アイスや香水にまでなった「ベーコン」はなぜブームを起こしたのか?
by Len Matthews
今や朝食に登場するだけでなく、デザートやウオツカまで、あらゆる食べ物と組み合わされ、香水まで登場したほど異常な人気を誇る食べ物が「ベーコン」です。アメリカにおいてこの人気は特に顕著なのですが、ベーコン人気は昔からあるものではなく、在庫が残りまくりの不人気食品が過去10年で年間40億ドル(約4300億円)を生み出す巨大市場にまで急成長を遂げた、という歴史があります。
Bacon: Why America's Favorite Food Mania Happened - Businessweek
http://www.businessweek.com/articles/2014-10-06/bacon-why-americas-favorite-food-mania-happened
今でこそ外食チェーンに浸透しているベーコンですが、長い間、その売上は80%が小売店で20%がレストラン、という形でした。家庭の消費が中心だったベーコンの売上は年間を通して見ると、ベーコン・レタス・トマトが挟まれたBLTサンドイッチが作られる夏にピークに達し、10月に入って市場からトマトが消えるのと同時に食卓に上らなくなるのが例年だったのです。
全てが変化したのは1980年代になった時のこと。メディアが脂肪やコレストロールの恐ろしさを伝え、これまでバターを使っていた家庭がマーガリンを使用し始めたり、炭酸飲料が避けられたりするようになります。「ファット・フリー」がもてはやされた時代において、3分の2が脂肪でできているベーコンの売上は35~40%ほど落ち込みました。そこで、「皮なし・骨なし」の胸肉を売り出す鶏肉産業に負けていた豚肉産業は起死回生の手段として、豚肉をヘルシーな胸肉と同じ「白肉」として売り出す「Pork: The Other White Meat(もう1つの白肉)」キャンペーンを打ち出します。
これが1987年に放送された「Pork. The Other White Meat」キャンペーンのCM。「白肉」としてアピールされた豚肉ですが、アメリカ合衆国農務省によると豚肉は白肉にあたらない、とのことです。
pork-the other white meat 1994 commercial - YouTube
このキャンペーンは効をなし、豚肉のうち白い部分は低脂肪の食品として売上を伸ばしましたが、一方で白くない赤身の部分の売上は落ちたままでした。倉庫の中には冷凍の豚ばら肉が山積みにされ、価格は1ポンド19セント(450グラムで20円ほど)にまで下落。当然、豚バラから作られるベーコンもその影響を受けます。政府が関係者に「豚バラ肉を旧ソ連に安く輸出するかアフリカへの食糧支援として売るように」と奨励するほど、豚バラは需要がなく余りまくっていたのです。
1990年の終わりには豚バラの売上低迷に苦しむ農家によって「この状況を何とかしろ」という声が大きくなります。全国豚肉協議会の代表たちは、その時になってもまだわずかな売上を生み出す「白肉」に重点を置いていたのですが、数人の代表の発言によって徐々にベーコンの新しい活路が見えてきます。それまでベーコンは家庭で食べられることが多く、小売店側からのマーケティングしか行われていなかったのですが、外食産業に身を置く人々が「香料」としてベーコンをレストランに置くことを提案したのです。
ハンバーガーやサンドウィッチを販売するお店においても、その時期は低脂肪肉を使ったハンバーガーが売り出されていたのですが、マクドナルドが発売した91%ファットフリーのMcLeanは失敗に終わっていました。低脂肪肉を使ったハンバーガーは、まるで段ボール紙を食べているかのようにバサバサで、フレーバーというものが存在しなかったのです。ハンバーガーにベーコンを加えればフレーバーを付けたし口当たりをよくするだけではなく、低コスト故に売り手が利益を生み出すことができる、と協議会の代表たちは考えました。
ハンバーガーにベーコンを加える、という試みを最初に行ったのはマクドナルドではなくHardee’s。ベーコンの運命を決めたのは1992年発売の、ファーストフードで初めてベーコンが使われた「フリスコ・バーガー」でした。フリスコ・バーガーはこれまで人々が気にしていた「健康面」とは全く関係なく、そのおいしさゆえに売れ、大きな成功を収めます。
