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中東のオアシス「死海」が直面する死の危機とは

By israeltourism

死海はアラビア半島の北西部に位置する塩分濃度の高い巨大な湖です。毎年何万人もの観光客が訪れ、死海や周辺のリゾート地で遊んでいくので、観光客相手の商売が死海周辺に住む人々の生計の手段となっています。そんな死海で現在起きている危機的状況とは一体どのようなものなのでしょうか。

The Dead Sea is dying: How sinkholes, habitat destruction, and low water levels are destroying the Middle East’s most famous body of water. - Slate Magazine
http://www.slate.com/articles/news_and_politics/moment/2013/09/the_dead_sea_is_dying_how_sinkholes_habitat_destruction_and_low_water_levels.html

◆死海
全長60マイル(約97キロメートル)を超える長さがあり、イスラエル、ヨルダン川西岸地区、ヨルダンをまたがる湖が死海です。海抜マイナス1388フィート(約423メートル)の位置に存在し、死海と呼ばれていますが海ではなく、世界で最も低い位置にある「湖」です。

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死海はヨルダン川の末端に存在し、死海の水には塩気がありますが海水ではありません。死海には他に6つの川から水が流入してきますが、この水には莫大な量の塩を含む鉱物が沈殿しており、さらに死海には水が出ていく経路がありません。死海の湖面から蒸発する水の量と、ヨルダン川などから流入する水量には釣り合いが取れているので、湖内の水は北大西洋の10倍以上の塩分濃度を示す、微生物以外どんな生物も生存することができない水となります。

By nborun

この死海近郊には過去50年間に渡って多くの人々や産業が集まってきました。ヨルダン、イスラエル、パレスチナ3つが合わさった人口は、約530万人から約4倍の2000万人にまでふくれあがっています。これらの国々とレバノンやシリアは、ヨルダン川とその支流を利用して生活を営んできましたが、その代償として死海周辺で複数の問題が起きています。

◆シンクホール
シンクホールとは、なんの前触れもなく突然地面に空く恐ろしい穴のことです。

By horslips5

イスラエルのアイン・ゲディは死海の西に位置するオアシスです。地質学者でありシンクホール研究の第一人者としてもイスラエルで広く知られているEli Razさんは、10年前に早朝のルーティンワークとしてに1人でアイン・ゲディにあるキブツ(集団農場)を周っていた際、不吉な轟音を聞き、何かに飲み込まれる感覚に襲われました。「私は深く深くに落ちていき、生き埋めになったことに気づきました。本能的に上方向に向かって土を掘り始め、幸運なことにそこまで深く地球の底に落ちているわけでは無く、岩場の上にいる、ということが分かりました。さらに私は呼吸が可能で、塵が宙を舞っていたことで上から太陽の光が差していることも分かりました。しかし、頭上に土砂が崩落してくるのでは無いかとひどくおびえており、少し動くことでさえ恐れていました」と、Razさんはシンクホールに呑み込まれた際の出来事を語ります。「私は荷物の中に、カメラと懐中電灯、ペン、数枚の紙、そしてトイレットペーパーを持っていましたが、水は持っていませんでした。さらに携帯電話も持っていたのですが、地底深くでは電波がつながりませんでした」と付け加えます。

By Nicole Hernandez

この地域のシンクホールは「淡水と地表の真下に埋まっている塩層とが相互に影響し合うことによって発生する」とRazさんは説明します。淡水は塩を溶かし、塩層の存在していた地下に大きな空間を作り出します。地下に大きな空間ができた状態から地表が崩落することで、シンクホール発生時には突然穴ができるように見える、という訳です。さらに科学者たちによると、いつどこにシンクホールが発生するかを正確に予測することは不可能とのこと。さらに驚くべきことには、死海の周辺ではほとんど1日1回のペースでシンクホールが出現しています。最初のシンクホールは1980年代に現れ、1990年までにおよそ40のシンクホールが現れました。しかし現在では、死海のイスラエル側地域だけでも約3000以上のシンクホールが存在する、とRazさんは推測します。

By Vanessa Pike-Russell

「シンクホールは人間の無責任な行動により発生します」と言うのはRazさん。「30年間以上シンクホールについて研究を続けてきて、我々が死海の状況に対して何らかのアクションを起こさなければ、シンクホールはそのうちに我々を呑み込んでしまうだろう、と常に警告してきました」実際に多くの人々が死海周辺でシンクホールに落ちて深刻なケガを負っていますが、このシンクホール対策は非常に困難なため死海の周辺に住む人々の大きな悩みの種となっているようです。

さらに、多発するシンクホールの存在は、死海周辺へ来る観光客の足を遠ざける原因となるのでは、とも危惧されています。観光事業は死海の北側にある6つの地域における収入の40%を占めています。これらの観光施設のほとんどは、1967年に発生した六日戦争でイスラエルがヨルダン川西岸地区を征服した後に設立されたとのこと。さらにヨルダンではこの死海周辺の観光事業に多額の資金を投資していたり、パレスチナでは将来的にホテルやフィットネスクラブを開発する計画もあるように、この死海周辺の観光事業が暮らしの中心となっています。

By Roba Al-Assi

このように、シンクホールの存在が死海周辺で暮らす人々の収入源と命を脅かしている、とのことです。

◆水位減少
数世代前には年間3430億ガロン(約1兆3000億リットル)の淡水がガリラヤ湖から死海に流入していました。しかし、現在ではガリラヤ湖からの1年間に流入する淡水量は264億ガロン(約1000億リットル)未満となっています。

