たった3800円で購入できるFirefox OSスマホの使い心地は一体どうなのか?
世界中のどこにいてもインターネットさえあれば一瞬でコミュニケーションを取ることが可能となりますが、そんなインターネットにアクセスするためのインフラがそろっていない国、というのは世界中に多くあります。そんなインターネットに容易にはアクセスできないという新興国向けに、Googleは1万円程度で購入できる激安スマートフォンAndroid Oneをスタートさせているわけですが、これよりさらに安い35ドル(約3800円)でゲット可能なFirefox OS搭載スマートフォン「Cloud FX」が存在します。他に類を見ないレベルの格安スマートフォンですが、これが実際にはどれくらい使える端末なのかをArs Technicaが徹底レビューで明かしています。
Testing a $35 Firefox OS phone—how bad could it be? | Ars Technica
http://arstechnica.com/gadgets/2014/10/testing-a-35-firefox-os-phone-how-bad-could-it-be/
「Cloud FX」はIntex製の格安スマートフォンで、インドなどの新興国向けに作られた端末です。インド人の平均月給は295ドル(約3万2000円)であり、この月給だと他の先進国では格安と捉えられるような1万円台のAndroid One端末もなかなか手を出しづらいものであることが分かります。GoogleはAndroid Oneが「高品質であること」を目標としているそうで、インターネットにつながるための手段が少ないような国々に提供するスマートフォンでも、60fpsのアニメーションを再生するためのスペックを備えていたり、最新のソフトウェアが更新可能となっていたりしており、「こういった要素は本当に必要とされているのかどうか不明だ」とArs Technicaは記述しています。
以下の画像は2012年度における各国のインターネットユーザー割合を示した地図。アメリカ・カナダ・オーストラリア・ヨーロッパの一部ではインターネットの利用率が80~100%となっていますが、ほとんどの地域では半数以上の国民がインターネットにアクセスできていないことが分かります。このようにまだまだ浸透しきっていないインターネットを、さまざまな人々の手元に届けるというところにCloud FXのような格安スマートフォンの存在意義はある、とのこと。
◆フォトレビュー
Cloud FXの端末品質について、Ars Technicaは端的に「良くない」と表現しています。例えば、よくよく見てみると表面のプラスチック素材は全てが一定のカラーとはなっていないそうで、そんな普通のスマートフォンではあり得ないようなことが意図せず起きてしまっている、という点が3800円で購入可能なCloud FXのクオリティのようです。
これがCloud FX。ディスプレイは3.5インチですが、ディスプレイサイズから考えると本体サイズは比較的大きく、表面の約40%もの面積がベゼルとなってしまっています。つまり、Cloud FXは世界初のフレームレス設計スマートフォン「AQUOS CRYSTAL」とは正反対な端末、というわけ。
本体表面はガラスではなく硬いプラスチックに覆われており、斜めからディスプレイを眺めるとタッチスクリーンと液晶画面の間には大きな空間が空いていることも分かります。なお、ハイエンドスマートフォンの場合はこのタッチスクリーンと液晶画面とがピッタリくっつけられているそうで、隙間が空いてしまっていることでCloud FXの画質はもともと良くないものがさらに悪くなってしまっている、とのこと。
背面には「Firefox OS」の文字があり、表面の凹凸部分はダイヤモンド・パターンカットされています。背面スピーカーの音量はスマートフォンの中でもかなり大きい部類に入るとのことですが、音質は「お察し」レベル。
背面の2メガピクセルカメラ
天面にはイヤホンジャックと電源ボタン
底面
左側面には音量調節ボタンと充電用のMicro-USBポート。
背面カバーをパカリ。カードスロットが3つ見えますが、下側に並んでいる2つがSIMカード用のもので……
「INTEX」という文字の横にあるのはmicroSDカードスロット。
Cloud FX(中央)をiPhone 5s(左)やNexus 5(右)と並べるとこう。
