2015年02月01日 12時00分サイエンス

ネットの写真・ムービーを野生動物学の研究に活用するクラウドサイエンスという手法

By Didrik Johnck

野生動物の生態を研究するには生息域で対象となる動物に帯同して調査する必要があるため莫大な研究費用が必要で、動物学発展の重要性を理解してくれるパトロン(資金提供者)の存在が欠かせません。しかし、近年、インターネット上に無数にアップロードされる写真やムービーという膨大なデータをうまく活用することで、資金不足を補いつつ、さらには新しい知見を発見できる「クラウドサイエンス」という手法が野生動物学の研究発展に大きく貢献しています。

Wildbook for Whale Sharks Photo-identification Library
http://www.whaleshark.org/

クラウドサイエンスで野生生物研究に貢献 | ナショナルジオグラフィック(NATIONAL GEOGRAPHIC) 日本版公式サイト
http://nationalgeographic.jp/nng/article/20150117/432142/

「Wildbook for Whale Sharks」は、ジンベイザメ研究の発展に寄与することを目的として開設され、研究者だけでなく一般人もジンベイザメに関する目撃情報や写真・ムービーを投稿できるサイトで、2003年に開設されて以降、年々、投稿されるレポートの数が増加。現在では5万3000枚の写真と2万5000件の目撃情報が集められ、4000件の研究データに活用されています。

一般市民による投稿には、従来の通説的な見解を大きく覆す情報が含まれていることがあります。例えば、ジンベイザメはメキシコ湾やインド洋などの暖かい海にのみ生息すると考えられてきたところ、2014年7月に一般人から「アメリカ東海岸にあるニュージャージー州でジンベイザメを目撃した」との情報が寄せられ、研究者を大きく驚かせたとのこと。野生動物を研究するプロジェクトWild Meのジェイソン・ホルムバーグ氏は、そんな北にジンベイザメが現れたことに驚いて、裏付けとなる事実がないか調べたところ、ニュージャージー州で目撃されたジンベイザメを撮影したムービーがYouTubeにアップロードされているのを発見。投稿内容が事実であることを知りました。

swimming with a whale shark...florida keys August 2013 - YouTube

これまで野生動物の生態を調査するには、実際に生息域に観察に行ったり、野生動物にセンサーやカメラを取り付けて追跡調査したりするのが一般的でしたが、これらの手法では研究費用が限られていることもあって集められるデータ量には限界がありました。

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一方、デジタルカメラやカメラ機能付きのスマートフォンの普及と、ブログメディアなどレポートを投稿できるコンテンツの充実によって、世界中から動物の目撃情報が続々とネット上に集まってくるようになり、生物学者の想像を超える「新発見」を含む有益な情報が図らずもネット上に蓄積されていき、研究者のデータ収集に大きく役立っているという現状があるとのこと。ネット上で資金調達をするのがクラウドファンディングであるのに対して、ネット上で科学的知見を集めるのがクラウドサイエンスというわけです。

一般市民から集まる野生動物に関する情報を活用するクラウドサイエンスは、ジンベイザメの生態に限らずさまざまな動物にデータ収集範囲が拡大して、今や「Wildbook」という野生動物データベースの構築に昇華。これまで動物学者を悩ませてきた資金面での制約を飛び越えたデータ収集を実現するクラウドサイエンスは、動物の生態研究を発展させ、人類共有の知見を充実させるものとして「シチズンサイエンス(市民の科学)」と呼ばれることもあります。インターネットがもたらす集合知の好例がシチズンサイエンスであり、市民から寄せられる潜在的な重要情報を活用する同様の動きは、多種多様な分野での応用が期待されています。

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