しかし、Hardee’sでベーコンを使ったハンバーガーが成功を収めたからといって、即座に他のチェーンがベーコン入りバーガーを主流にしたわけではありませんでした。1990年代を通してバーガーキングを始めとするチェーン店が徐々にベーコンを使いだしますが、いずれにしろ限定的なものでした。ベーコンは調理すると煙を発生させ、溶け出した脂は処理が大変であることが、ベーコンの使用がためらわれた大きな理由。レストランは日々の掃除が大変にならない形でベーコンを導入したかったのです。
これを受けて全国豚肉協会は「ファーストフードチェーンにおいてベーコンを使っても簡単に清潔を保てる方法」の研究を始めます。そして、食物の研究所や大学の研究機関、企業の開発部門などが「電子レンジで調理可能な下ごしらえ済みのベーコン」はどのように作ればいいのかを試行錯誤した結果、マクドナルドなどの外食チェーンが欲する現在の処理が簡単なベーコンが生まれました。
同時に、全国豚肉協会はベーコンを使ったメニューを開発するためにレストランでのロビー活動を開始しします。豚肉のパティをナゲットのように揚げて、ベーコンと一緒に挟んだハンバーガーをバーガーキングで開発したことも。この時の活動につぎ込まれたお金は数十万ドル(約数千万円)と、マーケット全体から見ると比較的小さなものでしたが、その効果は予想よりも大きかったとのこと。McLeanを売り出していたマクドナルドも、一度ベーコンをメニューに使い出すと積極的な姿勢を見せだし、1つのハンバーガーに2枚、3枚と多くのベーコンを使い始めました。そして2000年ごろにはベーコンが塩・コショウに続く3番目の調味料となったのです。現在ではアメリカのレストランの3分の2が、少なくとも1皿はベーコンを使った料理を提供しているとのこと。
バーガーキングやマクドナルドといった外食チェーンでベーコンの使用が日常化されだすと、これまで低迷を続けていた豚バラの売上が急激に伸び始めました。食べ物の需要を0.1%上げることができれば、そのものの価格を十分に上げることができるのです。一時は450グラムで20円ほどになっていたベーコンですが、2006年には450グラムで110円ほどにまで価格が上昇。「もう1つの白肉」として売り出すことしかできなかった豚肉は、ベーコンによって新たなキャッチコピーを得ます。それが「Bacon Makes It Better(ベーコンでおいしくなる)」というもの。
このトレンドは現在でもまだ広がりを見せています。ハンバーガーチェーンではベーコンを使ったバーガーが次々と売り出され、料理人のマリオ・バターリ氏やデイビット・チャン氏は豚バラに着目した料理を提案してメディアの注目を集めました。ベーコンをジャムやクッキーにまで使い出した料理人もいます。バーガーキングではベーコン15枚の追加が100円で行われ、1050枚のベーコンを使ったハンバーガーを注文する人も出現。日本では販売されませんでしたが、ベーコンを使ったアイスクリームも販売されました。
Review: Burger King Bacon Sundae | So Good
http://www.huffingtonpost.com/so-good/burger-king-bacon-sundae-review_b_1600304.html
またインターネット上では「アイラブベーコン」Tシャツやベーコン包帯など、ベーコンを使ったグッズが登場。ハンバーガー本体がベーコンで見えなくなるほどベーコンが使われた「All Bacon Burger」のムービーの再生数は200万回を超えています。
All Bacon Burger - Epic Meal Time - YouTube
こうしてベーコンは現在の地位を獲得。2010年、わずか4カ月の間に豚バラは450グラムあたり150円ほどに価格が上昇し、ベーコンに至っては現在450グラムあたり約590円で販売が行われています。まだ価値は上昇傾向にありますが、近いうちに1980年代にトレンドとなった「健康面」での問題が再度叫ばれるようになるか価格が上がりすぎるかして、ベーコンのブームは落ち着きを見せると考えられています。しかし、その使い勝手のよさと味ゆえに市場から消えてしまうことはないだろう、と全国豚肉協議会のJoe Leatherさんは語りました。
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