薄さは12mmで、最新スマートフォンと比べるとどう見ても分厚め。ただし、重量は104gと非常に軽く、サイズも最新のスマートフォンと比べるとかなりコンパクトです。
解像度480×320で画素密度は165ppi
使用されている液晶は第一世代のものなので、視野角が90度と非常に狭め。水平方向に画面を傾ける分には大丈夫なのですが、垂直方向に画面を傾けると、以下の画像のように20度ほどで画面上の色がネガフィルムのように反転してしまい視認しづらくなります。また、角度によってディスプレイ上の色がコロコロ変わってしまうため、実際に画面に映っているものは何色なのか判別しづらい、とのこと。こういった特徴から、デバイスを横向きで持つと、同じ画面のはずなのに画面の左右で色味が異なるように見えてしまう、という恐るべき事態も発生するそうです。
なお、Cloud FXのディスプレイ下部にはホームボタンが取り付けられており、多くのFirefox OS搭載端末に設けられている物理的な「戻る」ボタンがCloud FXにはありません。これに対してArs Technicaは、「Firefox OSのアプリはほとんどがバックボタンを必要とするほど複雑なものではない」とコメントしています。
◆詳細スペック
ディスプレイ:3.5インチ液晶ディスプレイ、解像度480×320で画素密度は165ppi
OS:Firefox OS 1.3
CPU:Spreadtrum 1GHz SC6821
RAM:128MB
GPU:Mali 400
ストレージ:256MB(その内利用可能な容量は46MB)
通信方式:GSM 900/1800
外部接続:802.11g Wi-Fi、Bluetooth、microSDカード(上限4GB)
カメラ:2MP
サイズ:縦115.9mm×幅62mm×薄さ11.8mm
重さ:104g
バッテリー:1250mAh
その他:デュアルSIMスロット、FMラジオ
価格:35ドル(約3800円)
Cloud FXのスペックは、日本やアメリカなどの先進国で販売されている最新のスマートフォンと比べると「タイプミスでもしたのかな?」というくらいに貧弱なもの。特に、利用可能なストレージ容量が46MBというのは驚きで、iPhoneの写真が1枚2MB程度であることを考えると、ある意味ものすごいストレージ容量です。もちろん使用時は外付けのmicroSDカードが必須となります。
また、通信方式の「GSM 900/1800」というのは第2世代移動通信システム(2G)に当たるもので、現在日本で主流となっている3GやLTEなどよりも古い通信方式であり、速度も非常に低速。
フラッシュがなかったり、インカメラやGPS機能といった最新のスマートフォンでは欠かせないものも搭載されておらず、さらにはバッテリーのバックアップが存在しないため、デバイスの電池が切れると時間や日付に関する情報がリセットされてしまい、これらのデータをいちから入力し治す羽目になる、というのもすさまじいポイント。なお、時間がリセットされたままの状態だとセキュリティ証明書が発行されなくなってしまうので、アプリのダウンロードやメールの受信、セキュリティのしっかりしたウェブページへのアクセスが不可能となってしまいます。もちろん時間をセットすれば通常通り使用可能となりますが……。
なお、Cloud FXのスペックは2007年に発売された初代iPhoneとほぼ同等のものであったそうです。
◆Firefox OS
Firefox OSはChrome OSに非常に似ており、ブラウザを拡張してOSにした、というような印象だそうです。Firefox OSのアプリは全てHTML5や他のオープンなウェブ標準技術を使用して作成されたものなので、独自の仕様などが一切ない、というのは開発者側からすれば非常に助かるポイント。なお、Cloud FXに搭載されているのはFirefox OS 1.3とこれまた一昔前のバージョンのものになっています。
理論上はFirefox OSでもマルチタスクが可能なわけですが、詳細なスペックを見ると分かるようにCloud FXのメモリは128MBと非常に少ないのでマルチタスク機能は一部を除いてほとんど使用不可能です。この「RAMが128MB」というのはバックグラウンドでアプリを起動させるマルチタスク機能はおろか、通常のアプリでもあまりに容量の大きなものの場合は起動できない、とのこと。また、あまりにもメモリが少ないので、例えばウェブページを表示している際に何かしらの通知が来て画面が切り替わってしまうと、もう一度ウェブページの読み込みをし直す必要がでてくる、とのことでウェブサーフィンはかなりの苦行となるそうです。
