実験はモルモットの網膜に27色の光を当てて、その様子を顕微鏡で調べるというものです。実験結果からは、網膜を透過するときに全ての光が均等に分散されるのではなく、ある特定の部分に集中することがわかりました。光が集中していた部分は細くて縦長の形状をしていて、網膜の入り口から錐体視細胞と桿体視細胞まで伸びており、そこを通る光の集中度合いは最高で通常の約10倍にもなったそうです。

By Thomas Tolkien

また、グリア細胞が赤や緑色の光をそれぞれ最適な錐体視細胞にガイドする役割を担っていることも判明。反対に青色の光はグリア細胞がうまく機能せずに、分散して桿体視細胞にたどり着いていました。

実験結果を簡単にまとめると「錐体視細胞と桿体視細胞より手前にある層が、赤や緑色の光を青色よりも集中して錐体視細胞と桿体視細胞に案内する役目を果たしている」ということ。特に赤や緑色は太陽が昇っている昼間に多く認識される色であり、夜にはあまり必要とされない色です。日中と夜間で比べると、日中の方が眼球を使う頻度が高いので、眼球は赤や緑色をより識別できるように網膜が最適化されているとも言えるわけです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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