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インターネットサービスプロバイダが著作権侵害を放置したとして大手レコード会社と苛烈な闘争中、インターネットでの著作権侵害の責任は誰にあるのか?


アメリカで7番目に大きな電話通信会社であるコックス・コミュニケーションズは2019年に、「著作権侵害を繰り返すユーザーを完全に排除できず、海賊行為から利益を得ている」として大手レコード会社グループとの法廷闘争に敗れました。コックス・コミュニケーションズが判決を不当かつ過大であるとして控訴すると、複数のインターネットサービスプロバイダ(ISP)がコックス・コミュニケーションズの主張を支持する事態となり、「インターネットでの著作権侵害の責任はISPに求められるべきか?」と議論を呼んでいます。

ISPs Back Cox's Supreme Court Petition to Counter "Extortionate" Piracy Liability Pressure * TorrentFreak
https://torrentfreak.com/isps-back-coxs-supreme-court-petition-to-counter-extortionate-piracy-liability-pressure-240917/


インターネット上で著作物の海賊行為が認められる場合、権利者はしばしばISPに証拠を開示するよう求める申請を裁判所に提出します。ISPは裁判所の命令に応じて、違法なサイトを運営していたり違法なファイルのアップロード、ダウンロードを行う人を特定したりすることで、著作権侵害の疑いがある人物を特定して起訴することができます。また、ISPは違法に利用するユーザーのアクセスを強制的に停止することも可能です。

大手ISPであるコックス・コミュニケーションズは、2015年にBMG Musicから著作権侵害の「故意の共謀」として訴えられ、2500万ドル(約35億円)の損害賠償を命じられました。同様の訴訟はISPやソーシャルメディアが繰り返し直面しており、通信会社大手のVerizonが「著作権を侵害するユーザーのネットワーク利用を野放しにした」として訴えられたケースや、楽曲の著作権侵害ツイートを放置したとしてTwitter(現X)が損害賠償を求められたケースもあります。

Twitterが楽曲の著作権侵害ツイートを放置したとして全米音楽出版社協会から約350億円の損害賠償を求められる - GIGAZINE


控訴の結果、和解金の支払いに両者が同意したことで訴訟は取り下げられましたが、コックス・コミュニケーションズは非公開の和解金を課せられており、BMG Musicは「この結果に非常に満足しています。必要であれば他のISPに対してもためらいなく行動を起こします」と述べました。

BMG Musicとの和解が終了した数カ月後、コックス・コミュニケーションズはワーナー・ブラザーズやソニー・ミュージックエンタテインメントを含む53の音楽会社から同様の訴訟を起こされました。権利保有者らは「コックス・コミュニケーションズは著作権侵害を繰り返す者を完全に排除できず、この継続的な海賊行為から多大な利益を得ています。そのすべてはレコード会社や他の権利保有者の犠牲の上に成り立っています」と主張しました。一方でコックス・コミュニケーションズは「加入者の権利侵害については、ISPに責任はない」と反論しています。

最終的に、加入しているユーザーによる著作権侵害行為に関して、コックス・コミュニケーションズは「共犯的および間接的に責任がある」と認定され、総額10億ドル(約1400億円)の損害賠償が命じられました。この訴訟で多くの権利者を支援したアメリカレコード協会(RIAA)は「今回の評決は明確なメッセージを送っています。ネットワーク上の著作権侵害に対処する法的義務を果たさないISPは、責任を問われることになるでしょう」と声明で述べています。


コックス・コミュニケーションズは判決を受けて「損害賠償額は不当かつ過大であり、当社は控訴し、積極的に自らを弁護するつもりです。当社は、コンテンツと情報に満ちた世界につながる強力なツールを顧客に提供しています。残念ながら、一部の顧客は、そのつながりを不正行為に利用することを選択しました。当社はそれを容認しません。当社はそれについて教育し、それを抑制するよう最善を尽くしますが、他者の不正行為に対して責任を負うべきではありません」と主張しました。

その結果、第4連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は、「依然としてISPは著作権侵害加入者に対する共同責任を負いますが、間接的に著作権侵害をしているという判決は覆される」として、10億ドルの賠償金判決は取り消されました。CAFCによると、権利団体はコックス・コミュニケーションズが著作権侵害から直接利益を得たことを証明する必要がありましたが、権利侵害をしているユーザーがISPに支払う利用料は「著作権侵害によってISPが利益を得ている」とはいえず、直接的な金銭的利益の証拠は示されなかったとのこと。

コックス・コミュニケーションズは「この判決は、ISPとより広範なアメリカ国民に広範囲にわたる影響を及ぼします。下級裁判所の判決は、ISPの責任を過度に拡大し、国内で最も厳しい二次的責任制度を作り出しました」と声明で述べています。コックス・コミュニケーションズが主な争点としたのは2点あり、「特定のアカウントが海賊行為をしていると把握しながらアクセスを強制的に停止しなかったという理由だけで、積極的に侵害を助長したという証拠がないにもかかわらず、ISPが責任を問われるのか」「当初の作品1点につき15万ドル(約2100万円)という損害賠償額は、通常『故意の』侵害に対してのみ認められる金額であり、加入者の海賊行為について知っていることが『故意』にあたるのか?」という主張です。


一連の法廷闘争はすべてのISPに影響を及ぼすもののため、複数のISPが最高裁判所に法廷助言意見書であるアミカス・キュリエを提出し、コックス・コミュニケーションズの主張を支持しました。アミカス・キュリエの中では、「X(旧Twitter)でテロリストが勧誘や資金調達を実施したことに、Xは責任を負わない」という過去の最高裁判決を引用しながら「この裁判所は過去の判決で、『通信提供サービス』には、『顧客がサービスを不法な目的で使用していたことを発見した後で顧客と契約を解除する義務はない』と説明しました。そして、ソーシャルメディア企業がテロリストに日常的な通信サービスを継続して提供することは、単なる受動的な不作為であり、有責な幇助には当たらないと判断しています」として、ISPと著作権侵害も同様だと主張しました。

最高裁判所がISP集団によるアミカス・キュリエを受けてどう判断するか、また再審の結果を受けて大手レコード会社グループが異議申し立てをするかどうか、取り下げられたコックス・コミュニケーションズの損害賠償額はどこまで引き下げられるかなど、記事作成時点では未定です。ISPを過度の責任から保護してインターネットの将来を守る必要性を主張するISP側と、ISP側に強い責任を課して権利侵害をできるだけ抑えたい権利者側との闘争は、判決結果が重要な意味を持つと注目されています。

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in ネットサービス, Posted by log1e_dh

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