ブラウザでArs Technicaを表示させるとこんな感じ。ブラウザでは複数のタブを表示することも可能で、設定画面には2つしか項目がなく非常にシンプル。
ブラウザでYouTubeやGmail、Outlookなどを開くとこう。メモリは少ないものの、きちんとYouTubeの再生は可能であったそうです。ただし、GmailはFirefoxでページを開いていることを認識してくれなかった、とのこと。
専用アプリはFirefox Marketplaceからインストール可能。容量が大きくグラフィックの優れたゲームをCloud FXでプレイするのは不可能だったそうですが、その他のアプリはきっちり動作します。これらのアプリは全てPCブラウザのFirefoxでも同様に使用可能なので、その点はアプリ開発者にとってはありがたいところ。なお、Firefox OSのアプリにはローカルアプリとブックマークアプリの2種類が存在し、ローカルアプリはネットにつながっていなくても使用可能なアプリで、ブックマークアプリは単にウェブページをデバイスに合わせて見やすく、操作しやすく成形しただけのものです。
カレンダーアプリはGoogleカレンダーとの同期が可能ですが、デバイス側から編集することは不可能。
時計アプリは存在しますが、Cloud FXのメモリが小さ過ぎるのでバックグラウンドでアプリを起動させることは不可能。なので、アラームを使用したい場合は常に時計アプリを開いたままにしておく必要アリと、とても目覚まし替わりには使用できないようなものとなっています。
連絡先はGoogleに保存したものを同期可能。
メールアプリはPOPとIMAP、自動同期に対応しています。しかし、Cloud FXのメモリ容量が少ないので自動同期は動作してくれず、結局は手動でメールをチェックする必要性が出てきます。
Firefox OSではiOSやAndroidのようにホーム画面を水平方向にスクロールしたり、画面上部を下方向にスワイプして通知画面を表示させたり、複数アプリをまとめてフォルダ内に収納したりが可能で、そのフォルダ表示というのが画像左端のスクリーンショット。真ん中のスクリーンショットはラジオアプリを起動している際のもので、一番右端のスクリーンショットはアプリを切り替える際の様子。
音楽プレーヤーだけはバックグラウンドでの起動が可能なので、他のアプリを開いていても音楽を再生させることは可能。
カメラアプリとギャラリーアプリは以下の様な感じ。一番右に映っている犬の写真はCloud FXで撮影したものではありません。
Firefox OSのプライバシー設定は非常に素晴らしく、それぞれのアプリで詳細にプライバシー設定が可能。アプリやウェブサイトの現在位置確認をキャンセルする、という項目まで存在しておりユーザーのプライバシー面には非常に気を配っている印象です。
そして端末の設定画面。
Cloud FXのタイピングには非常につらいものがあります。その理由はキーボードがマルチタッチに対応していないからで、例えばキーボードの「Q」と「P」を同時にタッチすると、ちょうど中間にある「Y」キーをタッチしたと誤認するキーボードとなっており、これにはArs Technicaもかなり不満がある様子。マルチタッチ非対応な影響で、文字を入力する際には非常に神経質かつ注意深くキーをタップする必要がある、とのこと。以下のムービーを見れば、以下にCloud FXでのタイピングが難しいかが分かります。なお、Cloud FXには文字の自動選択やコピー&ペースト機能が一切存在せず、文字入力を諦めたくなるレベルのキーボード機能になっている、とのこと。
Typing on the Cloud FX
そしてCloud FXの全体のパフォーマンスについてですが、ムービーを見れば分かる通りやはり動作は遅いです。Ars Technicaはベンチマークソフトを使ってCloud FXのパフォーマンスを数値化しようと試みたそうですが、互換性がなかったり、ベンチマーク中にクラッシュしてしまったりと結局ベンチマークテストを行うことは不可能であったそうです。また、バッテリーテストも行ったそうですが、これらもことごとく失敗。「Firefox OSなのだからブラウザベースのベンチマークを行えば良い」と思うかもしれませんが、それらもことごとくクラッシュし、Firefox OSを開発しているMozillaの提供するベンチマークテスト「Kraken」でさえ、Cloud FXをクラッシュさせてしまった、とのこと。これらのクラッシュは恐らくメモリ不足によるものらしく、その証拠にFirefox OS搭載スマートフォンであるZTE Open Cではベンチマークテストがしっかりと実行できたそうです。
