なぜ「朝食は1日で最も重要な食事」と言われるようになったのか?

by m01229

「朝食を抜くのは体に悪い」と言われたり、「朝食に食べるといいもの」について論争が起こったりと、朝食は健康と関連して語られることの多い話題です。「昼食に○○を食べるのは体にいい」と言われることは少ないのに、なぜ朝食だけが「1日で最も重要な食事」としての地位を確立しているのか、データ解析サイトPriceonomicsが秘密に迫っています。

How Breakfast Became a Thing
http://priceonomics.com/how-breakfast-became-a-thing/

朝食の重要性が大きく取り上げられるようになったのは、1944年に行われたシリアルを販売する会社のキャンペーンが始まり。「Eat a Good Breakfast—Do a Better Job(いい仕事をするには良い朝食をとろう)」と名付けられたキャンペーンでは、ラジオで「栄養学の専門家は1日の食事のうち最も朝食が大切だと語っています」と広告を流すとともに、朝食の重要性をうたうプロモーションのためのパンフレットが食料品店に配られました。

しかし、シリアルが生まれる前の1800年中頃では、上流・中流階級の人々にとって「朝食はほかの食事とは違う」という認識はなく、昼食や夕食に食べられるようなステーキやカキ、ゆでた鶏肉などが取られていたとのこと。

by Eric Martin

そもそも、古代ローマ人は1日1食が健康のカギだと考えていたり、ネイティブアメリカンはセットの食事を取らず1日を通して食べ物を少しずつ摂取していたりと、文化によって食事のあり方はさまざまです。

例えば、中世ヨーロッパでは朝食は上流階級だけのものであり、労働者階級の人々は朝食を取らないことがほとんどでした。アメリカ入植者たちは食事を取りましたが、これは朝いちで何時間も働かなければならなかったためと言われています。

朝食が日常的になった理由の1つは、労働者が都市に流れ、労働がスケジュールによって管理されるようになったことです。1600年代になると、人々は1日中働くようになり、1日の1番最初の食事である朝食が非常に重要になってくることで「朝食」の習慣が生まれていきました。

洋風の朝食というとパン・チーズ・卵……というイメージですが、アメリカ人はステーキ・ポテト・ケーキなどをこよなく愛していたので、19世紀のアメリカでは朝食として夕食に食べるようなメニューが好まれていたと考えられています。しかし、朝食としてのステーキやケーキを摂取した結果、慢性的な消化不良に悩まされていた人も少なくありませんでした。そして、雑誌などで朝食問題が取り上げられるようになっていき、よりシンプルで軽い朝食が求められて「シリアル」が誕生したわけです。

by jeffreyw

現在は「砂糖を取りすぎる」ことなどが健康上の問題として挙げられているシリアルですが、誕生当初は健康食品として扱われていました。シリアルを発明したケロッグ社初代社長ウィル・キース・ケロッグの兄である医学博士のジョン・ハーヴェイ・ケロッグは、肉とスパイスの取りすぎが人間の体に悪影響を与えていると考えており、食生活を変えることでアメリカ人の健康状態を改善することができると信じていました。また、白パンよりも全粒のパンの方が健康にいいという考えで、1863年に開発された「granula(グラヌーラ)」というシリアルを改良して1890年代に「コーンフレーク」を生み出しました。

現在は砂糖がたっぷり使われているコーンフレークですが、生み出された当初は甘みがなく、「小麦の石」と形容されるほどの固さで、ゆえに食べやすいように牛乳に浸すというスタイルでした。おいしさが追求されていなかったコーンフレークでしたがアメリカでは大ヒットし、1903年までにはケロッグ創業の地であるバトルクリークに100以上のシリアル会社が作られたと言われています。産業社会の時間に追われた人々にとって、調理の必要がなく、朝食の健康問題を簡単に解決できるシリアルはまさに求めていたものそのものだったわけです。

by Bobbi Bowers

ケロッグ医師にとって当時のアメリカ人の食事は「異常」であり、生物学的にシンプルなものを食べるのが健康のカギだと考えていました。また、「自慰行為やセックスは『恥ずべきこと』であり、肉やスパイスの取りすぎによって無意識のうちに人間は性欲を刺激されている」という理論を支持していたケロッグ医師は、食生活によって健康だけでなく人間の性欲もをコントロールできると考えていたそうです。ケロッグ医師は敬虔なキリスト教徒であったため、「ビジネスを破壊してもかまわない」とシリアルのレシピも公開していたとのこと。

ケロッグ医師は弟のウィル・ケロッグと共にコーンフレーク会社を創業しましたが、「自然の食べ物」という点にこだわりを持つケロッグ医師とは逆にウィルは「味を改良するには砂糖を加えるべきだ」と考え、2人は決別。独立したウィルは現在のケロッグ社のルーツとなる会社を創業します。ウィルはのちにケロッグ医師によって「レシピを盗んだ」として訴えられることになりますが、砂糖と広告の力によってビジネスを成功へと導きました。

by terren in Virginia

また、子どもたちにアピールするためアニメ化されたマスコットキャラクターを使ったという点でも、シリアル業界はパイオニアです。1920年に騒がれた「ビタミン不足」を解決するための「健康食品」としてアピールすると共に、トニー・ザ・タイガーのようなキャラクターを使った広告で、シリアルは不動の地位を築いたわけです。

by Roadsidepictures

ただし、現在ではアニメ化されたマスコットキャラクターを掲げる食品は数多く存在します。では、なぜ現在でも朝食だけが「重要な食事」として注目を集めたり、バトルを引き起こしているのでしょうか。そこにはビジネスとしての「朝食」が非常に魅力的だった、という理由があります。

人々は毎回メニューを変える夕食・昼食とは異なり、朝食をルーチン化している傾向にあり、かつ朝食としての選択肢をブランドで決めることが多いと言われています。また、朝食を毎日手作りする人もいますが、多くの人が時間のない朝に求めているのは「手軽なパッケージ商品」です。パッケージ商品としてのシリアルはケロッグ医師が改良し特許も取得しましたが、技術を守ることに失敗したため、独占企業となることはできませんでした。同じような商品があふれかえっているため、シリアル企業の売上げは広告に左右されます。

つまり、広告に力を入れることで子どもたちの心をつかめば、毎日の朝食としてトニー・ザ・タイガーの「コーンフロスティ」が選ばれ続けることから分かるように、継続的な顧客が望めるわけです。

さらに、企業にとって、ここ数年の昼食時・夕食時の売上げは横ばいですが、朝食だけは右肩上がりになっており、だからこそマクドナルドやタコベルを始めとするファストフードチェーンは朝食メニューに力を入れています。「一度ルーチン化すると継続的な顧客を望める」「独占企業が存在せずに広告が大きな力を持つ」ことなどから、朝食は企業にとって大きな開拓地となっているのです。それも全て1944年に打ち出された「朝食は1日のうちで最も重要な食事」というキャッチコピーに端を発しているわけです。

現在は、朝食を抜くという行為が話題になったり問題視されたりしています。しかし、「朝食の重要性」は企業の広告によって広まりを見せたこと、そして「朝食は1日で最も大切な食事」と信じられている世界において、「朝食を抜く人が多い」ということもまた、ビジネスの大きなターゲットの1つとなっていることを、朝食を選ぶユーザーはしっかりと頭に入れておく必要がありそうです。

by Paul Townsend

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