ゲームを各国言語に翻訳するローカライゼーションは本当にやる価値があるのか?
By Tamahikari Tammas
アメリカ製のゲームを日本で発売する際にゲーム内で使用されている英語を日本語に翻訳するなど、ソフトウェアやゲームを発売する言語環境に合わせるローカライゼーションは、日本での発売を海外より遅らせてしまう原因の1つ。RPG風タワーディフェンスゲーム「Defender's Quest: Valley of the Forgotten」の開発者であるLars Doucet氏は、それなりに予算と時間のかかるローカライゼーションが、本当に売上に貢献できているのかどうか、販売数データを使って分析し、その結果を公開しています。
Was Localizing Defender's Quest Worth It?
http://www.fortressofdoors.com/was-localizing-defenders-quest-worth-it/
「Defender's Quest: Valley of the Forgotten」はゲームのダウンロード販売を行うSteamといったサービスから購入可能で、発売開始から2014年7月までの総売上は65万6000ドル(約6730万円)で、総販売本数は19万5000本。
下記のグラフはSteamにおける、Defender's Questの月ごとの販売本数をグラフにしたもの。水色の部分が他の月の販売本数よりかなり多くなっているのは、その月に割引セールを行ったからです。90%もの割引セールを行った2014年1月には販売本数が大きく伸びています。なお、縦軸に正確な販売本数が記されていないのは、Steamが正確な数字の公開に難色を示したからだそうです。
Defender's Questは記事執筆現在、英語・ドイツ語・チェコ語・ロシア語・韓国語・日本語版が正式にリリースされており、ドイツ語と日本語はプロの翻訳家に外注しましたが、チェコ語・ロシア語・韓国語は熱心なファンが翻訳を作成してくれたとのこと。
こちらは月ごとの販売本数における各国の割合をグラフにしたもの。青色が英語を第1言語とする国々、赤色がドイツ、オレンジ色がロシア、緑色が韓国、紫色がチェコ、水色が日本を示しています。Doucet氏が注目すべきだというポイントは英語を第1言語とする国以外の割合が増加傾向にあることと、各国の割合には、国ごとにそれぞれ割合が一気に伸びる時期があること。例えば、水色の日本にだけ注視すると、2014年の2月から3月にかけて大きな伸びを確認できます。
なぜ各国の販売本数において起きた大きな伸びには時期に違いがあるのか、その理由を説明してくれるのが、下記の月ごとの販売本数の割合を各国ごとに色分けしたグラフです。グラフ上部の数字は、割引セールを行った時期の割引率を、アルファベットは各国語版が発売された時期を表わしています。グラフを見ると、67%の割引セールが実施された2013年の6月と8月、および90%オフのセールが行われた2014年1月では、オレンジ色であるロシアの割合が他の月と比べて多いことがわかります。
Doucet氏によると、発売開始から最初の5カ月におけるロシアの販売本数の割合は平均2.48%でしたが、2013年6月に5.1%を記録し、8月には9.8%を達成。ロシア語版がリリースされた2014年6月より前に販売本数が伸びたことから、ロシア市場には自国語版が出るかどうかは関係なく、また、ドルに対するロシアの通貨価値の弱さもあってか、値段の安さが販売本数に大きな影響を与えるとのこと。
SteamではDaily Dealと呼ばれる1日限りのセールが行われることがあり、Defender's Questも2013年5月と2014年1月に実施。Daily Dealを行った月だけの各国における販売本数の割合を示したグラフを見ると、2回目に行われたDaily Dealでは価格が90%オフになったことで、大きな伸びが確認され、プロモーションの重要性が伝わってきます。
しかしながら、韓国と日本において、最も大きな前月比成長率が確認されたのは2014年2月と3月のことです。この月の伸びは割引セールを行ったときとは比べものにならないほど。しかも、両言語版がリリースされたのは2014年6月のことです。一体2月と3月に何があったのかというと、2014年2月はDefender's Questのベータ版が非公式ながら韓国語のフォントサポートを開始。Doucet氏は「間違っている可能性もありますが、おそらくベータ版が韓国語フォントに対応したことに気づいた韓国人ユーザーが、ハッキングして入手したことで、韓国における販売本数が一気に伸びたのではないか」と推測しています。ただし、「2014年2月の大きな伸びがあったからこそ、韓国語版の正式リリースに踏み切れた」ともしています。
日本における販売本数が大きく増加した2013年3月には、Steamとは別のゲームダウンロード販売サイトPlayismでDefender's Questの日本語版の販売が開始されました。それから90日後に、Steamで日本語版をリリース。Doucet氏によると、PlayismとSteamで発売中のDefender's Questは同じエンジンを使用しており、さらに、PlayismのDefender's Questにはローカライゼーションに関する全てのファイルが含まれていたこともあり、翻訳だけを入手してSteamで販売されているDefender's Questの英語版に入れることは、さほど難しい作業ではなかったはずなので、日本における販売本数が伸びたのではないか、とのこと。
下記は各国の自国語版発売前・後における市場シェアと増加率を示した表です。全ての国において市場シェアは増加。その中でも特に増加が著しいのが韓国と日本。韓国と日本ではローカライゼーションが販売本数に大きな影響を与えていることがわかります。
上述した全てのデータを踏まえて、Doucet氏は「ドイツはアメリカに次いで大きいマーケットなので、ローカライゼーションによる市場シェアが少し増加しただけでも、投資した金額を回収可能です。ロシアでは自国語版リリースよりも割引セールが有効なので、プロモーションが最重要。日本と韓国は自国語版のリリースの効果が大です。ただし、各国語版は、プロモーションのことを考えると英語版と同時にリリースするのがベストでしょう」とまとめています。
ただし、ローカライゼーションには時間と予算がかかるのも事実。実際、Defender's Questには4万5000個もの単語があり、ローカライゼーションにかなり時間がかかったそうです。しかしながら、システムやUIを最初からローカライジングする前提で設計しておくと、時間を節約することも可能で、販売本数のことを考えればローカライゼーションを行う価値は大いにアリとのことです。
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