実際のCloud FXのパフォーマンスは非常に安定せず、全く同じウェブサイトを表示させる際でもロード時間に大きなばらつきが出てしまうそうで、数秒でロードできることもあれば数分間かかる、ということもあったそうです。メモリの関係で、ページのロードには非常に時間がかかり、これの解決策としてはウェブページの画像とJavaScriptの読み込みを不可能にする、ということくらいしかないとのこと。
なお、Firefox OSではこのようなバグが多く、デバイスの動作が止まってしまった際の解決策は「再起動」だそうです。
◆カメラ
Cloud FXのカメラの性能を比較すべく、5台のスマートフォン(Cloud FX、ZTE Open C、T-Mobile G1、Nexus 5、iPhone 5s)でほとんど同じ構図から写真を撮影(フラッシュは使用せず)しています。
・風景を撮影
Nexus 5やiPhone 5sの画質は言わずもがなですが、2008年に発売されたスマートフォンや、同じFirefox OS搭載のスマートフォンと比べても、Cloud FXのカメラ性能がかなり低いことは撮影した写真を見ればすぐに分かります。
Cloud FX(2MP)
Firefox OS搭載のZTE Open C(3.15MP)
一番最初にリリースされたAndroidスマートフォンであるT-Mobile G1(3.15MP)
Nexus 5(8MP)
iPhone 5s(8MP)
・花を撮影
写真の色味やコントラストはカメラによってかなり異なってくるものですが、Cloud FXは一昔前のガラケーを思い出させるレベルのぼんやり感を出しています。
Cloud FX
ZTE Open C
T-Mobile G1
Nexus 5
iPhone 5s
・少し暗い場所での撮影
同じ場所、同じ条件で撮影した写真とは思えないレベルですが、すべての写真はフラッシュなしの、同じ場所、ほぼ同じ構図で撮影されたものです。
Cloud FX
ZTE Open C
T-Mobile G1
Nexus 5
iPhone 5s
◆評価
ここまでCloud FXを見てきて、Ars Technicaが下した評価は以下の通り。
良い点
・プリインのアプリは位置情報の利用がオフになっており、プライバシー面の設定が素晴らしい
・安い
悪い点
・Firefox OSはトータルでみてCloud FXのOSとしては不適当。Cloud FXのメモリや処理速度に対する思いやりはゼロで、このデバイスの最大の問題がソフトウェアを動作させるための最小限以下のスペックのハードウェアを搭載してしまっている、という点になってしまっている
・ソフトウェア(つまり、Firefox OS)
・キーボード(マルチタッチ未対応で自動選択もなく、コピー&ペーストも不可。さらに「Q」と「P」を同時に押すと、キーボードは「Y」と認識するというボケッぷり)
・メモリ(端末は絶えずメモリを使い果たした状態となっており、マルチタスクは不可能。アラーム機能やメールのチェックのような重要な機能でさえバックグラウンドでは動作せず)
・スクリーン(視野角は恐ろしく狭く、ディスプレイがチラチラと光るのは頭痛のタネ)
・ストレージ(ほとんど容量がない)
・通信(3G回線は使用できず、もちろん4G回線も使用不可)
・カメラ(写真というよりは印象派の水彩画に見える出来栄え)
・品質(極めて安っぽく、非常にプラスチック感が強い)
・パフォーマンス(パフォーマンスは一貫せず、ほどよくのろまで再起動が頻繁に必要)
・バッテリーのバックアップがないので時計の時間を維持できず、電源を切ったりバッテリーが切れたりする度に時計がデフォルトの時間を表示してしまう
・GPSがない
・Firefox OS搭載なのにFirefoxが何度もクラッシュする
なお、最後には「初めてスマートフォンを持ったのがこの端末だった場合、誰もが一生『スマートフォンは使わない』と誓うだろう」と記されています。
そんなFirefox OS搭載端末が年末にauからリリースされる見込みなので、最低でもマルチタスク可能な程度のメモリが搭載されていることを祈ります。
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