「ある少女の命」は助けても「大勢の命」からは目をそらしてしまう理由とは

By Peter Casier

世界ではまだまだ多くの人が飢餓などに苦しんでいるという現状があり、さまざまな救いの手をさしのべる運動が続けられています。しかしその中には、同じような問題であるにもかかわらず、あるケースに対しては関心が集まる一方で、まったく関心が持たれないケースが存在することも。なぜそのような現象が起こるのか、人間の認知方法を元に調査した研究結果では興味深い傾向が浮き彫りになり、今後の活動にも役立ちそうな分析が行われています。

Why Your Brain Wants To Help One Child In Need — But Not Millions : Goats and Soda : NPR
http://www.npr.org/blogs/goatsandsoda/2014/11/05/361433850/why-your-brain-wants-to-help-one-child-in-need-but-not-millions

Whoever-Saves-One-Life-Saves-the-World: Confronting the Challenge of Pseudoinefficacy
(PDFファイル)http://globaljustice.uoregon.edu/files/2014/07/Whoever-Saves-One-Life-Saves-the-World-1wda5u6.pdf

この発表を行ったのは、スウェーデン・リンショーピング大学のダニエル・ヴェストフィエール心理学教授らによる研究チーム。映画「シンドラーのリスト」の有名なセリフ「もっと助けられた、もっとたくさん救うことができたのに」の一節を冒頭に引用する論文では、人々は対象となる事象の大きさによって実際の行動を変えてしまうという結果が明らかにされています。

研究チームはまず実験参加者に対し、飢餓に苦しむある少女の現状について説明を行い、その後にどの程度の割合で参加者が寄付を行うかを測定。次に、同じ検証を別のグループに対して行ったのですが、その際には飢えに苦しむ少女のエピソードに加え、それ以外にも何百万人という人が飢えに苦しんでいる状況を伝え、同様に寄付を行った人の割合を測定しました。

By Peter Casier

飢えに苦しむ人々の規模が大きくなるほど寄付の割合も高くなりそうな実験なのですが、実際にはその割合は逆転。多くの人が飢えに苦しむ状況を伝えられたグループが寄付を行った割合は、少女のことだけを伝えられたグループに対しておよそ半分程度だったことがわかりました。

研究チームのポール・スロヴィック教授は当初、この違いは「心と頭」の違いによるものだと推論を立てたといいます。飢えに苦しむ一個人のエピソードは多くの人の「」に突き刺さり、一方で多くの人々が苦しんでいる状況は「」に働きかけると考え、「対象の数が大きくなるほど、我々の関心は助けを必要としている人との感情的な結びつきを失う」と考えました。

それではなぜ規模が大きくなるほど関心が薄まっていくのか、研究チームではさらなる検証を行った結果、その本当の原因は「心と頭」の問題ではなく、「他者と競い合う感情が複合したもの」であるということが見えてきたといいます。

By Chris Potter

スロヴィック教授によると、少女に対して助けの手をさしのべようと思うのは、その行動をとることによって自分がよい気分になり、温かい気持ちになるからだとのこと。そのため、統計データの規模が大きくなると、飢えに苦しんでいる人々の存在が非常に大きなものであることを感じ、「自分にはどうすることもできない」と考えるようになると論説しています。

興味深いのは、「ネガティブな感情がポジティブな感情を打ち消すこと」であると研究チームは指摘します。仮に人間の頭脳がコンピューターのようなものであった場合、「少女を助けたい」という気持ちと「自分には助けられない」という相反する気持ちはお互いに打ち消し合うことなく存在し、無力感に襲われながらも、一方では少女を助けるための寄付は行えるはず。しかし、人間の脳では無意識下でさまざまな感情が統合されてしまい、少女を助けたいという温かい感情がネガティブな感情によって打ち消されてしまうとしています。

言い換えれば「人は、何かできることがあると思っても、一方で何もできない事柄に直面すると、行動を起こすことそのものを止めてしまう」となるわけですが、スロヴィック教授はこれを「効率性」の感覚によるものと指摘。「仮に私たちの脳が『非効率的である』という幻想を抱くと、『これは大きな問題だ。私が寄付したところで効率的になるのだろうか』と考え、寄付するモチベーションが下がってしまうのです」とその現象について語っています。

By Gioia De Antoniis

対象となる相手の規模によって人々の行動が大きく左右されるというある意味で衝撃の内容が明らかにされたわけですが、一方でこの結果からは今後のあり方を示唆する内容も見えてきます。世界の惨状の真実を伝えることは重要なことであるわけですが、あまりに大きく事象を伝えることはかえって逆効果になると言えます。話の規模が大きくなるほど、人々の関心は無力感によって打ち消されてしまうことがわかったので、伝え方に対する配慮が内容と同じぐらい重要な要素となりそうです。

By UNAMID

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