元ドラッグ中毒者の「薬物依存症には専門治療が必要ない」という主張
By Thomas Marthinsen
厚生労働省の公式ページには「薬物依存症とは薬物使用をやめたくてもやめられない病気」と定義されていて、薬物依存症に陥っても「適切な指導を受け続けて、薬物を使わない生活を繰り返せば、社会人として何の問題もない生活をおくることができる」と記載されています。「適切な指導」とは専門施設での治療や自助活動を指しているのですが、重度の薬物依存症だったSzalavitzさんは「薬物依存症は年をとれば自然に治る」と主張しており、Substance.comで詳細を公開しています。
Most People With Addiction Simply Grow Out of It: Why Is This Widely Denied? | Substance.com
http://www.substance.com/most-people-with-addiction-simply-grow-out-of-it-why-is-this-widely-denied/13017/
ひどいときは1日にコカインとヘロインを約40回も使用していたというSzalavitzさんは、23歳のときにドラッグとはキッパリと手を切ることができました。コカインやヘロインは数あるドラッグの中でも依存性が高く、常用してしまうと回復が困難であるとされていますが、Szalavitzさんは専門の施設や治療を受けることなく依存症を克服できると主張します。
自らは専門の施設で治療を受けたものの、結局は年をとることで自然にやめられたというSzalavitzさん。その根拠はアメリカ依存症医学協会が公開しているデータ(PDF)にあります。4万2000人のアメリカ人を対象に実施された調査では、10代や20代のころに薬物依存症に悩まされていた人の半分は、35歳を迎える頃までに薬物の使用を一切やめて依存症を克服していることが判明しています。
By epSos .de
また、コカイン中毒の平均継続年数は約4年、大麻は6年、ヘロインは5年、アルコールは15年程度であることが調査からわかっており、何十年という長い間薬物依存症に悩まされている人の数が全体と比べると圧倒的に多いというわけではありません。
アメリカ依存症医学協会が公開している調査データの中でもSzalavitzさんが「最も興味深い」と主張するのは、薬物依存症を克服した人の内75%が専門の施設や治療を行うことなく、薬物依存を抜け出せたというデータです。75%の患者が専門の治療に頼ることなく回復したというデータは、薬物中毒が精神疾患の中で最も完治しやすい病気であるとも言えるそうです。
もし、薬物依存症が進行性疾患であれば、対象の年齢が高くなるほど治癒確率が低くなっていないとつじつまが合いませんが、調査データでは年齢が高くなるほど薬物依存症を完治する確率が上がっているというわけです。
By MattysFlicks
では、なぜ薬物中毒は治りにくい病気の1つとして認知されているのか、その理由は「医療レポートやメディアの報道や記事にある」とSzalavitzさんは主張。Szalavitzさんによると、医療レポートや報道に登場する患者は重度の薬物依存症に悩まされている人ばかり。どうしてかというと、治療をせずに依存症を克服した人はもちろん施設に来ないため、医療レポートには記録が残りません。また、そういった専門の施設を取材するメディアが面会するのは重度の依存症に陥っている患者だけということになります。さらに言うと、専門の施設に行かず自分で薬物依存を克服した人は記録に残らないため、医療機関もメディアも見つけられないという理由もあるとのことです。
Szalavitzさんは「もし薬物依存症が慢性疾患であるならば、専門の治療を行わずに依存症を克服した人が大勢いることは不可思議な現象になります。だから、薬物依存症の治療において本当に大事なのは、治療を受けて克服しようとしている重度の薬物患者ばかりを調査や研究の対象にせずに、専門の治療をしないで薬物依存から立ち直った人を調査し、どのような方法で克服したのかを調べること。それが今後の薬物依存症のキーポイントになるでしょう」と主張しています。
By @Doug88888
Szalavitzさんの主張はアメリカ依存症協会の調査データと自身の経験を元にしたもので、一概に肯定することはできませんが、Szalavitzさんは薬物依存症に関する本を多数手がけ、The New York TimesやWashington Postといったアメリカの著名な新聞社に記事を寄稿している人であり、Szalavitzさんの主張を薬物依存症に対するアプローチの1つとして知っておいて損はありません。
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