海底下2400メートルで非常に少ないエネルギーで生存可能な微生物が発見される
国際深海科学掘削計画(IODP)は、日本の海底のさらに2400メートル地下に微生物が生息していることを発見しました。この微生物は非常に小さな単細胞生物で、光も水もないほとんど栄養素が存在しない環境の中で、非常にエネルギーの少ない炭化水素化合物を摂取し、とてもゆくりと新陳代謝を行うそうです。
BBC News - Microbes discovered by deepest marine drill analysed
http://www.bbc.com/news/science-environment-30489814
IODPによる掘削調査は、カリフォルニア工科大学のElizabeth Trembath-Reichert氏らと共に行われました。掘削調査に参加したElizabeth氏は、「我々は現在この微生物を調査しているところで、この微生物の能力に驚かされてばかりです」とコメントを残しています。
IODPは2012年の7月25日から9月30日までの約2か月間、日本の下北半島付近の海底下を調査していました。この調査の主な目的は「海底下深くに埋没した未成熟の石炭層に関連する炭化水素循環システムと微生物学的・地球化学的プロセスの調査」で、八戸沖の海域(水深1180メートル)の場所から海底を掘削し、海底下1276.5メートルから2466メートルの区間では地質調査用の円柱形サンプルであるコアを採取、そしてそのサンプルの中から非常に省エネルギーでも生きることが可能な微生物が発見された、というわけです。
海底下を掘削するのは「ちきゅう」と呼ばれる地球深部探査船です。「ちきゅう」は船上からドリルを1000メートル下の海底まで降ろすことが可能で、このドリルを使って史上最深となる海底下2446メートルまで地面を掘り進めることに成功しました。しかし、実際のところは「ちきゅう」は海底下7000メートルまで掘削可能となっており、地球のマントルを採取することも可能な探査船になっています。
調査用のコアは古代の石炭層から採取され、船内で分析されます。研究チームが発見した微生物は、光も酸素もなく、かろうじて水や少量の栄養素だけが存在する、という厳しい環境下で生きていたそうです。石炭層を調査した理由についてElizabeth氏は、「我々が石炭層を調査することにしたのは、ここには炭素が含まれており、これを微生物が摂取するであろうことを知っていたからです。いくつかの微生物は石炭化合物を直接食べ、その他の微生物でもメタンなどの炭化水素を食べられる、と考えられていたのです」と説明。実際に調査した結果、海底下の微生物はメチル化合物を摂取することが分かったそうです。また、実験を通して海底下の微生物は極端に代謝が悪く、生きていく上でほとんど可能な限りエネルギーを使わないようにしていることも判明しています。
今回発見された海底下に住む微生物は、炭化水素を摂取して温室効果ガスであるメタンを排出します。この特徴により、研究者たちは「微生物は地球の炭素循環系の中で大きな役割を果たしているのかもしれない」と再評価しているそうです。
なお、地球深部探査船「ちきゅう」がどのように海底下を掘削するのかは以下のムービーを見ればよく分かります。
深海科学掘削技術~地球深部探査船「ちきゅう」~ - YouTube
「ちきゅう」は人工衛星から現在地情報を取得して正確な位置を把握します。
そして底面についている360度回転可能なスクリューを使い、正確な位置に移動。このスクリューを使えば海面でも風や波に流されず一定の位置にとどまることが可能だそうです。
次に船上でドリルパイプをつなぎ……
その先にコンダクターパイプをつなげて海底に降下させます。
そして海底にコンダクターパイプを固定。
その後ドリルパイプは引き上げます。
続いて海底掘削用のドリルビットを降ろし……
コンダクターパイプの中を通し……
海底を掘削します。このドリルビットは先端から海水を噴出することで掘削時に発生する掘りクズを穴から除去できるそうです。
一定まで掘り進めたらドリルビットを引き上げ……
掘削した穴を保護するためのケーシングパイプを降下させます。
これをコンダクターパイプ内に挿入して……
穴をセメントで固めて固定。
そしてライザーパイプをつなぎ……
噴出防止装置をコンダクターパイプに接続。
これで、「ちきゅう」と海底がライザーパイプでつながることになります。
この後は、ライザーパイプを通して最初に使ったものより小型なドリルビットを降下させ……
海底下を掘削することになります。
その後、ケーシングパイプの挿入を何度も続けることで海底下深くも安定して掘削できるようになるわけです。
なお、海底下から採取されたコアは、「ちきゅう」の船内にあるコアカッティングエリアで1.5メートルごとの大きさにカット。
X線CTスキャナ研究室でコアを傷つけずに中の様子を調べます。
コア分割室で実験用と保存用に分けます。
そしてコア研究室で音や熱の伝わり方、密度などを調べ……
小さなサンプルに分けます。
その後、微生物研究室ではサンプル内の生きた微生物を調査します。
顕微鏡で化石や岩石の調査も行われます。
地球化学研究室ではコアの化学組成を調査。
そして保存用のコアで地球の過去の磁場を調べます。
最後は保管されて陸上での更なる調査研究に回される、というわけ。
コアを調査することで、過去から現在までの地球の環境変化を読み取ることや、地層の性質を理解することで例えば地震が発生する仕組みなどが解明できるようになるわけです。
・関連記事
新種の微生物が4000km離れたNASAとESAのクリーンルームから発見される - GIGAZINE
池から採取した一粒の水滴の中に広がる驚くべき微生物の世界 - GIGAZINE
地球上に生命体が存在しない場所はあるのか? - GIGAZINE
ボトル入りのミネラルウォーターはバクテリアだらけ、基準値の100倍以上含むものも - GIGAZINE
研究者が自分の鼻から新種の可能性があるダニを発見 - GIGAZINE
2007年に発見された新種の生き物の数々 - GIGAZINE
・関連コンテンツ