サイエンス

決して盗聴されない暗号化通信「量子インターネット」の鍵を握る量子メモリの開発が大きく前進

By jah~

量子コンピュータの技術を活用して量子暗号化した情報を伝達する「量子ネットワーク(量子インターネット)」は、盗聴することができないため絶対に破られない安全性を持つ通信技術と考えられていますが、量子ビット情報を保持する光子を長時間、維持・保存するのが極めて難しいという大きな問題がありました。そんな中、オーストラリアの研究者が量子もつれ状態にある光子を6時間保持することに成功し、量子インターネットの実現に大きな一歩を刻んでいます。

Optically addressable nuclear spins in a solid with a six-hour coherence time : Nature : Nature Publishing Group
http://www.nature.com/nature/journal/v517/n7533/full/nature14025.html

Quantum optical hard drive breakthrough -- ScienceDaily
http://www.sciencedaily.com/releases/2015/01/150108100658.htm

量子暗号通信で利用される量子もつれ状態の光子は生成と伝達自体は比較的容易ですが、長距離を移動させるために中継地点を経る必要があるところ、量子状態は自然な状態では外界からの影響を受けやすく、わずか数ミリ秒で崩壊するため情報を保持した状態を維持するのが非常に難しいという問題がありました。

この問題に対して、オーストラリア国立大学(ANU)のマンジン・チョン博士らの研究チームは、量子情報を格納した基底状態のユウロピウムイオン(151Eu3+)をイットリウムシリケート(Y2SiO5)結晶の中で量子もつれ状態を維持したまま6時間保持することに成功したと科学誌Natureで発表しました。


量子もつれ状態の光子を安定的に保存することに成功したイットリウムシリケート結晶を「まるで量子もつれ状態の情報を保存するポータブル『光学』ハードディスクのようなものです」とチョン博士はたとえており、今回の研究成果については「長時間、量子もつれ状態を維持できたことは、量子情報通信に革命をもたらす可能性を秘めています」と語っています。


量子ネットワーク技術が完成すれば、一切の盗聴が許されない完全に安全な通信環境が整うことになりますが、解読が不可能な暗号通信技術に対しては、公権力側の警戒は強いと考えられています。例えば、ネット検閲システム「グレートファイヤーウォール」を導入している中国はもちろんのこと、「政府が解読できない通信手段を許容するべきではない」として、首相に再選されればWhatsAppやSkypeなどの暗号通信アプリやサービスを禁止する法案を提出する意思を表明したイギリスのキャメロン首相の動きを見ても、通信の自由を保障する先進国でも量子暗号化技術を抑制しようとする動きがあっても不思議ではありません。

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in メモ,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

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