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イスラエル最大の水運搬プロジェクトNational Water Carrierでは、ガリラヤ湖から国中に水を運搬していたり、ヨルダンでは国中の農地や水道への水の90%以上をキングアブドラ運河(ヨルダン川に合流する運河)使って供給していたり。さらにシリアではヨルダン川の北の支流であるヤルムク川から水を吸い上げています。また、死海の南側に位置するIsrael Chemicals CompanyとJordanian Arab Potash Companyは、炭酸カリウムやマグネシウムなどの鉱物を抽出するために死海の水を大量に使用しており、こういった死海および死海に流れ込む水の大量利用が、死海の水位減少の30~40%を占めるとのこと。これらの結果、死海は毎年3フィート(約0.9メートル)以上水位が減少している危機的状況に陥っています。

By orientalizing

「人間の干渉が死海を死に追いやります」と語るのはBen-Gurion Universityの教授で、イスラエルの環境履歴や環境とエコロジーの専門家であるAlon Talさん。最近では砂漠にヘブライ人の農地を作るために、死海から水を供給していますが、こういった行いが死海を危機的な状況に追いやるとのこと。イスラエルにあるフラ湖では、周辺の湿地を農地にするために強引に水を吸い上げられ、この強引な施策のため自然バランスが大きく狂いました。そんなフラ湖とは異なり、死海は完全にイスラエルの管理下にある訳ではありません。そして、死海の存在する中東は国際的な連携の難しい地域であり、死海を救済する方法はとても複雑なものとなってしまう、とTalさんは言います。

この減少していく死海の水は他の問題も引き起こしています。わずか5年前に死海の水際沿いに造園されたキブツが、現在では水際から13ヤード(約12メートル)も離れていたり、死海の南側に位置する5つ星のリゾートスパであるル・メリディアンやプリマ・ホテルは浸水の危機に瀕しているといいます。浸水の危機に瀕するホテルたちは、炭酸カリウムを抽出するIsrael Chemicals Companyなどの工場群の近くに存在しており、この工場群が行う抽出作業の副産物として出る大量の塩が湖の底に沈殿、これにより死海南側の水位が上がり、ホテル群は浸水の危機に見舞われているようです。

By Gashwin Gomes

この事態に危機感を抱いたホテルの経営者たちが死海南側の工場群とイスラエル政府を訴え、工場群が死海に沈んだ大量の塩を採掘する、ということで合意しています。しかし採掘には約10億ドル以上のコストがかかり、塩をどこから採掘してどこに持っていくのか、などの詳細はまだ未定。また、この塩が無くなってしまえば、死海のユニークな生態系を破壊することにもつながる、といわれており対応が非常に難しい問題であることが分かります。

◆死海の死を回避するために
死海周辺の自然環境が破滅していくことを回避するために考えられている1つの手段として、国際舞台では見られなかった程の大規模な公共事業を行う、というものがあります。今年世界銀行は、紅海から死海に水を補充する、という大胆な計画を立案しました。このアイディアはこれまで何度も提案されてきました。1977年のオイルショックに直面したイスラエル政府が、業務計画(紅海と死海をつなげるためのプラン)を提出するために公式委員会を設立しましたが、これは実現しませんでした。

死海と紅海を運河でつなぐ、という計画は2002年に南アフリカのヨハネスブルグにて開催された地球サミットでも提案され、多くの人を驚かせました。この提案ではバイパス運河の構築が実現可能かどうかの調査や、環境調査、その他の調査を丸ごと世界銀行が行うこととなっていたためです。シモン・ペレス外務大臣(現イスラエル大統領)は、イスラエルを不安定な国際的ポジションから脱出させて「新しい中東」とするのに良い機会と考え、この大規模かつ最先端の世界的な共同プロジェクトに飛びつきます。

By NASA's Marshall Space Flight Center

このプランでは、紅海から死海へ毎年5280億ガロン(約2兆リットル)の水を供給するために、111マイル(約180キロメートル)のトンネルとパイプがヨルダンを通る必要があります。運河を作成することで、ヨルダンは水力発電所や脱塩工場が建設可能となり、これらは多くの利益をヨルダンにもたらし、イスラエル側はヨルダンから来た水を死海に流入させることで死海を保つことが可能となる、と考えられています。

By Jan Smith

ヨルダンとイスラエル両国にとって有益なプロジェクトのように思えますが、一部の環境保護論者は「このプロジェクトでは紅海が死海に死をもたらすだけだ」と発言しており、彼らの意見によると、紅海と死海の水が混ざり合えば、死海が赤みがかった色に変化して、石こうが死海の水面を覆うことになるかもしれない、とのこと。これが起きた場合の生態系への影響は未知数ですが、観光客が減少することは確実視されています。そして、紅海と死海の間の地域では頻繁に地震が発生している、ということもこのプロジェクトを妨げる一因です。地震が起きれば地下を流れる真水を供給するラインに塩水が流れ込むことにないかねない、と考えられています。

また、ヨルダン・イスラエルの両政府はこのプロジェクトを支持していますが、パレスチナは自分たちの死海に関する利権を無視している、と主張。パレスチナ自治政府も紅海と死海をつなぐ計画にはおおむね合意していますが、脱塩工場がEin Feshkhaに建設され、ヨルダン川西岸地区の一部をイスラエル側から独立させることを認めない限りこの計画に全面的に賛同することはない、とパレスチナ自治政府の関係者は言います。

イスラエル国内でもこのプロジェクトに対しては大きく意見が分かれており、環境問題や外交問題を解決できたとしても、紅海と死海をつなぐプロジェクトには150億ドル(約15兆円)から170億ドル(約17兆円)という莫大な費用が必要となっており問題は山積み状態です。しかし死海が死に向かっており、何かしらの解決策を必要としていることも事実。現在の美しい死海が失われないように最善の決断が選択されることを願いますが、果たして……。

By WaterpoloSam

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in メモ, Posted by logu_ii

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